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異空の盟約 うつし世の誓い  作者: ZAKI
第3章 すぐそこに迫る危機
9/42

(3)

 王としての最低限の務めを果たせ。


 かつて臣下だった――正直、それもかなり怪しい、というか、眉唾ものなのだが――という一条漣に、思わぬ要求を突きつけられた遙飛だったが、その解決策が見いだせるとは、とても思えなかった。


 暗中模索五里霧中。


 唯一手がかりとなりそうなのは、やはりここ最近、思い出せる頻度が急激に高まった例の物語である。そのなかで、ある程度把握できる内容が増えれば少しは展望が見えるかもしれない。そう思いはしたものの、いつ、どれだけ思い出せるかは自分でもまるで予測がつかない。おかげで昨夜は、一睡もできなかった。昼のうちに、いろいろなことがいっぺんにありすぎたせいである。


 自分の目の前に、2日つづけて現れた超有名人。よりにもよってその有名人に、ほかでもない自分が目をつけられて追いまわされた挙げ句、まんまと捕まり、奇想天外の極致ともいえる話を聞かされるはめになろうとは。それどころか、追いまわされているあいだに、その話を裏付けるような不気味な生物にまで遭遇してしまった。まったく記憶にない過去の因縁のせいで、自分はその不気味なヤツらに生命を狙われることになるという。そのうえでの、くだんの要求。


 混乱の極みともいうべき状況下で、究極ともいえる無理難題までふっかけられたのだ。いくら遙飛が布団に入って30秒で爆睡できる特技を持っていても、到底、安眠を貪れるわけもなかった。


 おかげで授業がはじまって以降、朝の騒ぎが落ち着いて気が抜けると、一気に眠気が襲ってきた。1限目が、ただ教科書をなぞっているだけの日本史の授業だったから余計だろう。その眠気の延長で2限の体育に移ったせいで、完全にぼんやりと意識を飛ばしてしまっていた。


「遙飛ォ、行ったぞーっ!」


 離れた場所から名前を呼ばれて我に返る。振り向いた目の前に、サッカーボールが迫っていた。


「うわっ」


 首を竦めると同時に、反射的に両腕を上げる。だが、頭を庇って上げた手の動きは、すでに間に合いそうになかった。その耳もとで、風圧とともに間近でボールの弾かれる音が響く。ややあってから、遙飛はきつく閉じていた目をゆっくりと開けた。顔のまえに上げた両腕の透間から、そっと向こうを見やる。すぐ目の前に、脳天直撃の寸前でボールを弾き飛ばしてくれたらしい人物の姿があった。


「平気、篠生?」


 静かな口調で問われて、腕のガードを解除した遙飛は茫然としつつも頷いた。


「あ、うん。……サンキュ」

「気をつけろよ?」


 落ち着いた様子で注意をうながして、その人物はなにごともなかったように遙飛から離れていった。その遙飛に、駆け寄ってきた将輝が気安い調子で背中をはたいた。


「遙飛、おまえ、なにボッとしてんだよ。いくら体育の授業だからって、一応試合してんのにボケッとしすぎ」

「イワッシー、あれ、だれ?」


 遙飛の呼びかけに、「『イワッシー』言うな!」とすかさず反論した将輝は、直後に「は?」と訊き返してきた。


「隣のクラスに、あんな奴いたっけ? 転校生?」


 目線でその姿を追いながら尋ねる遙飛をまじまじと眺めた将輝は、無言で伸ばした手を、遙飛の額に当てた。


「――っ! なんだよ、いきなり」

「無事だったように見えたけど、ひょっとして、見事にヒットしてた?」


 大真面目に訊かれて、なんの話だとその手を振り払う。どこまでもとぼけた様子の悪友をジロリと睨みつけた。


「なに言ってんだよ。どこも打ってないって」

「じゃ、なに? 記憶喪失ごっこ?」

「………………は?」


 今度は遙飛が訊き返す番だった。


「だっておまえ、いま訊いてきたの、湯川のことだろ? ボール弾いた」

「あ、うん」

「1年のときから、ずっとおなじクラスじゃん」


 将輝の言葉に、遙飛はあんぐりと口を開けた。


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