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第6話 休息

◆登場人物おさらい


北山惟子きたやまゆいこ

作詞家。28歳。

田中の案件で、戸松と仕事のタッグを組む機会が多い。

KYUTEのデビューシングルで、作詞を担当することになった香坂をサポートすることとなる。


座席に戻ったのちは特に何事も起きず、和やかな雰囲気のまま解散と相成った。


帰宅した戸松は即座にベッドへ身を投げる。

(ああ……肉体的にも精神的にもグッと疲れた……)

既に重くなった瞼に抗いつつ、2時間後にタイマーをセットする。


目が覚めたらシャワーを浴びて、編曲作業を開始する。

幸いなことに、寝不足気味の頭には余計なことを考えるだけの余力もなかったため、ひたすら作業に没入することができた。

一心不乱に作業した結果、レコーディングの翌々日には2曲ともDAW上での作業を完結させ、その翌日には生音源に差し替える楽器のレコーディング、そしてミックスダウンも終えることができた。


「お疲れ様、今回は本当に頑張ってくれてありがとう。俺が言うのもアレだが、とまっちゃんのここまで疲れた様子はさすがに見たことないよ。あとは全部こっちでやっておくんで、ゆっくり休んでくれ」

作業終了間際にスタジオを訪れた田中の言葉に従い、自宅に戻りベッドへ潜ったところ、意識が戻ったのは半日後であった。


『おつかれー、ようやく仕事一段落したみたいね。どう?飲みにでも行かない?』

携帯をチェックすると、作詞家の北山惟子からメッセージが届いている。

今回の楽曲制作で香坂の作詞を手伝ったのが北山であり、長らく仕事を共にしてきた戸松にとっては最も気兼ねなく接することができる異性であった。

共作した楽曲が仕上がった際には、二人で乃至田中も含めた三人で飲みに行くことが半ば恒例行事と化していた。


『お疲れ様です。いいですね、ぜひ行きましょう』

返信後、身支度をし自宅を出発する。

二駅分電車に揺られ、二人の普段からの行きつけの居酒屋に到着すると、既に北山はビールジョッキを8割空けていた。

「やあやあ、来たな青年よ。遅かったじゃないか。もうこちらは始めさせてもらっているぞ」

「いやいや、返信してから1時間と経っていないですよ。どんだけ酒に飢えていたんですか」

「まぁまぁ、とりあえず今回はお互い大変でしたってことで。かんぱーい」

グラスを交わし、黄金色の液体でのどを潤す。


「いやあ、今回の制作はマジで綱渡りだったね。しずくちゃんがA面の作詞を頑張ってくれたおかげで、私が作詞したのは実質B面だけだったからまだマシだけど、智久君はフルフルでの作業でしょ。私だったら逃げ出してるね」

北山があっけらかんと笑う。


「今回はマジで地獄でした。今朝方にやっとアレンジが仕上がって、そのあとはもう爆睡ですよ」

ひとしきり愚痴で盛り上がったのち、話題はKYUTEへと移る。


「で、どう?彼女たちの印象は」

「バランスがとれていていいユニットだと思います。舵取りさえちゃんとすれば、いいところまで行くだろうなぁと」

「ふーん、なるほどねぇ。みんなの性格とかはどうなの?上手くやっていけそう?」

「……今のところは。あ、そういえば俺の熱心なファンが一人いました。割とじゃじゃ馬気質で扱いに困ることもありますけど、妹分ができたみたいで嬉しいですね」

「作曲家ファンとはなんとマニアックな。いい曲作って喜ばせてあげなきゃね。私が関わったのはまだしずくちゃんだけだけど、彼女もなかなか面白いよね」

「惟子さんから見た彼女の印象はどうですか」

「んー、面白い子だよね。冷静沈着に見えるけど、書いた歌詞には激情にあふれているし、内容をいろいろ聞いて深堀してみると実は直情的だったことが分かったし。職業作家としての視点では非常に魅力的ではあるけど、アイドルという立場では危うさを孕んでいるなって印象。私は外様だからあんまりとやかく言える立場じゃないけど、田中さんに上手くコントロールしてもらった方がよさそうな感じ」

北山の話に思わず顔をしかめる。


「とにかく、しずくちゃんは精神的に結構脆そうな感じがするのよね。この先人気が出たらアンチも絶対に出てくるし、しばらくは耐えられたとしても、ある日突然ぽっきり折れちゃう姿がありありと予想できちゃうのよね。何か精神的な支柱みたいなものがあればいいんだけどね。まぁ、そういった精神的な危うさは智久君、キミにもあるんだけどね。まぁ二人上手くやっていけることを期待しているよ。とはいっても、君の立場上、あんまり一人に肩入れするわけにもいかないんだろうけどね」

北山も酔いが回ってきたのか、口が軽くなってきている。


その後話題はほかに移り、程なくお開きと相成ったが、戸松の頭には北山の言葉が一晩中こびりついていた。


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