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王の証  作者: Hiroko
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4

鷲はウサギを岩穴に持ち帰ることにした。

大きな獲物を得た時は、決まって巣で食べることにしていた。

死んだウサギは掴んだ鉤爪の下でぐったりと柔らかかった。

時折ウサギから漂ってくる血の匂いにたまらなく空腹を覚えた。

岩穴に戻ると、鷲は耐え切れず狩ってきたウサギの腹を引き裂いた。

生温かい血と肉が、鷲の胃袋に流し込まれた。

ツバメは朝と同じ場所で同じ姿で横たわっていた。

もう鷲の気配に顔を上げることもしなかった。

きっとこのまま冷たい岩に体温を吸い取られ、やがて同じ温度になって死んでしまうのだろうと思った。

腹を空かせて寒さに死んでいくことは、どれほどの不安だろうと鷲は想像した。

空の王となった自分には関係ないことだ。

そう思って鷲はウサギの裂かれた腹にまた顔を埋めた。


同じ岩穴の中に生きたツバメがいることに、鷲はどうにも居心地が悪かった。

夕刻になると、もうどうせ生きてはいまいと思い、鷲はツバメを岩穴の外に捨てることにした。

ツバメはやはり、とても小さかった。

こんな小さなものが、自分と同じ形をし、空を飛び、顔を上げて自分を見つめていたことが不思議に思われた。

小さな脚を見た。

小枝のように細く脆そうな脚だった。

そんな小さな脚にもやはり、自分と同じ爪が生えていることにまた驚いた。

何と小さな爪か。

しかしこんな爪では、何者も捕らえることはできないだろう。

鷲はくちばしでその羽を持ち上げた。

するとツバメは何かを思い出したかのように深く呼吸をした。

生きていたのか。

しかしもう話すことも、目を開けることもなかった。

鷲はやはり今度も、自分でもなぜかわからないまま羽を膨らませると、その下にツバメを入れて温めた。


夜になると、腹の下でツバメが少し動いた。

また何か話をするのかと、鷲はそっと腹の下のツバメを見たが、目を閉じたまま何も語ることはなかった。

ツバメの言う通り、いくら寒さに耐えたとしても、やはり空腹ではそのうち死ぬのだろう。

かまわない。心の中でそう思った。

鷲は心を別のところに移そうとした。

今日はいい狩りをした。

ウサギの肉は柔らかく、喉を潤す血とともに、身体を腹の中から温めた。

思い出し、再びその快楽に酔いしれた。

鷲はそのまま眠りにつこうとした。

いつもなら、満たされた腹に心地よさを感じ、深い眠りに落ちて行くのは容易いことだった。

けれどもやはり、今夜はどうも、居心地が悪かった。

原因はわかっていた。

腹の下に、こんなやつがいるからだ。

目ざわりだ。

やはり今すぐ食ってやろうか。

心の中でそうつぶやいたものの、まったく食欲はわいてこなかった。

鷲はしばらく目を閉じていたが、どうにも眠りは訪れなかった。

そのうちせっかく食ったウサギの肉も胃袋から消え、後はどうにもじっとしていることができなくなった。

鷲は立ち上がり、何かを振るい落とすように全身を震わせると、そっとツバメを残し、岩穴から夜の空へと飛び立った。






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