序章 異世界への道
俺は盗みを働いた。
あれは七月二十日午後四時。高校一年生だった黒瀬悠馬はコンビ二で万引きを行った。盗んだのはたった百八円のおにぎり一つ。自分でとアホだった思う。でもそれが あの世界への片道切符だったんだ。
「あーあなんか暇だし面白いこと起きねえかなー」
「じゃああれやろうぜ!万引き!」
と悠馬の友人の佐藤大地が楽しげな表情で言った。
佐藤大地は高校生になってもなかなか友達が出来ない悠馬の唯一の友達だ。誰にでも明るく接する事が出来る為悠馬以外の友達も多い。
「お前万引きは犯罪だぞ?普通やらねぇよ」
「そう?じゃあ俺は行ってくるわ。」
「おいこら待て!そんな楽しげな万引き犯がいるかー!!」
そう言って大地は近くのコンビニに入っていった。
その後悠馬と大地は万引きを行った。否。本当は大地は何も盗んでなどいなかった。
悠馬の見ていないところで現金を支払い、万引きをしたように見せかけたのだった。
しかし悠馬は大地が本当に万引きをしたと思いおにぎりを鞄に入れ店内を出た。
「ほんとなんでこんなことしちゃったかなー」
家の近くの河川敷。ここは悠馬しか知らない秘密の隠れ家だった。その後万引きは驚くほどあっさりとバレて、警察から必死になって逃げ出して、今この有様である。
「十六歳、万引き捕まるっと、よし検索」
十六歳で万引きをした場合でも最小十日間で釈放される場合があります。スマホの画面を見て笑う。
「たった十日で釈放かよ。なんで俺必死に逃げてるんだ」
こんなくだらないことで人生をを無駄にしてしまった。本当にくだらない人生だった。中学ではいじめにあい、高校に上がっても友人と呼べる人は結局大地しかいなかった。しかし大地は誰とでも仲良くなれる性格なんだから向こうからしたらだだの友達の一人だったのかも知れない。
「チクショウ!こんな人生、こんな世界で生きていかなきゃいけないなら、いっそ!」
強く拳を握りしめてこう叫んだ。
「いっそ異世界で魔王にでもなってやる!!」
正直に言うと本心ではなかった。もちろん魔王となって世界を変えたり、ハーレムになりたいと思ったことはある。だが実際には不可能だからこそ言えたことだと思う。
「いたぞ!こいつだ!」
「!!」
警察にバレたかと思い辺りを見回す。だがそこに人の気配はない。
「ようやく見つけたぜ。これでーーーーーぜ」
「待ってください。ーーー本当に彼なのですか?」
なんだ?何を言っている?
「当然だ!その証拠にあいつは言ったぜ、魔王になるってな!」
「なんだよ、本当に何が起こってるんだよ!」
「いくぜ未来の魔王!お前の時代の幕開けだ!」
空に穴が開く。その穴は大きくてすごく黒かった。
「うぁぁ!ウァァァァァァ!!」
「おいなんかきこえなかったか?」
「さあ?空耳じゃね?」
先程まで悠馬がいた河川敷を警察が通る。しかしそこには誰もいなかった。
悠馬を取り込んだその穴はすぐに閉じ、この世界は通常通り回り始める。ただ一人の人間をおいて。