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王の証  作者: Hiroko
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夜の空を飛ぶのは初めてだった。

吸い込む空気に肺が凍り付きそうだ。

太陽の下なら一キロ先の獲物まで見ることができる。

けれど今は地上を見下ろしても見えるのは深い暗闇だけだ。

空には皓皓こうこうと月が輝いていた。

月は小さく輝く星々を従え、そのあまりの輝きに、眩しさに、美しさに、鷲は嫉妬した。

月は夜の空の王だと思った。

月に比べれば、自分はなんと小さき王であるか。

なんと低いところを飛んでいるのか。

自分はいつか、あの月よりも高いところを飛び、真の王になれるのだろうか。


鷲はいつものように麓に降りると、針葉樹の林を抜け、川の音のする森へと降り立った。

目が見えないわけではない。

けれどいつもとは勝手が違った。

様々な音が耳につく。

虫の音や、小動物の足音、川や風の音、それらすべてが森のざわめきとなって耳に届く。

不器用に木々の間を縫って地上に近づいた。

自分はなぜこんなところにやってきたのか、鷲は自問した。

夜明けが待てないほど腹が減ったわけではない。

ああ、ああ、そうだとも。腹など減ってはいない。

だが俺は、なんて馬鹿らしいことのためにこんなところにやってきたのか……。

それに俺は、こんなところにきてどうすればいいと言うのか……。

不意に鋭い気配に目を向けた。

静かに空気を裂きながら、何かが近づいてくる。

と、それが何者かを見定める間もなく、相手は爪を立て向かってきた。

羽を広げ、くちばしを向け、威嚇する。

「おーとっと、待ちな。何もしやしねーよ」そう言って隣の木に降り立ったのは巨大なフクロウだった。

鷲はフクロウを見るのが初めてだった。

丸く変わった顔をしていた。

まるで羽の生えたサルのようだと思った。

けれど自分と同じように鋭い鉤爪を持っている。

嘴もあった。

「誰だ?」と鷲は尋ねた。

「そりゃこっちのセリフだ。あんたこそ、何でこんなとこにいる。ここは夜の森だ。お前さんのくるところじゃあるまい」

鷲は何も言えずにじっと羽の生えたサルを睨みつけた。

「そんな驚く顔をするこたないだろう。見たとこ、フクロウを見るのは初めてらしいな。昼間はあんたが王様かも知れないが、この夜の森じゃあ、俺が王だぜ」と羽の生えたサルは言った。

「探し物をしている」

「ほう? 何を探してる。ちんけなネズミを捕りに来たわけでもあるまい」

「お前に言う筋はない」

「そりゃ別に構わないが、あんたこんなところに来てそいつを探せるのかい。こっちは親切で言ってるんだぜ?」羽の生えたサルはからかうように首をくるくると回し、顔を突き出して言った。

鷲は真意を読み取れず、訝し気な目でさらに睨みつけた。

「信用しないみたいだな。まあ好きにするさ」と、羽の生えたサルは来た方を向き、飛び立とうとした。

「待て……」

「ん? なんだい。俺に用はないんじゃないのかい」羽の生えたサルは、首だけをこちらに向け言った。

「探し物をしてる」

「そりゃさっき聞いたよ」

「食い物だ」

「はっは!」と言って羽の生えたサルは笑い、体をこちらに向けた。「こんな夜更けに鷲が腹を減らして森にネズミを狩りに来たのかい。驚いたね!」

「ちがう……」

「ちがう? 何が違うね?」

「俺の……、メシではない」

「ん? 俺のメシでないなら、誰のメシだい」

「つ……、ツバメだ」

「ツバメ? なんだそりゃ。お前さん、ツバメのメシを探しに来たのかい?」

「そうだ……」

「あんたが食うのかい」

「いや、違う」

羽の生えたサルは、次の言葉が見つからないのか、自分で何やら考えているのか、また黙って首をくるくると回し、毛づくろいをして見せた。

「酔狂な鷲だぜ。まあいいさ。ちょっと待ってな」そう言うと、羽の生えたサルは反対を向くと、音もさせずに飛び立った。






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