第二話【2010:深見結城】E
夜明け前の砂漠。
1人の女と少女が、横並んでぼそぼそと話し合っていた。
この世界での生活について。
この世界の行く末について。そして、
この世界の真実について。
だが、幾ら話したところで、2人が知っている事といえば、
ある日突然、人工物と人々の記憶を消し去る砂嵐が吹き荒れて、
辛うじて逃れた人々が元の生活を必死になって取り戻そうとしている。
ただそれだけだった。
……そうして、お互い何も得る物の無かった情報交換を終えて、
「あのさ」
不意に少女がサツキへ問い掛けた。
「どうしてあんたも、……コタロー、も、考えなしに人を助けるの? 裏切られるかも、とか、助けたところで何の得にもならない、とか、そういう事は考えないの?」
純粋な疑問だった。
何も信じられない世界へ放り込まれた少女の、自然に湧き起こった思いだった。
「多分コタロー君も私と同じだから、答えさせて貰うけど」
そんな哲学の答えをサツキは知っていた。
元より、コタローも同じ考えでいる事も知っていた。何故なら……。
「人を助ける事に、損得とか利害とか、そういう理由要るの?」
2人は、同じ価値観の下に生きているから。
「手が届く所にいる人くらい、助けたいんだ。裏切られて酷い目に遭わされても、助けなかった後悔よりも辛くはないから」
それをお互いに理解しているのは、窮地に陥った自分をコタローが助けた時に言った、あの言葉があったからだ。
「……『異世界を[魔王]から救うのが、異世界転生した人間の使命』だっけ? 折角頭良いのにバカみたいな事しか考えれないの、正直可哀想としか思えないし、そんな自己満足だけで助けられた方からすれば、無責任で、自分勝手だな、っていうのが正直な感想」
優しい世界とは、多面的な視点で物事を見る事を認めない世界だ。
「きっとそうなんだろうね。騙されても騙されても相手の善意を信じる生き方は、善意だけで生きてない人が聞けば、いい迷惑で気持ち悪く、妄執的な価値観の押しつけにしか聞こえない」
「分かってるんだったら、今直ぐ私を……」
「でもさ!」
それでも……。
「それでも……! 私は今、やっと君と話が出来た。君の気持ちが知れた。君との物語が始まった。……なのにもうサヨナラなんて、そんなの寂し過ぎて出来ないよ」
ただ悪辣で、非情で、冷酷である事だけが、世界の真実ではない。
だから理想も現実も、偽りと切り捨てる事は出来ない。
それがサツキの答えであるが故に、
彼女は少女を助けた。
「心にもない事ばかり、スラスラと口から出任せばかり。それとも今まで私にされた事を全部忘れます、とでも?」
例え助けた相手にとっては、それが正解でないとしても。
「人間だから、気が変わる事くらい許して欲しいな。っていうかさ」
故にサツキは少女へ問う。
「そんなに[不変の真実]って、大事なもの?」
と。
……少女は暫く、明るくなり始めつつあった地平線をぼんやり睨みつけていたが、
「深見結城」
素っ頓狂に、自分の名前を口にした。
不定期連載ではありますが、これからも続けて参りたいと思います。




