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入学試験に挑む

 入学試験まで、アイザックさんに勉強を教えて貰いながら、入試の日を迎えた。


「じゃあ、行って来ます」

「あぁ行ってらっしゃい」

「うむ、頑張って来るのじゃぞ」

「おう、気合い入れていけよ!」

「私が馬車で送るよ」


 皆んなに見送られ、アイザックさんに馬車を出して貰って、ロンバルド高等学院に向かう。


「ユキト様、頑張って下さい。試験が終わるのをお待ちしてます」

「サティス大丈夫かい、アイザックさんから離れちゃ駄目だよ」

「フフフフッ、ユキト君すっかり過保護になってるね。まあサティスちゃん綺麗だからね。大丈夫さ、サティスちゃんローブのフードを被ってごらん」


 アイザックさんに言われサティスがフードを被るとサティスの存在感が気薄になった。


「凄いだろバーバラに借りてきたんだ。そのローブには隠匿の魔法が付与されているんだ」


 これなら安心だな。


 やがて馬車がロンバルド高等学院に着いた。


「じゃあ行って来ます」


 僕は独り馬車を降りて受付に向かう。

 今日の僕は当然丸腰だ、黒いズボンに紺のシャツに何時もの濃いグレーのローブを着て、フードを被っている。ブーツだけは何時ものドノバンさん特製装備だ。試験中にアイテムボックスから、物を出し入れする訳にはいかないので、鞄に筆記具を入れて持って来た。


 受付に書類を提出する。


「お名前はユキト様で間違いないですね。申し訳ございません。顔が分からないので、ローブは脱いで下さい」


 うん、当然ローブは駄目だよね。

 僕がローブを脱ぐと受付のお姉さんが息を呑んだ。

何だろう何処か可笑しいのかな?


「……失礼しました。ユキト様は受験番号286番です。1-Cの教室に入ると机の上に番号があるので時間までに教室へ入って下さい」

「分かりました。有難うございます」


 1-Cの教室に入り、机に座って試験の時間を待った。周りを見渡し他の受験生を観察する。

あぁ…やっぱり居るな。どこにも貴族の子弟という子供が取り巻きと固まっている。


 ユキトは他の受験生を鑑定してはじめて、自分のステータスがおかしい事に気がついた。桁がひとつ違うのだから。


 その後の学科試験の内容については、何も言う事はない。だって簡単過ぎて、時間を持て余して退屈だった。


 学科試験が終わると、直ぐに実技の試験会場に移動した。先ず魔法の実技試験会場で順番を待つ。


「では、280番から290番まで中に入って下さい」


 魔法の試験は、30m位先にある的に魔法を当てれば良いみたいだ。


「では280番から順番に的へ向けて、現在自分の放てる最高の魔法を全力で放って下さい。この会場には結界が張ってあるので、全力で放っても平気ですから」


 280番の受験生から、順番に魔法を放っていく。


「我の求めに従い炎の矢を放てファイヤーアロー!」


 バンッ


 エッ?


「土よ岩の塊となって敵を撃ち抜けロックボール!」


 カンッ


 ……エエッ??


「我は求める全てを呑み込む大いなる水よ我が敵を貫けウォーターボール!」


 パシャ


 …………皆んな何を言ってるんだろう?流行ってるのかな?

それと魔法がショボいな魔法の威力を落とす結界でも張ってるのかな?

そんな感じはしないけど……。


「次は、286番」

「あの…すみません、自分の放てる最高の魔法を全力で放つんですよね?」

「話を聞いてなかったのか!そうだ貴様の全力を見せろ!」


 先生だろうか頭から見下した感じだな、なんだこいつムカついたぞ。

 全力でやらなきゃ、魔法を教えてくれたバーバラ婆ちゃんにも悪いもんね。


「……分かりました」


 僕はおもいっきり魔力を練って、得意な魔法の中で威力の高い魔法を全力で放つ。


「トールハンマーーー!」


 ドガァーーーーーン!!!!


 的のあった場所が、壁から天井から消えて無くなっていた。まぁ先生が全力でって言ってたからね。

さあ実技試験会場に移動しますか。


 ユキト以外の、会場にいる皆が正気を取り戻す前に、そそくさと退散するユキト。





ある魔法実技試験教官 side


 私は何を見たんだ?!

