魔王降臨?
「うぁぁぁいでぇ!」
悠馬は空から叫びながら地面と激しいキスをした。
「いよう!魔王…さ、ま?」
「ふぇ?」
「お前!誰だよ!俺達の魔王様はどうした!?」
「はあ!?俺が知るかよ!」
「嘘だろ…俺らこれからどうすりゃいいんだよー」
すると目の前の男は急にあたふたしだした。
(ちょっとまてよ?話を整理しよう)
俺、黒瀬悠馬は万引きをして警察から逃げていたはずだ。それがどうしてこんな殺風景な召喚部屋みたいなところに?
「まあとにかく召喚しちまったもんはしょうがねえ。まずは自己紹介だな!」
「俺は魔王軍三幹部の一人ケルベロス様だ」
今ケルベロスって言ったか?この男。目の前にいる男をもう一度よく見る。
百八十センチほどの身長に赤い髪。目は髪に隠れていてよく見えない。あと服がダサい。気がする。
「おいおい。俺の服がかっこいいのはわかるが、そんなにみるなよ?」
この真ん中にブルドックが書かれた服はかっこいいのか。ファッションとは分からないものだ。
「なんかすみません。そこはスルーしてくれると嬉しいです」
ケルベロスの後ろにいた女性が話しかけてきた。
「私は魔王軍三幹部、メドゥーサともうします。以後お見知り置きください」
「…………」
「あの、どうかなさいました?」
メドゥーサと名乗った彼女は身長百六十くらいで髪は薄めの紫のロング。穏やかな目をしている。 正直タイプだ。
「おーいボーズ?」
ケルベロスに呼ばれて目が覚めた。なんか残念な気分だ。
「えっと、次は俺の番かな?」
「そうですね!お願いします」
メドゥーサが丁寧にお願いをしてくる。これはやらない訳にはいかない。
「俺は黒瀬悠馬。高一です」
「やっぱり異世界人か」
「多分そうだけど、驚かないんだね」
「おうよ。異世界からでも結構人くるからな。死んだ時に転生する場所が選べるんだぜ?」
それは完全に初耳だ。まあ転生するかしないかと言われると多分転生しただろうが。
「で?俺はなんで呼ばれたの?俺死んでないよね?」
「はい。その前に大事なことをお伝えしないといけません」
メドゥーサが歯切り悪そうに言う。自分達は魔族だとでも言いたげだ。
「私達は…魔族なんですぅ!」
「うん知ってた」
「…………ええ!?」
「なんで知ってんだてめえ!まさかお前、勇者の手の者かぁ!?」
「いや魔王軍三幹部とか言ってたじゃん。それで魔族じゃないならなんなのさ?」
「あ」
「確かにそうだな」
「勇者の手の者じゃなくてよかったですね」
「まあそれはいいとして、事情があるんだよね?」
「おう。聞いてくれるか?」
悠馬は無言で頷いた。ここまできたら聞くしかあるまい。
「俺達の世界は勇者と魔王様の戦いが永遠に続く世界なんだ。本来なら魔王様がいくら勇者を倒しても勇者は復活して何度も何度と魔王様と戦うっていう歴史がくりかえすんだ」
「しかし、このループを崩すことが起こったんです。それが異世界の人間を殺して勇者にするというものです」
「いつまでたっても魔王が死なないから異世界人を勇者にしたってこと?」
「まあそういうことか?正確に言うといつまで経っても魔王様に勝てないからだな」
「でも異世界人は強すぎるんですよ!異世界から来た人間は特別な能力を持っていて私達魔族はいっきに壊滅状態です!」
「それなのに本来一人であるはずの勇者を十人も転生させたんです!これはあまりにも卑怯です!!」
メドゥーサが力説するたびに彼女の豊かな胸部が揺れる。あまり見ないようにはしているが、どうしても目がいってしまう。だって男の子だもん!
