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翌日遙飛が登校すると、当然のことながらとんでもない騒ぎとなった。
教室に入るなり待ちかまえていた級友たちに取り囲まれた遙飛は、もみくちゃにされながらの質問攻めを、四方八方からくらうはめになった。
あれは本物だったのか。なぜ一条漣が遙飛を校門前で待ち伏せていたのか。いつから知り合いだったのか。どういう関係か。あのあとふたりはどこへ行ったのか。あんな有名人と知り合いだったことをなぜいままで黙っていたのか。一条漣は遙飛にいったいなんの用事だったのか。色紙を渡すから、どうしてもサインをもらってきてほしい。遙飛を通じて文化祭に呼ぶことはできないか。自分も芸能界に入りたいから口利きをしてもらえるよう頼んでもらえないだろうか。とにかくなんでもいいから本物に会わせてくれ。
だれがなにを言っているのか、さっぱりわからない。それどころか、皆いっせいに、他の声に自分の主張が掻き消されないよう口々に喚き立てるので、質問内容もごちゃごちゃで、ひとつの文脈として把握できないありさまだった。
気づけば、クラスメイトでない人間も相当数交じっておしくら饅頭状態となっていた。同級生どころか、普段はおなじ階で殆ど見かけることのない下級生たちまでがどさくさにまぎれて乱入している。さまざまなクラス、学年が入り乱れての大騒ぎとなっていた。
「ちょっ……、待……っ」
輪の中心で、朝のラッシュ時の通勤電車もかくやといった密度に自由を奪われ、遙飛は圧死しそうになりながら、懸命にもがいて声を張り上げた。
「こらーっ! なんの騒ぎだっ!!」
廊下にまで人が溢れかえって蜂の巣をつついたような騒ぎ――というか、怪我人を出しかねない大混乱にまで発展したため、ついには職員室から飛んできた教師たちが怒鳴りこんできた。
「おまえたち、いったいなにをやっているっ! なんだって1、2年までが3年のクラスに交ざってるんだっ。早く自分たちの教室に戻れ!!」
教師たちの介入で瞬く間に遙飛を取り囲む分厚い壁が取り払われ、ホッとしたのも束の間。騒ぎの中心にいた遙飛と目が合うや、男子バレー部の顧問をしているバリバリ体育会系の学年主任はドスの利いた声で告げた。
「篠生遙飛、いますぐ職員室へ来い」
生まれてはじめての呼び出しに、遙飛は抱えていた鞄をさらにきつく抱きしめ、足もとから慄え上がった。