表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異空の盟約 うつし世の誓い  作者: ZAKI
第7章 なにはともあれ待たせたな
25/42

(2)


 * * *


『ディルレインッ! ディルレイン、しっかりしろ! 死んではならんっ』


 みずからの詠唱による言霊の威力をもって、意識が過去へと沈みこんでいく。

 腕に抱くのは、黄金の髪、黄金の瞳をした美しい青年。

 左肩から腰の右側にかけてを深く切り裂かれ、傷口から鮮血を溢れさせていた。


「もうしわけ、ございません……我が君……」

「しゃべるな、すぐに手当てをする。気をたしかに持て!」


 傷口に掌をかざし、治癒と再生をうながす文言を唱えようとするファルダーシュを、美貌の青年は押しとどめた。


「もう、手遅れ、かと」


 苦しい息のあいだから、懸命に言葉を押し出す。その声も、すでに消えかかっていた。


「すまぬ、ディルレインッ。俺がおまえとの盟約を早々に断ち切ってさえいれば、本来の力を発揮できたものを」

「ファルダーシュ様のせいでは、ありません。私が…あまかったのです……」


 自嘲を滲ませた笑みのなかに、諦念が漂う。その目が、ファルダーシュの向こう側に佇む人物をとらえるなり、悲愴に変わった。


 ――自分がいなければ、人としての理性を保つことができない同盟者。


 竜種と獣神(じゅうしん)

 決して交わることのない異なる種属に生まれながら、ともに共通の目的を見いだしたことで手を組み、心を通わせてたしかな絆を作り上げた。


 竜種の束ねと目されたほどの穎脱(えいだつ)した力には、同等かそれ以上の能力をもって拮抗し、あるいは相殺させる力が必要だった。そうでなければ、その裡にひそむ獣の本質を完全に押さえこむことができない。それは、相手にとってもおなじこと。

 自分たちはおなじ条件を欲し、望みどおりにそれを満たし合える唯一の存在だった。


 互いにとって必要不可欠で、その身を人界に置くかぎり、単独では決して存在しつづけることができない異端の種。そういう、巡り合わせだった。


 黄金の双眸に、えもいわれぬ悲哀と寂寥が滲む。


 ――おまえを遺して逝くことが忍びない。この先おまえが味わうであろう、はかりしれない苦しみを思うだけで引き裂かれるように胸が痛む。せめておまえの味わう苦しみを、この身にすべて、引き受けていくことができたなら……。


 ラグール、決して相容れることのできない異種に生まれし者。


 それでも頼みに思うのは、ただ、おまえだけ――


「――すまない……」


 胸に迫る万感のひと言とともに、光は墜ちた。

 ファルダーシュの腕のなかで、その想いを示すように、その姿は最期まで、『人』の姿でありつづけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=221134336&s

off.php?img=11
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