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「なあウラノス! アーリア!」
「聞いてくれよ!」
そう言うと、ジョッシュとラスはまた群れの中から抜け出て、ウラノスとアーリアの横にとまって言った。
「俺たち二人、アリウスにプロポーズしてるんだ!」
「そうだぜ! 俺たちはライバルなんだ!」
「二人とも!?」アーリアは驚いて言った。
アリウスは恥ずかしそうにウラノスの脚の裏に隠れた。
「そうさ!」
「二人でプロポーズしたんだ!」
「でもそんな、どうやって決めるの? アリウスも困ってしまうわ」
「二人同時に南に旅立ち、先に着いた方がアリウスの夫になるんだ!」
「それでどっちがふさわしいか見てもらうんだ!」
「あなたはどう思うの?」アーリアはアリウスに聞いた。
「私はウラノスとアーリアに助けられたあの日から、いつもジョッシュとラスに見守られてきたんです。だから、きっと結婚するなら二人のうちどちらかって決めてました」
「まあ、素敵な二人なのね」
「でも、そうなんです。どちらかなんて選べなくて」
「そうさ! だからアリウスを困らせないために、俺たち二人で約束したんだ!」
「恨みっこなしさ! アリウスを守って、丈夫な赤ちゃんを産んでもらうんだ!」
「そのためなら、俺かラス、どっちが勝っても嬉しいことじゃないか!」
「たとえ俺が負けても、ジョッシュのこと応援するぜ!」
「もうっ! 二人とも恥ずかしいわ!」アリウスはそう言って頬を赤くした。
ヨシ原の上では、数千羽のツバメたちの空中ダンスが続いていた。
その日を無事に過ごせたことを喜ぶ声、旅立ちを待ち遠しく思う声が聞こえた。子供を育てた親、巣立ちをして成長した子供たち、春から夏にかけてこの北の地でそれぞれの時間を過ごした者たちが、このヨシ原を寝床とするため一堂に集まっていた。
「あの……」
話をするウラノスとアーリア、ジョッシュとラス、そしてアリウスの前に、二匹のツバメが声をかけてきた。どうやら夫婦のようだった。
「覚えていますか?」メスのツバメが言った。
「お母さん!」アリウスが言った。
「まあ、アリウスのお母さんとお父さん?」アーリアが尋ねた。
「はい。そうです……」
「あの日のこと、覚えていますか?」
「俺たち、その、何もわからずただ……」
「ひと言、謝りたくて……」
「かまわない」ウラノスは言った。
「俺たち、ただ他の子供たちを守ろうと必死で」
「あのあとジョッシュとラスに本当のことを聞いて……」
「二人を悪者のように思ってしまったこと、ずっと謝りたかったんだ」
「気にしなくて大丈夫よ? ちゃんとわかっているわ。誰だって驚くもの、鷲が自分たちの巣に近づいてきては」アーリアはウラノスを見上げて言った。
「でも、助けてくれようとしているのに、あんなことをしてしまうなんて……」
「本当に申し訳なかった」
「本当にごめんなさい」
「気にしないでいい」ウラノスはアーリアの視線を感じながら、胸を膨らませ言った。
「もういいのよ? それよりアリウスのこんな素敵に成長した姿を見れて、私たちも嬉しいわ」
「なんて優しい方たちなんでしょう」
「ああ、ああ、本当にそうだ。鷲は鳥の王だと聞いていたが、本当にその通りだ」
「こんな方に娘のアリウスを助けていただいたなんて、私たちも誇らしいわ」
「なあ! 言ったろ! 俺たちちゃんとウラノスとアーリアのことをみんなに言うって!」ラスが言った。
「そうさ! ウラノスとアーリアはすっげー奴なんだって!」
「ああ! すっげー王様なんだってちゃんとみんなに言ったぜ!」
そんな話をしていると、空を舞うツバメの大群たちから声が聞こえてきた。
「ウラノスね!」
「アーリアもいるわ!」
「ほんとだ!」
「おーい! ウラノス、アーリア!」
「会いたかったわ!」
「あの時はありがとう!」
「ネコたちを追っ払ってくれた!」
「スカッとしたぜ!」
「俺たちの恩人だ!」
「ほんとにありがとう!」
「ありがとう! ウラノス! アーリア!」
ヨシ原の上で、そんなツバメたちの合唱が夕暮れまで続いた。
ウラノスは翼を広げると、アーリアをその背中に乗せた。
アーリアは「あなたが誇らしいわ」と言ってウラノスの背中に頬をつけた。
アーリアの小さな体が温かかった。
ウラノスは不思議な気分だった。
ふと気が付くと、自分が鷲であることを忘れてしまいそうになっていた。
自分が何者であるかなど、それほど大きなことではないような気がした。
自分が自分を鷲であると誇っていた時の心の昂りよりも、いま自分が何者であるか忘れてもなお感じる心の昂りの方が胸に熱く感じた。
「どれだけの者に愛されるか、どれだけ深く愛されるかが王の証なのよ」ウラノスはいつか聞いたアーリアの言葉を思い出していた。