小さな英雄
傷ついたガーランドさんを人に任せ、宝剣ゲニウスをもって門へ向かおうとしているガーディの肩を咄嗟に掴むと、その全身は小刻みに揺れていた。
――あぁ、そういうことか。
ガーディも怖いんだ。あの笑顔も、僕を気遣って精一杯笑っていたのか。
そう考えると、今まで迷っていたのが嘘のように、覚悟が決まった。
あとは深呼吸をしてそれを言葉にするだけだ。
「ガーディ、ありがとう。その剣、借りるね」
僕はガーディの手から宝剣ゲニウスを取ると街の出口に向かって歩き出す。
「おい、なんだよそれ。第一お前の力じゃ、その大剣をまともに振れないだろ。な? それを返せよ。才能がねぇ弱いお前はさ、大人しく俺に守られときゃ良いんだよ……守らせてくれよぉっ……!」
あぁ、僕の為に泣いてくれるんだね。
やっぱりガーディは虐めっ子なんかじゃないよ。
「僕にも、この大剣を振ることは出来るんだ、こんな風にね。――《閃光》解放」
力を開放した瞬間、手の中にあった重みはほとんど消え失せ、まるで木の枝でも持っているかの様にしか感じなくなっていた。
「馬鹿野郎っ!!! 何やってんだ、今すぐそんなもん仕舞え!」
ガーディが必死になって止めるが、一度解放した力はもう止められない。
もう、後戻りはできない。
「これで、僕の方がガーディよりも強くなったね。才能があっても弱いガーディは大人しく僕に守られてね」
強いものに弱いものが守られろ。ガーディが言った言葉だ。
これでガーディは僕を止める事は出来ないだろう。
「だからさ、ノインを頼んだよ」
その言葉を最後に街の外に向けて走り出す。
――僕は、ガーディの様に綺麗に笑えただろうか。
街から出た僕の目には魔物の大群が映った。
千に届いているのではないかと思えるその大群はこちらへ真っすぐと向かってきており、あと幾ばくもしないうちに街へ到達し住民を食らうだろう。
そんなことはさせない。させてなるものか。
この街の平和の象徴である宝剣ゲニウスを握りしめ、僕はまた一歩魔物たちへ近づいた。
この街で生まれたのは幸せだった。
だって、ガーディやノイン、母さんにガーランドさん。他にも皆、とっても優しかったから。
洗礼の儀で《閃光》の才能を得られたのは幸せだった。
だって、この力のお陰で大好きな皆を守ることができるから。
こうして最後に戦えるのが幸せだった。
だって、今まで守ってくれた皆に恩返しができるから。
混戦で左手の指が飛ぶ。
大丈夫、まだ剣は握れる。
「あぁぁあああああああああああああああああ!!!!」
全力で剣を横薙ぎに振るうとそれだけであれだけ苦戦したゴブリンやオークが大量に死んでいく。
左足が槍で貫かれる。
大丈夫、まだ右足がある。
魔狼の首が飛ぶ。
気が付けば群れの中央に到達していたのだろうか。四方八方から魔物が襲い掛かってきている。
ちょうどいい。
出血でそろそろまともに立つのも難しくなってきたころだ。
千に届きそうだった魔物も残りは百程度、これなら、連れていける。
周囲の魔物を一閃し、隙を作ると宝剣イグニスを天に向かって掲げ、
「《瞬光》っ!!!」
叫びと同時に振り下ろした。
――《瞬光》
自らの生涯で得た力を数時間という短い期間に圧縮して膨大な力を得る《閃光》を更に一瞬という極限まで短い期間に圧縮する《瞬光》の力はもはや制御できるものではない。
発動と同時に圧縮された力が人の制御から離れ、純粋な力となり爆発する。
こうして、十五歳の少年、ラディの生涯は幕を閉じた。
街中に轟音が響き渡る。
私はとても嫌な予感がして家族の制止を振り切って家を飛び出した。
隣のラディの家に行くと、ラディはかなり前に落ち着かないから広場で衛視の方々を待つと言って出て行ったとラディのお母さんは言う。
嫌な予感はどんどん強くなる。
私は急いで広場に向かうと、そこにはガーディや気を失っているのか横になっているガーランドさん、その他衛視の人たちがいた。だがどれだけ見渡してもラディの姿は見つからない。
「ガーランドさん、その腕……それにラディ、ラディはどこ? ラディのお母さんがラディはここにいるって……いるはずなのよ。ねぇ、ガーディ。ラディはどこ……?」
ガーディは何かを噛みしめるような面持ちで門の方を指さす。
「敵の数と質が予想以上だった……それでもう支えきれないとなった時に、ラディが《閃光》を……」
ラディの才能については知っていた。昔から一緒にいるのだ、それが本当のことなのかどうかなんてわからなかったけれど、嘘であってほしいと思っていた。
だって、死ぬことが代償の才能なんてそんなの悲しすぎる。
だから私はガーディがラディはハズレの才能を持っているから虐めているのだと思いたかった。
思い込もうと必死だった。
でも、どうやら違ったらしい。
どうして女神様はラディにそんな才能を与えたのだろう。どうしてラディだったんだろう。
わからない。わからないけど、
「行かなきゃ……」
音のした方へ、ラディがいるはずの場所へ。
自然と私は走り出した。門から出るとそこは私の知っている風景とは一変し、辺り一面魔物の死体とその中央には大きな窪みができていた。
背後からはガーディが追ってきていたがそれどころじゃなかった。
その時、窪みの中心で何かが光った気がして私は飛び出した。
「ラディ、ラディ!!!」
必死になって辿り着いた先にあったのは一振りの白銀の大剣だけで、他には何も、何も見当たらなかった。
私は思わずその大剣を抱きしめる。
恐らくさっきまでラディが握っていたであろう大剣を。
「嘘、嘘よ。だって、私に相応しい男になるって……そしたら結婚を申し込んでくるって言ってたじゃない……あぁ……あぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」
その日、一人の小さな英雄と多くの戦士が死に、一つの街が守られた。
この作品は元々ダイの大冒険という作品に登場するセリフ
一瞬…!!だけど…閃光のように…!
というものを自分なりに書いてみたらどうなるのかという興味から手の空いた時に書いた作品です。
もし、少しでも琴線に触れる何かを感じ取ってくれた方がいれば評価や感想を頂けると作者は発狂する程嬉しいです。いえーい!