3
次の日の朝、まだ西の空に星が残る間に鷲は目を覚ました。
まずは空腹を覚えた。と同時に、腹の下で何かが蠢くのを感じ、驚きのあまり飛びのいた。
そこには顔を上げ、自分をじっと見つめるツバメがいた。
なんだ、そうか……、と昨日の夜自分がしたことを思い出した。
けれどもなぜツバメを寒さから救おうとしたのか、その理由はどれだけ考えても思い出すことができなかった。
鷲は落ち着くと、その場に座り、夜が完全に明けるのを待つことにした。
「あなたは私を食べないのですか?」と、ツバメは不意に昨日と同じ質問をした。
「そのうち食う」鷲は昨日と同じように答えた。
「なぜいま食べないの? 空腹でしょう?」
「お前は俺に食われたいのか?」
「ええ、食われたいわけではないわ。けれど、どのみち私はこの羽では生きていけない。寒さに耐えたとしても、餌をとるため飛ぶことができない」
確かにもう、痩せこけたツバメにこれ以上生きる体力があるようには見えなかった。
「昨日の夜、あなたは寒さに死にかける私を助けてくれた。おかげで温かい夜を過ごすことができたわ。だからかまいません。遠慮なさらず、どうぞ私を食べて空腹を満たしてください。死にかけの私にできることなんて、それくらいしかないもの」
「お前なんぞ食べても、腹の足しにもならん」そう言ったのは本当のことだった。羽をむしってしまえば、子ネズミよりも小さかろう。
ツバメはしばらく鷲を見つめたが、何も言わず、そのまま岩の上に寝そべった。
そのまま死んでしまうのも仕方あるまい。鷲は心の中でそう言った。
空が白み、風が雲を運んでくると、鷲は空に羽ばたいた。
雲の上を飛んでいると、何やら晴れやかな気分だった。
「空の王となるのです」
母親の言葉を思い出した。
自分はこの空の王だ。
誰よりも高く飛び、見下ろす世界に恐れるものなど何もなかった。
広げた羽は見たものを戦慄させ、獲物に食い込んだ巨大な鉤爪の先からは命の声を聴くことができた。
いつものように麓に降りると、鷲は草を食むウサギを見つけ、襲い掛かった。
すんでのところで気づかれ、狙いを外して鉤爪は空を切ったが、飛び上がったウサギは鷲にぶつかり、その勢いで地面に吹っ飛んだ。頭をぶつけたのかウサギはしばし動くことができず、そのすきを狙って鷲はウサギの体に爪を食い込ませ、ウサギが死を悟った時にはもう鷲は五百メートルの空にいた。