第一話【8888:異世界転生?】III
「うわー、本っ当にガキだった頃の僕そのまんまだ……どうしてこんな事に……」
やや呆然としつつ、
自称40過ぎのハゲオヤジな少年はどうにか美少年と言い張れそうな自らの顔を撫で回しつつ、
今度は今の自分が着ている半袖の白ワイシャツと紺のハーフスラックスを上から下へと映しながら鏡越しにまじまじ見つめ始める。
「うーん……だけどこんな服は当時持ってなかったハズだ。唯子供時代に戻った訳じゃなさそうだな。こんな砂漠だらけの変な場所に来た覚えも無いし……っていうか」
「わっ!?」
疑問はとっとと片付ける。
この少年が40年とちょっとの人生で得た経験からの心掛けだ。
だがその経緯を彼自身覚えていないし、そもそも他人である目の前の女が知る由も無い。
いきなり少年に顔を近付けられた女は、謎の美少年(自称)によって一瞬にしてパーソナルスペースを破壊された事によって恥ずかしさで赤面する……、
訳もなく、
むしろ気味悪さを覚えて冷や汗が噴き出た。
「ここは何処なんだい? キミは日本語が通じるみたいだけど、その身なりからして……そうか、キミは旅人で、倒れていた僕を助けて近場の村へ運び込んでくれた……ってとこだね?」
「いや、ここウチの地元なんだけど……」
……。
「あ、そう」
「っていうか今この言語の事、ニホン語って言った? ……ひょっとして君、新政府軍のスパイ?」
「しんせいふ? ……何だ、それは?」
「あーやっぱりそうなってるよねー……。でもそこまで見越して敢えてか……? いや、だとすれば発信機の1つでも着けてないと可笑しいし……」
「何かゴタゴタ言ってるところ悪いんだけどさ、次の質問にいかせてもらうね。僕は砂嵐の中を彷徨っていたより過去の記憶が無いんだけど……」
「そりゃそうだろうね。あの砂嵐の中に入って無事だった人間はいない。みんな記憶が消えちゃうからさ」
「……なるほど。まあ質問の主旨はそこじゃなかったんだけど。でだ、僕のいたあの砂漠は何処だったのかを教えて欲しい」
「えー……っと、先ず確認だけど、過去の記憶が無いって事は、この世界に関する記憶も当然全く無いって考えて良いんだよね?」
「だからそう言ってるじゃないか。まあ、最低限の常識や知識に関する記憶は存在するらしいが。さ、教えてよ。ここは日本の一体何処なのか、そして今は一体西暦何年なのか」
「せい、れき……? それは暦の事? ちょっとその暦はよく分からないけど、今は[改成31年]だね。で、日本っていうのが何を指してるつもりなのかは知らないけど、ここは新政府領じゃないよ。[スワ]村っていって、新政府領の外、人間生存可能エリア内集落では1番機械支配エリア、通称[エリアχ(カイ)]に近い集落になるね。あ、機械って分かる? 人間とは別の知的生命体。金属とシリコンで構成された身体を持つ……あの、聞いてる?」
途中から俯いてニヤニヤし始めた少年は「ぃやったぞーーーーー!!!」「うおぉ!?」突如跳び上がって狂喜乱舞する。
「やっと分かった! 即ち僕は今、異世界転生をした状態なんだな!?」「え゛ぇ゛……」
興奮気味に少年は「うぇっ!?」女の手を握り「いやーありがとう! 実にありがとう! キミが砂漠で弱りきった僕を助けてくれなかったらこの奇跡はあそこでしょーもない終わりを遂げていたんだ! さあ、キミの願いを何でも言ってごらん? 僕のチート能力で叶えてあげようじゃないか!」まくし立てる。
「は……? あの、チートって、どんな力をお持ちで?」
……。
「ま、それはおいおい分かるっしょ」
「いや、ダメでしょそれじゃ」
「うーん、これは困ったな……あ、そうだ。じゃあ僕がこの世界へ転生してきたのにはきっと理由があるハズなんだ。例えば……しまったな、生前の僕は何が特技だったんだ? それすら覚えていない……が、よし、助手一号くん、この世界に魔王はいるかい?」
「いや、私は助手一号じゃなくてサツキ・オリバーって名前がちゃんとあるし、この世界に魔王はいない……と、思うけど」
「えぇ……あ、じゃあ何処かの洞窟に封印されてる邪神とか」
「いやあ、そういうマジカルでファンタジーな世界じゃないねーここは」
少年はがっくりと項垂れてしまった。
そして何言か唸り、呟き、独り言を延々続けながら布団の上をゴロゴロ不貞腐れて転がり始めた。
「おーい、帰ってこーい」
「やだよー。これじゃあ僕が異世界転生した意味がまるで無いじゃないかー」
「っていうか本当に異世界転生したの? 何となく、これはあくまで私の推理だけど……君、
ひょっとして機械側のスパイだったりしない?」
「いやどっからどう見たって人間でしょうホラホラ。これがシリコンに見えます?」
「うーん……じゃあどうしてエリアχを覆う砂嵐から君は出てきたの? ってまあ、覚えてる筈もないから訊いたってどうしようもないし……」
「ひょっとしたら僕、機械に捕虜にされていた、とか?」
「有り得ない。アイツ等人間が侵入したら殺しこそしないけどソッコーでつまみ出すから」
二人はそんな調子で堂々巡りであんまり進展の無い話をしていた。
が、その時だった。
「うお……? んなっ!? 何!?」
突如、外が慌ただしくなり始めた。
「新政府軍だ……こんな時に!」
そう言ったかと思うと「えっ? えっ!? ちょっ!」サツキは物凄い速さで小屋を跳び出て行った。
「全く……短気は損気だよ?」
そんな事をぼやきながら、少年も彼女の後を追ってのそのそ小屋の出入り口のドアノブを捻り、扉を押し開けた。
そして、
「何だ、コレは……!?」
視界に飛び込んできたモノを前に絶句した。
無理も無い。
そこに広がっていたのは、湖畔の緑に寄り添うように作られた家々と、