「きいてるんですかぁ!」
「あ!聞いてます聞いてます!」
「まあそんなことで魔族は俺達二人しかいない状態になっちまった。もしかするとまだ一人か二人は生きてるかもしれないがな」
「なるほど。大変だったんだな。でもさ」
あまり二人に言うのはいいことではないが疑問だったので聞いてみた。
「魔王が倒されるのはしょうがないんじゃないの?だって魔王っていうくらいだから悪いことしてたんでしょ?」
「魔王様はそんな人じゃねえ!」
「魔王様はそんな人じゃありません!」
二人同時に叫ぶので悠馬は驚いて数歩後ろにさがった。
「でも魔王っていったら世界征服とか、ね?」
「世界征服か。魔王様がしようとしてたのは世界統一だ。」
ケルベロスが言うには遠い昔に魔王は勇者との戦いに飽きて、世界の皆を平和に生活させられないかと考えた。そして考えた結果、自分が王となり、法律を作り、世界の皆を平和を監視しようとした。少し間違っているのかもしれないがまあかろうじて理解できる選択だった。
「だがそれを拒んだのが勇者だ。世界で一番の存在は自分以外にありえないってな」
「え?それは、また結構なクズでは?」
「表向きでは魔王などに世界は任せなれないということになっています」
「まあこれまで戦ってたんだしね。全部任せるとは言えないよな」
悠馬が考え込む姿勢をとる。 「まあ正直その時点ではどっちが正しかったかは分からん。その時代に俺達は生まれてないしな」
「そうえば二人は今何才なの?」
「俺は十八だ」
「私は十六歳ですね」
「え?そうだったの?」
完全にもっと上だと思っていた。魔族ってことは何百年も生きてると勝手に思い込んでいた。
「思い込み、かあ。確かに今まで勇者が正義で魔王が悪だと信じてたな」
「それが先入観ですから仕方ないとはおもってます」
「話を戻すぞ。そのあとは魔王様と勇者の戦いがかなり長い間続いた。勇者は魔王様に挑むたびに死んでたから、今回の十人の勇者は二十三代の勇者に当たる」
「じゃあ二十二代の時に異世界転生法に気づいたってことかな?」
「そこまではしらねぇがな」
「あ、今更ですけど立ち話もなんですし座りましょう。お茶でも入れてきます」
正直今更どっちでもよかったが確かに座りたいしこの世界のお茶も飲んでみたいのでメドゥーサの誘いに乗ろう。
「じゃあお願いしていい?」
「もちろんです!」
「はあ、じゃあ部屋も移動するぞ。ついてこい」
そしてケルベロスについて部屋を出る。どうやらこの部屋は地下にあったらしい。それから歩くこと約二分。客間のような部屋に招待されその椅子に腰をかけた。
「おお!この椅子ふっかふか!」
「おい!そこは魔王様の椅子だ!こっち座れ!」
どうやら椅子は私物らしい。
「そうえば聞いてなかったけどここどこなの?」
「この地図の一番東のこのあたりだ」
「へぇ。じゃあここは魔王城ってこと?」
「そうだ。魔王様は殺されちまったから魔王城はちょっと違うがな」
「お茶が入りましたよー」
「ありがとう。頂きます」
「よし、じゃあ今度こそ本題に戻るぞ」
「なんで俺を召喚したかってこと?」
「そうだ。結局現在の勇者との戦争では手も足も出ず負けた。そのとき魔王様も死んじまった」
「私達はなんとか逃げ延びて城にかえってこられたんですが私は力の半分を失い、ケルベロスさんは二人の首を失いました」
「んで今の勇者は力と権力を使ってやりたい放題してるんだ。タダで飯食って帰ったり、武器をタダで持ってったり、嫌がる女を無理やりさらったりもしてやがる」
「と・に・か・く!悪いのは全部今の勇者なんです!」
メドゥーサが手をバタバタさせながら言う。どうしよう。可愛い。
「はっ!いかんいかん」
悠馬は異世界で別世界にトリップしてしまった。
「つまり二人の目的は現勇者の討伐ってこと?」
「ああ。そのためにこっちも新しい魔王様を呼んでこようとしたんだが」
「それが俺だったと」
「本当は悠馬さんではなく違う人だったんですが」
手違いがあったことは理解しているつもりだ。ケルベロスの最初の反応から察することが出来る。
「そういうことなら力を貸すよ。俺も異世界から来たんだから特別な能力あるんでしょ?」
「でもいいのですか?私達に協力するということは魔王軍に入るということ。今の世界では魔王軍というだけで殺されてもおかしくないんですよ?」
「やめるなら今だぞ?」
「構わないさ。それに今の勇者がいけないことしてるのはよく分かったし、それを放ってなんておけないよ。」
俺は元の世界で犯罪を犯したんだ。次は罪を償わなければならない。ただ罪を償うのが刑務所じゃなく異世界なだけだ。
「そうと決まれば今日から俺達は家族だ!これから宜しく!」
そういうと悠馬は立ち上がって二人の手をとった。
「え、えええ!?」
「か、家族だとぉ!?」
少々強引過ぎただろうか?二人が同様しまくっているのがよく分かる。
「いや、今のは」
「いいのかよ!俺なんかが兄貴で!?」
「こんなプロポーズは初めて受けました」
何かがおかしい。悠馬のいう家族とはお互いに支え合って生きていくとかいう意味のつもりだったのだが。
「俺に弟かあ。俺は第三のケルベロスだったから弟はいなかったんだよな」
「結婚式は洋式か和式どっちがいいですかダーリン!」
なんかすごく話が跳躍してしまった。というかなんでこんな結婚ノリノリなの?恋愛とかしなくてもいいの?
「結婚式はウエディングドレスが見たいな」
俺はなにをいっているのだろう。自分で自分がわからなくなる。
「ウエディングドレス!いいですね!すぐに作ってきます!」
「あ!俺のタキシードも頼む!それとも俺は神父をやったほうがいいのか?」
もう二人ともその気になっている。今さら取り消せない。
「もうどうにでもなーれ」
一人残された客間で悠馬はポツリと呟いた。