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王の証  作者: Hiroko
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「あなたの名前が聞きたいわ」ある日の夜、岩穴の外に見る空に星が輝き始めると、ツバメはそう言った。

「ナマエ? ナマエとはなんだ?」

「名前よ。あなたを呼ぶ時に使う言葉よ」

「そんなものはない。俺は鷲だ。空の王だ。それだけでいい」

「駄目よ、そんなの。いつまでも『あなた』なんて呼ぶのは嫌だわ。ちゃんと名前で呼びたい。お母さんは、あなたのことをなんて呼んでいたの?」

「何とも呼んではいない。ただ『空の王になれ』と、それだけを言った」

「そう、そうなのね」

「お前には名前と言うものがあるのか」

「ええ、もちろんよ? アーリアと言うの」

「アーリア……」

「気に入った?」

鷲は黙り込んで目を逸らした。

「気に入ったみたいね」

「何も言ってない」

「あなたは私の言ったことが気に入ったり嬉しかったりすると、黙り込む」

「勝手に決めるな」

「次はあなたの番よ?」

「何がだ」

「名前を決めるの」

「そんなものはいらん」

「ウラノスと言うのはどう?」

鷲はまた何も言わなかった。

「気に入ったみたいね。空と言う意味よ」

「勝手に決めるなと言っている」

「私は自由よ。どこに行くのも、いつ行くのも、あなたの名前も、自由に決めるわ」

「その羽でか」

「その羽?」そう言ってアーリアは動かない自分の左の羽を見た。

「その羽で、どうやって自由に空を飛べる」

「飛べるわよ。この羽でも、私は自由にどこにでも行ける。私はツバメですもの」

「馬鹿なことを」

「そう思う?」そう言うと、アーリアは動かない羽を引きづり、不器用に足で歩きながら岩穴の端まで行った。

鷲は何をする気だと思いながら、その様子を見守った。

「見ててね?」そう言い残すと、アーリアは岩穴から飛び降りた。

「何をする!」鷲はそう叫ぶと、鉤爪が割れるほどの力で岩を蹴り、岩穴から外に飛び出した。

崖を見下ろすと、右の羽を必死にばたつかせながら、かえでの種のようにひらひらと回りながら落ちて行くアーリアが見えた。鷲は目が良かった。一キロ先の獲物でさえ空からとらえることができる。黒く艶のあるアーリアの体は、みるみる地上の闇の中に吸い込まれるように落ちて行った。

鷲は大きく地上に向かって羽ばたくと、狩りの要領で翼をたたみ、瞬く間に時速二百キロを超えるスピードで急降下した。

小さく柔らかいアーリアの体を空中で傷つけることなく捕まえるのは、狩りでウサギを捕まえるより数百倍難しかった。下に突き出した岩が見えた。針葉樹の木々も見える。捕まえる瞬間羽を広げ、アーリアの落ちる速度までスピードを落とすと、脚をアーリアに向け突き出した。鉤爪でアーリアを傷つけるわけにはいかなかった。そっと、そっと足の付け根でアーリアを掴み、羽をさらに広げてスピードを落とした。だがそれがいけなかった。なんとかかわしたつもりでいた突き出した岩に左の羽をぶつけ、バランスを失った。鷲はアーリアの体を素早く自分の腹の下に抱え、羽をたたんで針葉樹の木々の間に突っ込んだ。




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