お気楽第三王女でいたいんです。
勢いだけで書いたのでよくわからないものになりました。それでもよろしければ。
兄王子二人が一人の女性にめろめろになっている、という報告は私を絶望の淵に叩き落すのに相応しいものだった。
「え、嘘でしょ?ねぇ、嘘だと言って?今なら怒らないでいてあげるから。ね?」
無駄に可愛らしく小首をかしげてみせたが、目の前の侍女兼護衛であるサリーは、にこりともせず、「間違いありません」ときっぱりと言い切った。
「じゃあ、ダリア様はどうなるの?そのイセリア子爵令嬢とやらにお兄様方はめろめろなのよね?」
「噂によれば、どちらの王子もイセリア子爵令嬢を妃にしたい、とのこと。ベルーセン侯爵令嬢とは婚約を破棄したいと仰せだとか」
「お兄様方はバカなの?」
私の言葉にサリーは、そのようですね、と言ってのけた。
「この噂はすでに学園内にとどまらず、陛下の耳にも入っているようです。あとは廃嫡をいつにするか、というだけのようですね」
「え?廃嫡になるの?二人とも?」
「陛下はそのようにお考えですよ。女に現を抜かし、国の現状をわかっていないような者に国は任せられないとおっしゃっているようです」
「でも、お兄様方が継承権を失ったら誰も残らないじゃない。誰か隠し子でもいるわけ?」
サリーは呆れた、と言わんばかりに正当なお子様がもう一人いるではありませんか、と言った。
「え、私会ったことある?」
「会ったことも何も、姫様こそ王の子でしょう。ご自分が王位継承権第三位であることをまさかお忘れではありませんよね?」
サリーの言葉に私はぐっと詰まった。
そうなのだ。私はトリス国第三王女にして王位継承権を持っているのだった。正直、なぜこんなことにと思わないでもない。そもそも、私は王位を継げるような身でもなければ、継ぐ気もこれっぽっちもないのだ。
それなのに、王位継承権などと御大層なものを持っているのには理由がある。
まず、私の両親について話をしよう。
私の父は、トリス国の国王陛下で、母は父が御幸で訪れたディーセア子爵家の侍女だったらしい。一応、男爵令嬢の身分はあったらしいのだが、男爵令嬢といえども平民とほぼ変わりはないようなものであった上、両親は死別、ほかの親族がすでに男爵家を継いでいるという状態だったらしい。
そんな侍女に王が気まぐれで手を出して生まれたのが私というわけだ。
すでに王には二人ずつ娘と息子がいて、世継ぎの心配もなければ、王が母に手を出したのも大した理由はなかったらしい。ゆえに、一度お手付きになったものの、母は後宮に呼ばれることもなく、王はそのまま帰って行ったのだという。
大変だったのは、妊娠が発覚した後だった。
両親もなければ、後ろ盾となってくれるような存在もない母は、結婚もしていないのに身ごもったふしだらな娘としてディーセア子爵家を追い出される。
追い出された母は親切な町の人らに助けられ、一人娘を出産した。それが私だ。
何事もなければ、そのまま私は母と一緒に街で暮らしていたのだろう。
母にとって誤算だったのは、私が銀色の髪と紫の瞳を持って生まれてしまったことに違いない。
シルバーブロンドや紫の瞳だけをそれぞれ持っている人間というのは、このトリス国においてそれほど多くはないものの、それなりにいる。しかし、両方を持っている人間はいなかった。なぜかはわからないが、この二つの色彩を同時に持つ子供は王家にしか生まれないのだ。
そして、その二色を持つ子供は性別に関係なく、王位継承権を有する。これは、トリス国初代王がその色彩であったためと言われる。原則として男の子のみに与えられる王位継承権も、銀髪と紫の瞳を持つというだけで性別関係なく与えられるのだ。
そういった理由で私は城へと引き取られ、母が平民というのはあまり聞こえが良くないということで、ディーセア子爵家に養子に入ったと聞いている。
私は母がどんな人だったかなんて殆ど知らない。
城に引き取られたものの、私は望まれて生まれた子ではなかった。ただ、銀髪と紫の瞳というだけで王位継承権を与えられている娘。お情けのように、侍女兼護衛としてサリーがつけられたが、それだけ。サリーが驚くほど優秀であったがために、私は人並みの学力と知識を有しているはずだが、実際のところきちんとした教師についたわけでもなければ、貴族の子供が通う学園にも通ったことがないので、自分の頭の出来がどれくらいなのかはわからない。
だけど、今の生活に不満はない。兄王子二人は優秀だと聞くし、彼らのどちらかが王位を継ぐのは確定しているとの大方の見方であって、私にまで王位が回ってくることはない。つまりは、王なんて重責を負わなくて済む、ということなのだ。
