第二話【2010:深見結城】IIIII
「この世界は、元々こんな砂漠だらけの世界じゃなかった。
例えば……この辺も多分、前はもっとコンクリートとかで出来た建物とか、車とかが沢山あった筈だと思う。
……あ、コンクリートって、分かる?」
「ああ、それは分かる。車と同じく僕の前いた世界にもあったから」
「……そう。で、もっとコンクリートの建物もあったし、今みんながエリアχって言ってる場所も、あんなバケモノみたいな機械に埋め尽くされた場所じゃなかった」
「つまり……あの機械が、この世界の人工物を破壊し尽くして、今の状態になっている……そういう事か?」
「そこまでは……ただ、あんたの使ってる[破壊]の力の聖体、それは、この世界を砂漠に変えた砂嵐に、よく似てる……と思う」
「それは僕自身薄々感じていた事だ。エリアχを覆う砂嵐と、恐らく僕の使うこの力はよく似たモノなんだろ? まあ、僕のコレは他人の記憶を飛ばすような事は無いけれど」
「あんたはどう考えてる?」
「恐らくだが、以前にこの力を……いや、ひょっとすると、
[聖体]の力を全て所有した何者かがいた。
そいつは機械を引き連れてこの世界を侵略したが何らかの理由で死に、
聖体は世界中に散らばって、それぞれ今の持ち主の許に。
主を失った機械は、永遠に[首都へ侵攻する]という命令に従い続けている。
そういう事じゃないのか?」
コタローの仮説を聞いて、少女は自身の右脚に装着した、不釣り合いに大きいプロテクターへを目をやった。
「僕の聖体は、気がついた時にはもう胸ポケットの中にあった。サツキは……君が暴力学者って呼んでるあの子は、エリアχ近くの砂漠で発掘調査をしている時に見つけたらしい。君は何処でソレを手に入れたんだ?」
「私は家の地下倉庫に……偶然いて、それで、砂嵐が治まってから外に出たら、すぐに機械のバケモノに捕まって、街の外のゴミ捨て場へ捨てられた。その時に、片脚だけ靴をなくして。適当に代わりの靴のつもりで、捨てられてたコレを履いたら……。それからはずっと、あの姿で……28歳くらいの振りをしてやってきた。っていっても、5週間くらいしか経ってないけど」
「5週間も一人で……? まさか、ご両親や家族は、もう……」
心配するコタローをよそに、少女は乾いた笑いを漏らし、続ける。
「死んでないよ。でも、私の父親と母親は、何もかも忘れた。私の事も、お互いの事も、自分の名前まで」
「それは……それはそれで、辛かっただろうね」
「意外とそうでもない。それで……そうだ、記憶の無くなった人。最初の砂嵐で記憶が無くなった人の中にも色んなレベルがあって、この世界で生活していた記憶をなくした人達は、今、新東京の外に追い出されてる。で、昔と同じ生活が出来るレベルで記憶が残ってる人達だけが、新東京に住んでる。全部覚えてる人は……多分ほとんどいない。私と、総理と、それから……いや、それくらいかもしれない」
「って事は……」
コタローが目を向けたのは、いじけてこちらに背を向けながら月を仰いでいる女。
「そう。あの暴力学者も記憶が消えてる。砂嵐が吹く前の世界で、どんな仕事をしてたか、何て名前だったのか、家族は誰がいたのか、どんな生活をしていたのか、その辺を全部忘れてる。だから記憶が無くなった事にも気付けないし、この世界に不自然さを感じない」
「つまり……アイツは世界の真実が知りたい、そう言ってたけど、初めからそれは出来ないって分かりきってる……って言いたいのか」
「本人がいくら本気でも、無理だよ。私は無駄な事はしたくないし、無駄な事をやってる暇も無い。だからアイツの相手はしない」
歳不相応だと感じる程に尤もらしく合理的だが、狭い世界観の考え方だ。
そう感じたが、恐らく自分が無理に諭そうと言って聞かせても、彼女の考えは変わらないだろう。
下手に干渉せず、とっととお帰り願った方が無難なのは確かだ。
……それでも、彼女の存在は、コタローにとって重く圧し掛かるモノがあった。
みすみす手放して、この世界の真実を知るに至る方法が他に有るとは思えない。
サツキと2人だけでは、恐らくかなり時間が掛かる事だろう。
何より……、こんな辛い思いをしている人を、また[助けの無い一人ぼっち]にしてしまう事へ、抵抗があった。
しかし、彼女を仲間へ引き入れつつ、サツキと上手くやって貰う手段など、そうそう無い。
……そう、正面きって話し合えば、だ。
という事は簡単な話で……。
「だったら、僕も無駄を省こう」
「へっ?」
「サツキ、手錠」
「え? ……えっ?」
「どうせ幾つか新政府軍から盗ってんだろ? 早く!」
「あ、はいっ! ……よく、ご存じで」
「手錠……? って、ちょっ!? 何すんだよ!」
少女が危機を察するよりも早くその両手へ、昼にサツキを拘束していたものと同形状の手錠を填めたコタローは、得意気に意地悪い笑みを浮かべながら立ち上がると、上目遣いに睨みつけてくる少女を軽く見下した。
「いやー、有益な情報をどうも有難う。とても感謝しているよ」
「信じて話したのに……!」
「ここからは君に対して、ビジネスライクな選択を提案しようと思ってね」
「お? 何やってんのコタロー君、面白そうじゃん、混ぜてー」
下衆に笑むサツキだったが、コタローは彼女を相手には何もしなかった。
「選択……まあ、聞きますよ。どうぞ?」
2人をよそに、わざとらしく自分に酔った振舞いを少女へ見せつけながらコタローは続ける。
「いやー、異世界転生と謂えば、やっぱ[奴隷ヒロイン]が付き物じゃないか!」
「「……ハァ?」」
サツキと少女は呆れ果てた溜め息を同時に吐いた。
「こっち来てから[有能な側近]は早速ゲットしたけれど「……ハァ。まだ言うかそれ」ほら、何てったって今の僕は美しき魔少年だからさ「キッッッッッショ……」年相応の奴隷ヒロインが欲しいと思ってたんだよ!「……なるほど。そういう事ね」そんな時だった。君はまさしく棚からボタ餅! 偶然の出会い! 神様からの思し召しだ!」
白けきった2人をよそにぴょこぴょこ跳ね回りながら、コタローは今一度、少女へ顔を近付けた。
「さ、君に選べる道は2つ。僕に逆らってここでバッドエンドか、僕の奴隷ヒロインになって一緒に救世主ルートのスタートか! 選ばせてあげるよ、どっちにする?」
「コタロー君さあ……」
「ん? どうした助sy」
脳天から拳骨を喰らい、ぶっ倒れたコタロー。
薄れゆく意識の中、サツキの呆れ返った言葉が聞こえた。
「[青鬼の役]買って出るなら、もっとマシな嘘つこうね」
明日が台風で自宅待機になったら2話の最終場面を投稿しようと思います。




