第四話【0031:帝國】II
「……神社?」
「それが神殿の正しい呼び方なの?」
「まあ……この世界で今更物事の正しい呼び方なんて何の意味があるか分からないけど」
「それでも記録はしておきたいね。私はそういう趣味だから」
「うふふ……そういう所、あなたの良い所だと思いますよ、サツキさん」
話し合っていた二人の前に、巫女服の女が姿を見せた。
歳はサツキと同じくらいだろうか。
「久し振り、リタ」
「本当に久し振りですね。サツキさん、エリアχに行く時くらいしか来ないから。私、少し寂しいんですよ?」
「いやー、なかなかフィールドワークの成果をまとめてると、顔見せれる時間が取れなくて……」
「それで……その子が村の方達の言っていた、新しい適合者の子供?」
「いや、その子はまた別の子なんだ。ついさっき、……新政府軍に攫われた」
サツキの言葉に、リタは表情を曇らせた。そして……決意を固めた表情へと変わっていった。
「遂に、この日が来たのですね」
リタの険しい表情に応えて、サツキも力強く笑んだ。
「絶対に帰ってくる。だからその間、村を頼みたい」
「まあ、それはいつもの事ですから。あなたがエリアχへ行っている間に新政府軍が来た事、一度や二度じゃありませんよ?」
「いつもありがとう」
「それで、その子の事も頼みたいのでしょう?」
「いや、この子は私と一緒だ。ちょっと訳ありでね」
サツキの妙に濁した言葉に首をかしげながら、リタは結城の顔を覗き込む。
「……何?」
「あなたも適合者っていうのは分かるけど……紫? どこかで見た事あるような……」
「あーまあ! そういう事なんで、あとよろしくー!」
これ以上長居すると、勘のいいリタは結城の真実に辿り着いてしまう。
事態が複雑になる事を避けたかったサツキは、リタとの会話を早々に切り上げて結城と共に神殿を後にした。
「……そう。[神社]って言ったあなたも、ひょっとしたら……」
リタは誰に言うでもなく、ぼそりと独り言ちた。
――――――新日本政府、新東京市内諜報部待機室。
諜報部隊の面々が思い思いに休憩をとっている中、双五はひっきりなしに電話を続けていた。
「ええ……そういう事ですので、今後ともご贔屓に……ソレデハ……」
引継ぎの為に社交電話を各方面へと掛けていて、分かった事。
それは、元隊長の深見結城が妙に人を避けていたのは、自分達相手だけではなかった事だ。
奇妙なほどにプライベートへ誰も立ち入らせない。
退勤後は徹底して連絡どころか痕跡がつかないようにしている。
プライベートを大切にしているにしても、あまりにも徹底的過ぎる。
ともすれば……待機室を出た直後から、翌日の朝まで全く足取りがつかめない。
こんな事は普通の人間どころかスパイの域も超えている。
まるで深見結城という人間は、諜報部にしか存在しないかのようだ。
([元]隊長……何がアンタをここまでさせてたんだ……? アンタ、何か隠し事があるんじゃねーか? 例えば……例えば何だ? ひょっとするとあの見た目だし、冗談で言われてた聖体研の試作ロボット兵器ってのがマジだったとかか? ……分からねえ)
思いを巡らせている内に、
「あ」
着信が来た。
画面には[総理]と書かれていた。
「はいはいはいはーい……ハイ、諜報部です」
こっそりと小走りで待機室を抜け、個室で電話を取る。
『双五くん頼みがある、聞いてくれるかね?』
「いいですよ……何なりと」
どうも総理は、何か焦っている様子だった。
『先程、君が身柄を聖体研へ引き渡した御言く……ああいや、聖体違法所持者の子供だが、彼を私のところまで連れてくるんだ』
「……? それをどうして、所長さんではなく俺に?」
『さっきから何度も電話を掛けているが全然出ない。彼が私からの電話に出ないときはいつも何か良からぬことをしている時だ』
「……良からぬこと」
『取り返しのつかない事になると非常にまずい。聖体研から彼を奪い返してくれるかね? 多少手荒になっても構わないから』
「……構いませんが、総理の執務室って非公開じゃありませんでしたっけ」
『今から君にだけ位置情報を伝える。それじゃあ頼んだからね』
「あ」
総理は最低限理解できる命令は下したといわんばかりに一方的に電話を切ると、直後にメールを送り付けてきた。
そこには位置情報が添付されており、開くと平面座標は新東京市の中心部を、高度は地上240メートルを指していた。
この都市に……というか、この辺一帯でも該当するような建造物は一つしかない。
「……それで隠してるって言い張るんかーい」
虚空にツッコミを入れながら双五は「悪い! 特命で早退すっから!」待機室へそれだけ言って、義体のバッテリーを交換し、聖体の電源を点けた。
新日本政府、聖体研究所。
諜報部よりも、軍部よりも予算を持つが、主な研究内容は[謎の大量破壊兵器である聖体の研究]というアバウト過ぎる説明しかされていない。
幾ら多少の記憶を無くしたからといってそんな杜撰過ぎる説明で納得をする者は誰もいないが、この街に住める程度の記憶が残っている人々は、彼等の研究対象である[聖体]の恐ろしさを身をもって思い知らされた人々でもある。
故に、誰も聖体研に口を出す者はいない。
それは政府高官でさえも同じ事だったが……、
「……所詮研究職か」
一部、その限りでない者もいる。
ほぼ強行突破に等しい[潜入]を無事成功させた双五は、その辺の研究員から吐かせた情報を整理しつつ足を進める。
所長の襟弩は口頭による尋問を5分、休憩15分を挟みながら繰り返している。
既に12回行われているが、その中で総理から依頼されていた質問事項は何も訊いていない。
何か時間稼ぎのようにも思われる、一方的な罵詈雑言と暴行を加える形での尋問をしつこく続けている。
(……4時間もそんな調子でよく疲れねえな。若さってのも、手放しで喜べねえ)
幾ら襟弩が歳下とはいえ実際の年齢はそう変わらず、自身も大概激情家であるにも拘らず、自分の事を棚に上げて双五は冷静にそんな事を考えていた。
研究員から聞き出した情報をもとに、彼は手術室にも似た入り口の部屋の前で足を止める。
[実験中]と書かれた部屋の中からは、若い青年の怒号がひっきりなしに聞こえていた。
「ハァ……何が目的か知らねえが」
徐に脚を上げ、




