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王の証  作者: Hiroko
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ウミネコの一羽がアーアー! と叫びながらアーリアに嘴を触れようとしたその瞬間、どこからともなく弾丸のように飛んできた黒く大きな物体に吹っ飛ばされた。

弾丸は羽を広げ上昇すると、旋回して羽をたたみ、また戻ってきた。

そしてウミネコたちがそちらに気を取られている間に、また二発目、三発目の黒い弾丸がウミネコたちを襲い、十羽以上いたウミネコたちがあっという間にまとめて吹き飛ばされ、あるいは残った者は空へ逃げて行った。

「アーリア、大丈夫?」アーリアの耳元にそんな声が聞こえた。

「え、ええ……、あなたは?」頭を打って意識が朦朧とするせいで、アーリアは目をうまく開けられなかった。

「あら、久しぶりで覚えてない? あの夜以来ね」

「その声、まさか……!?」

「思い出してくれた?」そう言ってフクロウは笑った。

「ユリス、ユリスね!?」アーリアはその姿を確かめたくて、必死に目を開けた。

「大丈夫かしら。私が見える?」

「ええ、ええ、見えるわ! ユリス、こんなに立派になって」

久しぶりに目にしたユリスは、子供の頃の綿羽が全て抜け落ち、大人のフクロウの艶やかな模様の羽に覆われていた。

「よかった。自分で立てる?」

「ええ、頑張ってみるわ」アーリアはそう言ってふらつく脚に力を入れ、なんとか立ち上がった。

「さあ、私の背中に乗れる?」ユリスはアーリアの前に羽を広げた。「安心してね。まだ私たちが小さい頃、よくこうやってウラノスに遊んでもらったの。次はあなたの番よ」

そう言われてアーリアはユリスの背中によじ登った。

ウラノスの背中のように大きくはなかったけれど、どこか優しさを感じる背中だった。

「さあ、またウミネコたちが襲ってくる前に行くわよ?」そう言うとユリスは、羽を広げて舞い上がった。

それを見守っていた三匹の若いオスのフクロウも後に続いた。

「ウラノス! こっちは大丈夫だ!」

「アーリアのことは任せろ!」

ウラノスはそれを見ると、振り返り襲ってくる三羽のトビたちに飛び掛かった。

「やめろ。それくらいにしておけ」ウラノスはそう言うと、目の前のトビに上から鉤爪を向けた。羽を広げた大きさは、ウラノスの方が一メートル近く大きい。他の一羽がウラノスに体当たりを仕掛けたが、それでびくともするウラノスではなかった。

「お前らでは俺にはかなわない」

「うるさい! お前に何がわかる!」

「俺たちは妹を殺されたんだ!」

「大切なものを奪われた怒りがわかるか!」

「残念ながらわからない。わかってやりたいとは思うが、それはお前らにしかわからない痛みなのだろう。だがだからと言って、俺たちが争う理由もない」

一匹が真上からウラノスに乗りかかり、両方の羽を鉤爪でとらえた。

「理由ならあるさ!」

「お前は俺らの邪魔をした!」

「あいつらの大切にしているものを奪ってわからせてやるんだ!」

両方の羽を掴まれたウラノスは思うように動けず、残りの二羽に上から抑え込まれ、地面に押し付けられた。それでも本来なら三匹のトビに力で負けるようなウラノスではなかったが、怪我の治りきらない左足に力を入れることができなかった。

「あのツバメを俺たちによこせ」

「そうすれば俺たちの怒りもわかるんだろう!」

「そうすればお前は俺たちの邪魔をしようなんて思わなくなるさ!」

「やめないか。なんのためにそんなことをする!」

ウラノスを抑え込む三匹のトビたちの前を、すっと小さな黒い影が横切った。と、トビたちがそれに気づいた瞬間、立て続けに何匹ものツバメがトビたちを襲った。一匹ずつの攻撃は小さく気にするほどのこともなかったが、それが数匹、数十匹、数百匹と膨れ上がり、まるで竜巻の中で舞い上がった石のつぶてのようにトビたちを打ち付けた。

「なんだお前らは!」

「やめやがれ!」

「ツバメがいったい何しやがる!」

たまらず三匹のトビたちはウラノスから飛びのき、空へ逃げようとした。

だがトビたちは羽ばたくのがそれほど得意ではなかった。

地面を滑走路のようにし、重い体をなんとか上にあげていく。

その間にも、ツバメたちの攻撃は降り注ぐひょうのように続いた。

「俺たちにはわかる!」ツバメたちは言った。

「大切なものを奪われる気持ちが!」

「そうさ! 毎年のように、巣から落ちる赤ん坊がネコに食われるのを目の前で見てきたんだ!」

「それを助けてくれた!」

「ウラノスがな!」

「そうさ! ウラノスは恩人なんだ!」

「俺たちツバメの恩人なんだ!」

「背中に乗せてるアーリアだけが助けられたわけじゃない!」

「ここにいるツバメたちみんなの恩人なんだ!」

「だから今度は俺たちがウラノスを守る!」

「大切なものを奪われたなら!」

「今度は誰かの大切なものを守ってみろ!」

「そうしないと!」

「奪われたものの魂は浮かばれないんだ!」

「何も守れないなら!」

「この空を飛ぶ資格なんてないんだ!」

「それを教えてくれたウラノスは!」

「俺たちの王様だ!!!」



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