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悠久を手にしたあとに  作者: 都森 のぉ
王妃にならなかった者の苦悩
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「アイリーン」

 

「吸血族を滅ぼすために王は己の命をかけた。本来なら守るための民である者たちを最後の一体まで殺し続けなければならない」

 

「・・・」

 

「恐ろしく気の遠くなることよ。そのために準備したのだけど、確率は半分というところね」

 

森の中心部に近づくにつれて吸血鬼の数が増える。

 

アイリーンが瞬きひとつで灰に変えてしまうから脅威ではない。

 

そして、森に棲むという精霊たちが吸血鬼と戦っている姿を目にするようになった。

 

「何故、精霊が戦っている?」

 

「王が協力を求めたのよ。それに、戦うことが好きな精霊も多いわ」

 

《アイリーン》

 

「メディリア、何かあったのかしら?」

 

《最終段階に移行したようだ》

 

「そう、ありがとう」

 

声だけの存在は、何かを告げた。

 

フィリアを主と決め、元の契約者から離れた幻隷族だ。

 

精霊を視認できる者でも精霊自身が身を隠そうとすれば見れない精霊だ。

 

「アイリーン、今のは何だ」

 

「フィリア様が契約した精霊よ。今回のことで協力をしてもらっているのよ」

 

協力を求めるまでに大変だった。

 

もともとが非協力的種族で、フィリアの命令だけを聞くという契約だ。

 

フィリアは精霊に命令することをせず、お願いで済ましてしまうから嫌なら精霊は断ってしまう。

 

妥協に妥協を重ねて伝達係をしてもらうことで手を打った。

 

「だからと言って、アレが友好的かと聞かれれば否と言うわね」

 

《アイリーン》

 

「何かしら?リシェンダ」

 

《最終段階になったみたいよ》

 

「そう、ありがとう。さっき聞いたわ」

 

《あら、そうなの?でも伝えたわ》

 

声だけの存在は伝えるだけ伝えて去った。

 

聞かれる前にアイリーンは答えてしまう。

 

「さっきのもフィリア様の契約精霊の一柱よ」

 

「精霊同士で意思疎通は無いのか?」

 

「無いわ。精霊にとって契約とは契約した主人との約束事、他の精霊と意思疎通はしないわ」

 

「そういうものか」

 

「そういうものよ。着いたわ」

 

森の中心だけ木が無く、広くなっていた。

 

そこには、ルーモンドと見慣れない吸血鬼がいた。

 

「お待たせいたしました」

 

「そう待っていないさ。アイリーン」

 

「彼は?」

 

「新種たちの王、ガルバディオだ。望みは俺たちの命を使って、俺たちからの支配を受ける前の世界に()()ことらしい」

 

「それは・・・可能なのですか?」

 

何もしていなかった突然変異体の王となるガルバディオが答えた。

 

「可能だ。貴様らの命と引き換えに、支配を受ける前の我ら吸血鬼の世界に()()

 

「本当に()()つもりなのですか?」

 

「あぁ」

 

「若さとは、愚かしいものですね。力だけが強く、精神が追いついていない」

 

「死に損ないがほざくな。今に見ていろ」

 

ガルバディオが呪文を口にする。

 

ルーモンドもアイリーンも止めない。

 

着いて来ていたハンターたちは自分たちの手に負える相手ではないと傍観の姿勢をとる。

 

「・・・輪廻の輪に背いたモノに、(ことわり)を用いて正しきを、時の進みと流れに従い、今我の望みを叶えたし」

 

空にあった空間の裂け目が広がっていき、光が遮られていく。

 

全てを闇に飲み込まれると思ったときだ。

 

ガルバディオの体が歪んだ。

 

「・・・なぜだ」

 

「ガルバディオ、賭けはわたくしたちの勝ちです。その呪文は吸血鬼の力を使うもの。()()()()()()のです」

 

「足りない、だと」

 

「そう、わたくしたち、そして、呪文の詠唱者である貴方、そして数多の吸血鬼たち、それらが持つ力が足りなかったのです。・・・時を戻すためには」

 

「貴様らが何かしたのだろう。騙されんぞ」

 

「貴方は黒の魔女から呪文を受け取ったとき、言われたはず。()()()()のは(ことわり)を歪めること。それを叶えるには吸血族全ての力が必要だと」

 

そこで、アイリーンは言葉を区切った。

 

「だから、わたくしたちは同族を殺めたのです。死を迎えた吸血鬼に力は無く、足りなければ、呪文は完成しません。完成しない呪文は詠唱者と共に(ことわり)を外れて、消えることになる」

 

「初めから、それを狙っていたのか」

 

「えぇ、最後は賭けでした。どれだけ数を減らせるか。それにかかっていましたから」

 

「許さんぞ、俺が死んでも次の奴がいる。貴様らは永劫に命を狙われる」

 

指先から崩れ落ちているが、意識はまだあるのだろう。

 

足りない分の力を無意識に補っているように見えた。

 

「それは無いかな?」

 

「・・・黒の魔女」

 

何の前触れもなく、黒い服の少女が現れた。

 

空間の歪みを生じさせることなく。

 

「君は、望みを間違えたのだよ。時を戻すなどと望まなければ、良かったのに」

 

「何が言いたい」

 

「時を戻すということは、今までの軌跡を消すということ、戻した先に、(ガルバディオ)は生きているのかな?」

 

「何を当たり前なことを、・・・」

 

(ガルバディオ)が望みを間違えた咎は(ガルバディオ)自身で支払われる。戻った先、時が再び動いても、(ガルバディオ)は生まれない。どんな未来になっても(ガルバディオ)だけは無かったことになるのだよ」

 

「今すぐ、俺の望みを叶えろ。間違えたというなら正しい望みに変更してやる」

 

「それは出来ない相談だ。魔女は(ことわり)の中にいる者の願いを叶える存在、すでに時を戻すという禁忌を犯した(ガルバディオ)(ことわり)から外れた存在。魔女である私では手を貸してやることは出来ないのだよ。それほどまでに(ことわり)というものは厄介なシロモノ」

 

「なら俺を(ことわり)に戻せ。そうすれば、願いが叶うのだろう」

 

「分からぬ、坊やだ。(ことわり)の外にいるモノに魔女は関われぬと言っているのに・・・皮肉なものだ。己が命で足りぬ分を補ってしまうとは。時を戻す呪文は完成したようだ」

 

「待て、俺の・・・・・」

 

最期まで言葉を言うことなく、ガルバディオは崩れ、灰となることもできなかった。

 

闇が消え、空にあった空間の裂け目は消えていた。



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