ウッドソード『木の枝』
あれは本当にスライムなのだろうか? 分かりやすく例えると、全身青色でいろいろなCMによく出ている人型の奴に似ている。
あのスライムは木の下に横になり筋トレをしている。
俺はあいつにバレないように草原にソッと隠れようとしたそのとき、服の袖に枝が引っかかってしまい音を立ててしまった。
「ま、まずい!」
音に気づいたスライムが物凄い勢いで俺に向かって走ってきた。
「いや、速すぎるだろ!」
俺はその場から逃げようとしたが遅かった。
スライムの拳は俺の頬にまで近づいていたのだ。
「うわーーーーーー!!!!!!」
「プニッ」
頬にプニプニの感触が当たる。
「あれ? なんだ全然痛くねぇじゃ......グハァ!!!!!!」
俺は物凄い勢いで一回転した。
「ちょっと、なんで痛くもかゆくもないのに、こんなにぶっ飛ぶんだよ!」
HPはどのくらい削られたかと疑問に思い、俺はプロフィール画面を急いで確認した。
名前【あ】
職業【冒険者】LV1 HP 19 MP 30
スキルポイント0
魔法0
スキル所持数1
コピー LV1
ダメージがたったの1削られていた。
「あの威力でダメージ1なのかよ!?」
しかし、その後も俺はプニプニの拳を回避する事が出来ずフルボッコにされ、残りHP1。
「ま、待ってくれ! 俺の言葉が君に通じるかわかんないけど、あと1回、あと1回君の拳に殴られると俺死んじゃうんだよ! ホントすみません! もうあなた様には近づきません! 許してください!」
俺は最弱と呼ばれるモンスター、スライムに人生で初めて土下座で謝ると、スライムの動きがピタッと止まった。
ん? 動きが止まった。これはチャンスじゃないか?
俺は今までスライムに殴られていたことを思い出し、やり返そうと考えた。
「今だ! スキあり!」
俺の拳がスライムの頬にめり込む。
「どうだ! このクソ野郎!」
スライムの様子を確認すると、俺の拳のダメージが入っているようには見えない。
これ絶対に効いてねぇ! 逃げないとヤバい!
俺は危険を察知し全力で走った。
スライムを討伐するクエストをしていることを忘れ全力で走った。
「うぉ!?」
そこらへんに転がっていた石ころにつまずいてしまい、スライムが俺の目の前まで近づいていた。
これはヤバい、どう切り抜ける? この場面......。
俺は頭を振り絞って考えた。
「考えろ考えろ......」
すると、さっきつまずいた石ころが俺の目に止まった。
「これしかない!」
俺はその石ころを掴み、今残っている力の全てをスライムの顔面に投げつけた。
その石ころはスライムの顔面にジャストミートすると、スパーンっと大きな音と共に砕け散りスライムの素材があちこちに飛び散った。
テッテレ~~~~~~LVアップ! LV1カラ LV2ニ ナタゾ。
HP20カラ 25ニ アップ! MP30カラ40ニ アップ!
スキルポイント 2カクトク! イマノタオシカタ イイネ!
頭から謎のカタゴトの外国人がLVアップを報告してくれるのが聞こえたような気がするが、その謎の外国人のことよりも俺はさっきのスライムの倒し方について疑問に思っていた。
「俺の拳って......そんなに弱い?」
こうして俺はスライムを討伐し、無事ギルドへ帰還した。
***
「さっきさー、冒険者で名前が【あ】って奴が来たんだけどマジヤバくない? ちょーウケるよねー!」
「そいつあれだよ! 空から降ってきた男って奴、名前が【あ】とかちょーウケる!」
「アイツが空から降ってきた男なのー? もっとイケメンかと思ってたー」
俺は今絶対に耳にしてはいけないことを聞いてしまった。
「あのー? スライム討伐、無事終えました......」
「あっ......! スライム討伐、無事終えましたか......」
ギルドのお姉さんは物凄く焦った表情をしているが、さっき隣で話していたお姉さんは何事もなかったように仕事を始めている。
しばらく気まずい空気になり、報酬を貰った
「こ、こちらがスライム討伐の報酬になります」
苦労して討伐したスライムの報酬は銅貨10枚だったはずだが、お姉さんがそっと銀貨1枚を俺に差し出す。
「えっ......?」
お姉さんは申し訳なさそうに頭をペコペコと下げている。
「あのー、討伐した時に手に入れた素材はどこで売れますか?」
実はスライムを倒した後に飛び散ったスライムの破片を何個か持ち帰っていた。
「素材は素材屋というお店があり、そこにいる商人に売ることが出来ます」
ギルドのお姉さんは俺の目を合わせず素材について説明をしてくれた。
「ありがとうございます」
こうして、銀貨1枚と銅貨10枚を受け取りギルドを出た。
今持っている金額で武器が買えるかわからないが見るだけ見てみるか。
俺は最初に気になっていた武器屋へ立ち寄った。
「いらっしゃい!」
体の大きいおっさんがカウンターに立っていた。
「あのー、冒険者にオススメの武器ってありますか?」
