稲田山駅
2030年
<11月17日>
ー1人の会社員が快速電車の通る線路内に飛び込み、長く辛かった生涯を終えたー
<11月30日>
ー1人の高校生が快速電車の通る線路内に飛び込み、夢と希望に満ちていたはずだったその生涯を終えたー
ここ数ヶ月間で稲田山駅での自殺者が急増していた。理由はとある掲示板サイトに突如複数の奇妙な書き込みがあったからだ。
『死ぬならばここで。稲田山駅で深夜の1時に通る緑色の急行電車で飛び込み自殺をしたら"永遠に続く快楽"を得ることが出来る。』
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都築光一の絶望は極限に達していた。職場での上司からのいじめ、媚を売るだけの同僚の昇進、悪質な客からのクレーム対応、そして恋人からの裏切り、、、
社会人になる際に抱いていた両手に抱えきれない程持っていた夢や希望はすぐにシャボン玉が割れるかのように儚く消え去った。そしていつの日からか死ぬ事ばかりを考えていた。
「お疲れ様でした。そして、本当にその先には"永遠の快楽"が本当にあるのでしょうか?」
最近では稲田山駅での自殺のニュースを見るたびにそう呟くのが癖になっていた。
そして11月30日の飛び込み自殺のニュースを見た後に、光一は心を決めた。
「次は僕の番だ」
<12月12日>
約2週間かけて書いた遺書を部屋に置き、光一はすっかり暗くなった外に出て最寄りの駅まで歩いた。
20分後、駅に到着した。切符を書い、駅のホームでこれから訪れる自分の"死"への時間をただ待っていた。
『間も無く列車が到着します。黄色い線の内側までお下がりください。』
誰もいない駅にアナウンスが鳴り響いた。
(もうすぐに噂の快速電車が通る時間だ。正直"永遠の快楽"なんてある訳ない。でも、、それでもそれに飛び込めば全てが終わる、、。)
電車の到着まで残り2分、光一は学生時代に聴いていた大好きな曲を最後に聴いていた。
(やっぱりパズの『Love Song』は良い曲だな。さぁ、もう思い残す事は何もない。)
演奏の終わりを待たずに2分後、光一は猛スピードの電車に向かって飛び込んだ。
死の直前、光一は眩い走馬灯を見ていた。過去の自分の頑張って来たことや、家族や友人、好きな人との思い出、さらには思い描いた未来まで自分の理想の世界がそこには詰まっていた。その瞬間だけはこれまでの嫌な事は一切忘れて、まるで天国にいるかのような強烈な快楽に浸っていた。
(あぁ、、なんて、、なんて気持ちが良いんだ、、まだ、、、、まだ終わらないで、、、)
そう思うのも束の間、光一の目の前には逃れられない現実が迫っていた。
そして光一の人生は激しい衝撃音と共にその幕を閉じた。
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(、、、、、)
(、、、、、、、)
(、、、、、、、、、、、、、)
(、、、名前は光一にしよう、、、)
(、、良い名前ね、、、、、)
(、、、、、光一くんはお勉強が出来て偉いね、、、)
(おーい、、、光一、、、遊ぼうぜ、、、、、)
(、、、光一くん、、、付き合って下さい、、、、、)
(、、お前はすげぇよ光一、、、きっと将来は大物になるんだろうな、、、、、)
(これ、、パズってバンドの『Love Song』っていう歌だよ、、、いつか結婚式で流したいな、、、、)
(、、、、お前はこんな事も出来ないのか、、、もう帰っていいよ、、、、)
(光一、、、俺、来月から主任だってよ、、、)
(私、、、あなたと別れて健介と付き合うから、、、さようなら、、、、、、)
(、、、、、、、、、、)
(、、、、、、、)
(、、、、)
2030年12月12日深夜12時52分、光一は稲田山駅のホームで電車を待っていた。
『間も無く列車が到着します。黄色い線の内側までお下がりください。』
それまで俯き無表情だった光一だったが、そのアナウンスが鳴り響くと同時に突如体が小刻みに震え始め不気味に笑いながら呟いた。
「やった、、、!また、、、またここに戻ってこれた、、、あの、、、あの、、快感を、、、また味わえるんだ、、。」
白目を向き涎を垂らしながら笑い続けるその様子はまさに狂気だった。そして震える手で徐に携帯電話を取り出し、イヤホンを繋げた。
「あ、、、あぁ、、、最後は、、最後は、、、、あの曲を聴かなきゃ、、、、」
何度も繰り返してきた快楽へのルーティンだったが、光一は突如その手を止めた。
「そ、、、そうだ、、、こんな素敵な事、、、、忘れる前に、、、今回は、、、みんなに教えてあげなきゃ、、、、教えてあげなきゃ、、、、」
そう呟くとすぐにメッセージを書き込んだ。そして全てを書き終わると同時に光一は緑色の列車に飛び込んだ。
体と一緒に吹き飛ばされ血だらけになった光一の携帯の画面にはとある掲示板サイトに書き込んだメッセージが表示されていた。
『死ぬならばここで。稲田山駅で深夜の1時に通る緑色の急行電車で飛び込み自殺をしたら"永遠に続く快楽"を得ることが出来る。』