結婚についても、すでに二人の姉姫が他国に嫁いでおり、他に縁を結ぶ必要のある国はない。
また、私の髪色と瞳からおいそれと嫁いで子供ができたりするのも問題がある。よって、仮に結婚するとしても王家に万が一何かあったときのための血統ストックともなる公爵家に嫁ぐくらいだ。
公爵家といえばトリス国には三つしかなく、そのうちの一つであるベルーセン公爵家令嬢であるダリア様は次の王妃となることがすでに内定している。血の偏りや権力の偏りは好ましくないため、そうなると私が嫁げそうなのは残り二つの公爵家だが、あいにく、こちらには私と年齢の釣り合う独身者はいない。
となれば、私はこのまま結婚もせず、お気楽な第三王女として死ぬまでひっそり城で暮らすのだ、と呑気に考えていたのだ。
それが。
まさかまさかの青天の霹靂である。
神よ、私が何をしたというのだ。
サリーの報告を受けて、私は急いでダリア様へとお手紙を書いた。このままでは私のお気楽第三王女生活が終わってしまう。そうならないように何か手を打たなければ。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
ベルーセン公爵令嬢ダリア様がいとも優雅に挨拶をなさった。いつみてもこれ以上、次期王妃に相応しい人はいないといえるほどの完璧さである。
「急にお呼びたてして申し訳ありませんわ。ダリア様もお忙しいとわかっていますのに」
とりあえず、お茶でも、とサリーの準備してくれたお茶とお菓子を勧める。この見た目も華やかでしかも美味しいお菓子もサリー特製なのだから、サリー様様である。
ひとしきり、近況などを話し合ってそうしてようやく心の決心がついた私は本題を切り出すことにした。
「あの、こんなことをお聞きするのは大変心苦しいのですけれども。お兄様方がダリア様をないがしろにされているという噂を聞きました。ですけど、噂ですよね?ダリア様がわたくしのお義姉さまになってくださいますのよね?」
なるべくか弱く見えるように頑張ったつもりだが、どうだろう。
ダリア様は少しだけ目を見開いたようだったが、すぐにいつものように優雅な笑顔を浮かべていらっしゃった。
「わたくしもそうなれれば、と思っていたのですけれども」
「残念ながらそれは無理ですねぇ」
と、いきなり第三者の声が。サリーに言って人払いはばっちりのはずだったのに。
「お兄様、いきなり会話に入ってくるなど無粋ですわよ」
ダリア様が乱入者の腕をぺしりと手にしていた扇子で叩いていた。割といい音がしていたのでダメージもそれなりにあったのではなかろうか。
「申し訳ありませんわ。うちの愚兄が」
「ひどいなぁ、これほど有能な兄を捕まえて愚兄とは。っと。そんなことより、姫様ご機嫌いかがでしょうか」
よろしければこちらを、とどこからともなく花束を差し出された。さすが、ベルーセン公爵家嫡男であり、トリス国結婚したい男ナンバーワンなだけある。花束を差し出すのにも嫌味がない。
ダリア様とよく似た面差しを持つアレン様は、姫様だってもうわかっていらっしゃるのでしょう?と言った。
「貴女様が聞いた噂はサリーが集めたものだ。サリーの言葉に嘘はない。ならば、次の王となられるのは貴女様しかおられない」
「ですがっ。もしかしたら他にもっと優れた隠し子がいるかもしれませんし、わたくしは王となるべき教育など受けていないのです。わたくしなんぞが王になるより、お兄様方がなったほうがまだましですわ。それにダリア様が王妃となられるのですもの。お兄様方が間違えたのならダリア様が正せばいいのです」
私の言葉に、アレン様は頑是ない子供を見るような目をなされた。
「いいえ。いいえ。王子方はダリアを妃とすることを拒否なさいました。ダリアが王妃となることはございません」
「ですがっ」
「ええ。この国を存続させていくのにベルーセン公爵家の力は必須。ならば賢い姫様ならもうおわかりでしょう?」
「いやですっ。わたくしはお気楽な第三王女でいたいんです。ぜったいぜったい、隠し子を見つけてやります!そしたらダリア様と結婚していただけるし問題ありません。王位などそんな重たいものいりません」
私の渾身の拒絶に、優しげな笑顔を浮かべていたアレン様が真顔になって私を抱き上げられた。ひぃぃぃ、美形の真顔こわいよぅぅぅぅ。
さて、こうして私(10歳)と腹黒公爵子息(22歳)の追いかけっこが始まったわけだが、結末がどうなったか、はみなさんのご想像にお任せする。
ロリコンなんかに負けて王位を継ぐなんて絶対いやなんだからね!
これ、補足として別視点が必要かなぁという気がしているので、気が向いたら別視点を書こうかな。