「あんた空から降ってきた男だろ!」
なぜ、空から降ってきただけでこのような反応をされてしまうのだろうか? いや、よく考えてみるとこれが当然の反応だった。
「すまんすまん、空から降ってきた客が来るのは初めてだからなー」
「そうなんスか」
すると、武器屋のおっさんが奥の部屋に行き、何かを探している。
「この1品しかないけど、いいかい?」
俺の見間違いだろうか? その武器は少しでも振ったら折れそうな木の枝がカウンターに置かれた。
「え......あんた俺のこと舐めてるだろ! この武器でモンスターに当てたら一瞬でへし折れるじゃねぇーか!」
俺はこの状況が理解出来ずおっさんにキレてしまった。
「なに、言ってんだお客さん? 冒険者に適正する武器はこのウッドソードしかないんだぞ」
「そんなわけねぇだろ! ここの店にたくさんの武器が置いてあるのに、なんでこの1つだけなんだよ!」
ここの武器屋には約1000品を超える武器が置いてある。
「俺に言われてもねー、お客さん。これしかないんだよ」
「もういいよ、こんな店二度と来ねぇよ! じゃあーな!」
「お客さん! 他の店に行ってもこのウッドソードしかないから、無駄だぞ!」
俺はそのことを聞くと、足を止めた。
「ホントに言ってんのか?」
「さっき言ったろお客さん、冒険者はこの武器しかないって」
まじかよ、他の店に行ってもこの木の枝しかないのかよ。
「おっさん、この木の枝の値段なんだ?」
「木の枝とは失礼だな、お客さん。買う気になったかい!」
おっさんは嬉しそうな表情をしている。
「ウッドソードの値段は銅貨10枚になるよ」
「おい! 銅貨10枚ってなんだよ! ゴミ武器じゃねーか!」
「あんた知らないのかい! このウッドソードは色々な噂があるんだよ」
噂?
「何だよ噂って」
「実はこのウッドソードは意識を持っていて、ウッドソードに力を認められると特殊な能力を発揮すると噂されてるんだと」
「そんなの噂だろ? ウソに決まってんだろ」
こんな武器、そこらへん散歩してたらすぐ手に入るだろ。
「まぁ武器はいいや。装備品はどんな物があるか見せて」
俺は装備品を見ることにした。
「装備品ね、冒険者の装備品はこんなとこかな」
以外にもゲームやマンガなどで見たことがある冒険者風の装備品が一式置かれた。
「おっさん! ちゃんとしたのも売ってるじゃねーか」
「当然だ!」
おっさんは自信満々に言う。
「この装備品の値段はなんだ?」
「これは魔法耐性が少しあり、銀貨2枚だね」
この装備品は初心者の冒険者にはお手頃の価格なんだろうがどうするか悩んでいた。
すると、おっさんが耳元俺の耳元に話しかけてきた。
「お客さん、このウッドソードと装備一式を買うと少しは値段まけてやるぜ」
俺は少しの間、装備品とゴミ武器を買うか悩んだ。
「ああー、もうわかったよ! そのウッドソードと装備品買うわ!」
「毎度ありー!」
俺はおっさんに金を渡した。
「あいよ、それじゃあそのウッドソード握ってみ」
「これをか?」
「ああ」
俺はおっさんに渡されたウッドソードを握ってみると、ウッドソードが眩しく光った。
「な、なんだよこれ!」
「まだそのまま握ってろよ、お客さん」
光が止むとウッドソードは俺の手にしっくりくるようになっていた。
「適正完了だ、お客さん。これであんたの物だよ」
俺はこうしてウッドソード(木の枝)と新しい装備服を装備し、店を出た。
「また来てくれよー! お客さん!」
「もう一生来ねぇよ!」
時刻は夕方頃になっており、リカの家に帰ってきた。
キッチンの方へ行くと、リカは夕飯の準備をしていた。
「ただいまー」
「あ! おかえりなさい【あ】。もう心配してたんだよー!」
なんだこの感じ、なんだか夫婦みたいだな。
俺はそのような妄想をしていると、リカが質問してきた。
「あれ? その新しい服に、持ってる武器ってウッドソード?」
「ああ、そうだけど」
「すごーい! スライムも倒せたんだし良かったね!」
リカは満面の笑みを浮かべていた。
そうすごく褒められると何だか照れるな。
「あっ!」
「何!? 一体どうしたの?」
「いや武器とか装備品を買って、リカに借りた銀貨1枚が返せないから」
「あー、そのことね。いいよ心配しなくて」
すると、リカが俺の手を握り何かを置いた。
「うぉ!」
俺は今まで女の子に手を握られたことがないので、変な声を上げてしまった。
「銀貨5枚だよ」
「ぎ、銀貨5枚? いいよこんな大金」
「いいの、だって【あ】もうあんまりお金持ってないでしょ?」
「だけど......」
「いいの、受け取って」
女の子に金を貰うのは少し罪悪感があるが俺はリカから銀貨3枚を有り難く頂いた。
「本当に有り難う。絶対絶対に返すから!」
「うん、絶対に返してよね」
リカは笑顔で俺に言った。
そんな笑顔見せられたらマジで惚れてしまうだろ!
俺は人生で初めて女の子に恋をしてしまい、リカの家に引き取って貰ったのをいるかのわからない神様に感謝した。