第三話【0001:探索者】I
「え……?」
人の名前のような言葉が聞こえた気がした。
「深見結城。私の記憶が可笑しくなってなかったら、それが私の名前」
少女はサツキへ顔を見せない。
どんな顔をして、その名前を口にしたのだろう。
何を思って、自分を殴り、蹴り、正体を引き摺り出した女へその名前を口にしたのだろう。
何も信じない、無責任なヒーローは愚かだ、そう言葉を紡いだ彼女の真意は。
……サツキは何一つ、彼女に教えてもらえなかった。
第三話【0001:探索者】
サツキは何一つ、彼の考えで理解出来ない事は無かった。
「で? 結局それ以上何も話せなかったって?」
だからこそ、今は彼の言葉に歯痒さを感じていた。
「うーん……あのね、コタロー君は分からないだろうけど、君と違って本物の子供の心って結構デリケートなんだよ。だからそんなにズケズケ色々訊くのは「ハ? 子供?」ああいや……違うんだよ、結城ちゃん、アハハ……まあそういう事だから、あまり結果を急がない方がいいと私は思うよ」
正直、彼の言っている事は[論理的には]且つ[合理主義的には]間違っていない。
ただ、相手は見た目こそ全身をプロテクターで覆った、ともすれば人間かどうかも分からない謎めいた女ではあるが、中身はこの不安定な世界をたった一人で生き続けてきた幼い少女だ。
「うーん……」「……何ですか?」「って、おーい、聞いてるー?」
「結城、昨日の夜にも言ったとは思うが、僕も君と同じで無駄が嫌いなんだ。そして、別に本気で君を自分の奴隷にしようとか、或いは君と一緒に救世ラブロマンスごっこをやろうだとか、そんな事は1Byteも考えていない。どちらかというとこの先、ビジネスライクに最短ルートでこの世界を救いたいと思っている」
「……で?」
「彼女がコミュ障で話し辛かった事は僕が代わって謝ろう「ナチュラルに喧嘩売るねー」……君にも謝ろう。すまない。えーと、で、そうだ、結城。僕が言いたいのは唯一つだ」
「何?」
「これからは、もっと仲良く僕達とコミュニケーションをとってくれるかな? ほら、試しに笑顔だ。スマイル!」
「無理」
「ハァ……やっぱり僕、子供は嫌いだ」
「いやそれで子ども扱いは可笑しくない?」
「うるさいよ、お子様」
だからこそ、彼の言っている事は[非論理的には]且つ[非合理主義的には]大きく間違えている。
ああいったアプローチでは、誰も仲間になろうとは思わない。特殊な目に遭ったせいで警戒心が異常に高くなっている少女だったら尚更だろう。
「だーかーらー、そういう事は結果を急いじゃダメなんだよ。コタロー君だってさ、いきなり出てきた訳の分からない人に[利害が一致してるから協力してくれ]って言われたら、警戒しない?」
「しない」
「ええ……」
予想外……といえば嘘になるが、それでもサツキは自分の意見へ全く理解を示さないコタローに対して、反感余って新鮮な可笑しさを覚えた。
「相手が腹黒い事を考えていたら、目の動きと、呼吸のスピード、それから身振りと、声の張り、音程から推理して察する事が出来る。後はこっちが罠に嵌め返すなり乗りこなすなり自由自在さ。……何笑ってるの」
思わずサツキは妙な笑みを浮かべしまった。
そんな彼女へ結城は顔を近付け、
「あのさ……アイツ、マジで普段からああなの?」
思わず同情交じりにサツキへ問う。
「うーんまあ……言ってまだ1日程度の付き合いしかないから偉そうな事言えないけどさ……」
結城の方から目だけ背けて、他人事のようにサツキはぼやいた。
「多分、これからも、ああいう感じなんだと思うよ」
重厚なデザインのマスクの下から、失笑のような吐息が漏れた。
「ああそう。まあ、そんなつまんない事が気に入らないだけで? 組まないなんて言うつもりは無いから、訊きたいんだけど」
気を取り直して、結城はコタローを見下ろし問う。
「[世界を救う計画]って、具体的にはどんな感じ?」




