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悠久を手にしたあとに  作者: 都森 のぉ
王妃にならなかった者の苦悩
9/13

3

「・・・開くぞ」


「・・・・・ルーモンド様、いえ、我らが吸血族の王、今まで我らを導き感謝しております。これにて御前を失礼いたします」


「アイリーン、ひとつ聞いておいても良いか」


「何でございましょう」


「何故、一万年もの間、死ぬことのできない苦しみを耐えられた?」


「私の中に、彼が居たからです。私が死ねば、彼を知っている者は人も吸血鬼も居なくなります。私の中の彼を死なせたくなかったから、それだけで一万年もの間生きて来れました」


満月の空に不自然な亀裂が走る。


鳥でもなく蝙蝠でもない、大型の影がいくつも現れた。


「そうか、・・・今回、精霊や魔獣にも声をかけた。流石に魔族は動いてくれなかったがな」


「それでも良い方ではありませんか?魔族はもともと違う空間の種族、こちらは観光地程度のこと、向こうの味方をされないだけ良かったと思います」


「そうだな、始祖族は二人しかいないからな。まぁ、空間を渡るときに力が削がれるように呪いをかけているからな中級程度までならハンターでも対応できるだろう」


アイリーンはハンターに話した内容を少し誤魔化した。


始祖族はルーモンドとアイリーンだけになったというのが正しい。


ほかの者に殺されることも寿命を迎えることもないが、始祖族が始祖族を殺すことはできた。


そうやって、永い時を生きることができなくなった始祖族たちを眠らせてきた。


ルーモンドは吸血族の王であり、民を守るものであり、決して屠るものでは無かった。


そして、共存していた時代を知る吸血鬼として人もまた、守る民のひとつだった。


王の右腕となり、アイリーンは始祖族たちを殺してきた。


王の手が同族の血で汚れないように。


もともとアイリーンは、王に嫁ぐために育てられていたうちの一体だ。


王妃候補となる最も有力だっただけの者だった。


王を異性として愛していなくても吸血族を率いるために王妃になれるくらいには気高かった。


「アイリーン、王妃という肩書を与えてやれないままで済まなかったな」


「王妃でなくて良かったと思っています。王妃となっていましたら同族を手にかける王妃として語り草になっていましたでしょうし」


「そうか」


「はい」


「最期になるかもしれない。好きに動け」


「それは、ルーモンド様」


「一万年だ。その間、自由などなかっただろう」


ルーモンドはアイリーンに協会の手助けをしろと遠回しに言っていた。


その言葉の意味にアイリーンも気づいていた。


「最期に私情で動いても良いのですか?」


「最期だからだ。成功する確率は五割だ。だが、この時のために準備をかけたんだ」


「御前を失礼いたします。ご武運を」


アイリーンは羽を広げてハンターのもとへ向かう。


ルーモンドの力が込められたナイフがあるから居場所はすぐに分かる。


さらに交戦中でもあった。


「ちょっと、こんな雑魚に何てこずってんのよ」


「アイリーン、ならお前が片付けろ」


「人使いが荒いわね」


軽く指を振っただけで、何体もいた吸血鬼が燃えて灰になった。


今まで相手にしていた吸血鬼とのレベルの違いに気付いた者は警戒態勢に入る。


「だいたい、あのナイフ持っているんでしょ」


「持っているが、まったく効果が無いぞ」


「聞いていないの?そのナイフを持っていれば、中級から上級の吸血鬼が近づいて来ないのよ」


「は?下級の吸血鬼はどうなる?」


「近づくわよ。そのナイフに気付かないもの」


二人の認識に齟齬が生じていた。


「貴方たちの中で認識がどうなっているか分からないけど、吸血族は自分より上位クラスの者の力を感じることはできないわよ」


「は?」


「自分と同等か、下の力は測ることはできる。でも自分より強い者の力は測れない。自明の理でしょ?」


「初めて聞いた」


「・・・わざわざハンターに言う吸血鬼もいないわね」


「それより何をしに来た」


「何って、貴方たちのサポートよ。思っていた数より多く来るみたいだから」


普通に会話をする二人を警戒していたが、人をエサと見ている吸血鬼が集まっていた。


人の中にいるアイリーンを警戒して近づいて来ないが、きっかけがあれば乱戦になるだろう。


「雑談をしに来たわけじゃないのよ。・・・出て来なさい」


「・・・これはこれは上位の吸血鬼の方が人如きを守るとは、矜持はどうされました?」


「嫌味を言う前に、名を言うべきじゃないかしら?」


「ダルドリオと申します。位は上の中というところでしょうか」


「そう。私は、いえ、わたくしはアイリーン」


「まさか」


「知っているようね」


「我ら新種でも知っております。王の妃の座を約束された女性で、王に匹敵するほどの力を持つ方だと」


「なら分かるわね」


「はい、この場にいる吸血鬼が束になっても敵うことなく、後ろにいる人に掠り傷ひとつ負わせることなく、焦土に変えられるほどの力を持つ方だと」


「それでも引かないのね」


「もう引けぬところまで来ております」


「そう・・・・・・」


瞬きひとつで、アイリーンは周りを火の海に変えた。


反撃することもできず、辺りの吸血鬼は灰となり朽ちた。


圧倒的な力は人だけでなく、吸血鬼にも脅威だ。


「ひとつだけ、忠告しておくわ。この先、私はすべての吸血鬼を抹殺する。それは戦って勝つなどと言う生易しいものじゃない。圧倒的な存在による虐殺よ。見たくないなら森を出なさい」


「アイリーン」


「今回は逃げても誰も文句は言わないわ」


「俺はハンターだ」


「馬鹿ね、見なくても良いもの見るなんて」


「・・・ひとつ尋ねたいことがある」


成り行きを見ていた一人のハンターが口を挟んだ。


階級章から上級ハンターで、隊長クラスの者であるのが分かった。


「何かしら?」


「何故、同族を殺す?」


「それが私の役目であり、王の望みだからよ」


「なら、人を殺さないのは何故だ」


「ひとつ、だったと思ったのだけど、そうね。始祖族にとってヒトはエサではないわ。知りたいのなら来なさい」


アイリーンなら羽で飛ぶことで移動は可能だ。


それをわざわざ歩くという非効率な手段を選んでいることから付いて来ることを許している。



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