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第12話 歌詞の意味

「とーまーつーさん、今日はいろいろとありがとうございました」

皆を駅に送る途次、種田が不意に話しかけてくる。


「喜んでもらえたのなら何よりです。制作データを見るのって、音楽が好きな人にとっては垂涎ものですもんね」

「んー、勿論それはそうなんですけど、私にとって一番うれしかったのは、私が最も尊敬する作家さんの制作風景を知ることができて、さらには、私がアイドルをやるきっかけになった曲のことを深く知ることができたことなんですよ」

種田が感慨深げに呟く。


「そうなんですか?そこまでの役割を果たしていたとはちょっと驚きです」

「ここだけの話なんですけど、実は私、昔付き合っていた人がいたんですけど振られちゃったんです。恥ずかしい話ですけど、あの頃は恋が自分の世界の大半を占めていたので、振られた時は相当落ち込んだんですよ。そんな折に、あの曲を聴きまして。奇をてらわないストレートで直情的な歌詞がすごく刺さったんですよね」

快活さを持ち味とする種田の表情が物憂げなものになる。


「……たしかに、あの曲は、過去の失恋を振り切ろうとするのをこっぱずかしいほどに直接的に歌ったものですもんね」

「あの歌詞のおかげで、すっぱり気持ちを切り替えることができたんで、戸松さんには感謝しかありません」

想定していなかった種田の言葉に思わず面食らう。

曲タイトルを冠するアネモネは、当然ながら花言葉が示すように未練の象徴として描かれている。

歌詞を読み進めていくと、ラスサビにおいて未練を断ち切ったような記述ぶりが表面的になされているが、抱えていたアネモネの花を最後まで手放すことなく終わっている。

歌詞に思いをはせるうちに、ふと香坂の顔が思い浮かぶ。

(しずくはこの歌詞をどう解釈したんだろう……)

とはいえ、香坂に確認できるような内容でもなく、悶々としてしまう。


「それで、なんでそれがアイドルを始める端緒になったんですか?」

頭の中をめぐり始めた雑念を振り払うべく、話を本題へ戻す。


「私はこうやって歌のおかげで立ち直ることができたので、今度は私も歌で誰かを励ましたいなって思ったんですよね。とはいえ、私は曲や歌詞を作る能力はないので、せめて歌う立場でそれができたらと思っていた矢先、KYUTEの話が持ち上がったので、それに乗っかったワケです」

「へー、優美がKYUTEに入った理由ってそうだったんだ。戸松さん、優美の人生にすごく影響を与えているじゃないですか」

いつから聞いていたのか、香坂が会話に入り込む。


「そうなんですよー。戸松さん、責任取ってくださいね」

種田が冗談めかして応酬する。


「いやいや、冗談でもアイドルがそんなこと言わないでくださいよ。どこに人の目があるか分からないですから」

香坂を横目で流し見しつつ、冷や汗を垂れ流す。


「KYUTEを引退したあとに、戸松さんがまだ結婚してなかったら貰い手候補として検討してくださいね」

悪戯な表情ではにかむ種田は、これまで戸松が見てきた表情の中で一番魅力的であった。


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