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鷲はウサギを岩穴に持ち帰ることにした。
大きな獲物を得た時は、決まって巣で食べることにしていた。
死んだウサギは掴んだ鉤爪の下でぐったりと柔らかかった。
時折ウサギから漂ってくる血の匂いにたまらなく空腹を覚えた。
岩穴に戻ると、鷲は耐え切れず狩ってきたウサギの腹を引き裂いた。
生温かい血と肉が、鷲の胃袋に流し込まれた。
ツバメは朝と同じ場所で同じ姿で横たわっていた。
もう鷲の気配に顔を上げることもしなかった。
きっとこのまま冷たい岩に体温を吸い取られ、やがて同じ温度になって死んでしまうのだろうと思った。
腹を空かせて寒さに死んでいくことは、どれほどの不安だろうと鷲は想像した。
空の王となった自分には関係ないことだ。
そう思って鷲はウサギの裂かれた腹にまた顔を埋めた。
同じ岩穴の中に生きたツバメがいることに、鷲はどうにも居心地が悪かった。
夕刻になると、もうどうせ生きてはいまいと思い、鷲はツバメを岩穴の外に捨てることにした。
ツバメはやはり、とても小さかった。
こんな小さなものが、自分と同じ形をし、空を飛び、顔を上げて自分を見つめていたことが不思議に思われた。
小さな脚を見た。
小枝のように細く脆そうな脚だった。
そんな小さな脚にもやはり、自分と同じ爪が生えていることにまた驚いた。
何と小さな爪か。
しかしこんな爪では、何者も捕らえることはできないだろう。
鷲はくちばしでその羽を持ち上げた。
するとツバメは何かを思い出したかのように深く呼吸をした。
生きていたのか。
しかしもう話すことも、目を開けることもなかった。
鷲はやはり今度も、自分でもなぜかわからないまま羽を膨らませると、その下にツバメを入れて温めた。
夜になると、腹の下でツバメが少し動いた。
また何か話をするのかと、鷲はそっと腹の下のツバメを見たが、目を閉じたまま何も語ることはなかった。
ツバメの言う通り、いくら寒さに耐えたとしても、やはり空腹ではそのうち死ぬのだろう。
かまわない。心の中でそう思った。
鷲は心を別のところに移そうとした。
今日はいい狩りをした。
ウサギの肉は柔らかく、喉を潤す血とともに、身体を腹の中から温めた。
思い出し、再びその快楽に酔いしれた。
鷲はそのまま眠りにつこうとした。
いつもなら、満たされた腹に心地よさを感じ、深い眠りに落ちて行くのは容易いことだった。
けれどもやはり、今夜はどうも、居心地が悪かった。
原因はわかっていた。
腹の下に、こんなやつがいるからだ。
目ざわりだ。
やはり今すぐ食ってやろうか。
心の中でそうつぶやいたものの、まったく食欲はわいてこなかった。
鷲はしばらく目を閉じていたが、どうにも眠りは訪れなかった。
そのうちせっかく食ったウサギの肉も胃袋から消え、後はどうにもじっとしていることができなくなった。
鷲は立ち上がり、何かを振るい落とすように全身を震わせると、そっとツバメを残し、岩穴から夜の空へと飛び立った。