その日私は魔法実技試験の教官として、試験会場で受験生の魔法を採点していた。毎年の事だが、この位の子供が使う魔法は、レベル2の魔法を使えれば良い方だ。

 その時、黒髪の顔立ちの整った美しい少年が、もう一人の教官のバッツ先生に確認を取っている。

 その時、私は止めるべきだったんだ。だけどバッツ先生が「話を聞いてなかったのか!そうだ、貴様の全力を見せろ。」と言ってしまった。そう、言ってしまったんだ。

 その後彼が、信じられない位の濃密な魔力を纏って魔法を放った。複合属性の雷魔法レベル5 《トールハンマー》私はそんな魔法見た事も無かった。しかも彼は詠唱すらしていなかった。多重障壁が張り巡らされた試験会場が、綺麗に半分無くなっていた。…私には彼を教える事は出来そうにない。




受験番号 287番 side


 ロンバルド高等学院は、大変優れた教育機関として知られています。各国の貴族は他国に遅れを取らない様に、こぞって子弟を送り込むのです。

 私はイオニア王国の伯爵家の三女に産まれ、本来なら政治の道具として、姉達の様に政略結婚させられる為、わざわざ国を離れてこの学院を受験することはありませんでしたが、けれど私には幼い頃より魔法の才能が有りました。

 私の才能を知った父は、私を宮廷魔導士として王宮に送り込む方を選択したのでしょう。

 学科の試験が終わり、魔法実技の試験会場に着いて順番に魔法を放つ他の受験生を見ていました。どの受験生も、良くてレベル2の魔法しか使っていません。

 その時私は、合格出来ることを確信しました。戦闘に耐えるレベルの魔法を使える、魔法使いはとても貴重です。レベル2の魔法を使えるだけで持て囃されているのです。でも私は現時点で、レベル3の魔法を使えるのですから。実戦レベルの魔法を使える魔法使いは貴重なので、魔法実技の試験の結果は重視されるのです。

 でもそんな浮かれた考えは、私の直ぐ前の受験生によって吹き飛ばされてしまいました。私も緊張していたのでしょう。その時になって初めて彼を見ました。珍しい漆黒の髪に中性的な美しい顔、細身だけど鍛えられてる事が見て取れるしなやかな身体、思わず見惚れてしまいました。

 その黒髪の少年は、教官の先生に本当に全力で魔法を使って良いのか確認を取っていました。この会場には結界が張られていることは説明を受けた筈なのに、私は不思議に思いましたが、彼が魔法を放つとそこに居た彼以外の全ての人が茫然としていました。

 何故なら、試験会場が半分消えていたのです。我に返った時、彼はもう居ませんでした。結局、私以降の受験生は、会場を替えて試験を受けました。でも私の頭の中では彼のことで一杯でした。彼はいったい何者なの?彼はあの時、何の魔法を使ったの?彼と同じクラスになれれば話をする機会もあるかしら。その為には絶対に合格しなければ。





 実技試験は得意な武器で教官との模擬戦みたいだ。


「286番、どの武器を使う」


 刀は無いみたいだけど剣で良いか。


「じゃあ、剣で」


 木剣を選んで試験教官に向かう。


「どっからでもかかって来い!」


 うーん隙だらけなんだけど……、誘ってるのかな?でもステータスを鑑定すると、僕の半分もないな。


「じゃあ、お言葉に甘えて……」


 次の瞬間、踏み込み横薙ぎの一閃を放つと試験教官が壁まで飛んで行った。

会場にスタンバイしていた、治癒魔法士が慌てて走って行き、回復魔法をかけている。


 うーん、死んで無いよね。


「え~と、もう終わりですか?」


 別の試験教官に聞く。


「……あぁ、終わりだね」




ある武術実技試験教官 side


 今年は素質のある生徒は居るだろか。

 貴族の子弟は、幼い頃から剣を習うので、最初からある程度使える子供が多い。そんな時現れたのが、黒髪の少年だった。

 少年の相手は、冒険者としてもBランクの実力を持つアバイン先生だ。その日、他の受験生を軽くあしらっていた先生が、黒髪の少年に「どっからでも、かかって来い!」と少年に発破をかけると、少年は気負うことなく「じゃあ、お言葉に甘えて…。」と言った瞬間、少年の姿は掻き消えアバイン先生が壁に張り付いていた。

 慌てて治癒魔法士が回復魔法をかけていたが、後から聞くとかなり危険な状態だったらしい。動きを目で追えない少年に、私は何を教えれば良いのだろう。




 何故か僕は学院長室に呼ばれていた。


 コン、コン。


「……どうぞ入りなさい」

「失礼します」


 部屋に入ると、壮年のエルフの男性が書類の山と格闘していた。


「どうぞお座り下さい」


僕がソファーに掛けると学院長が顔を上げた。


「……試験会場を半壊させたそうですね」

「自分の放てる最高の魔法を、全力で放てと言われましたから」

「いえ、君を責めている訳じゃ無いんですけどね」

「後、実技試験の教官を一撃で沈めたそうですね」

「どっからでもかかって来いと言ってたので」

「ハァ~、当学院の先生が何名か辞表を出しましてね。君に何を教えれば良いのか教える事が無いそうです」


 学院長が深い溜息をつくと聞いて来た。


「君はこの学院で、何を学ぶ積もりですか」

「魔道具の作製や魔法陣に付いて学びたいです」

「剣や魔法じゃないのですか?」

「僕は剣術は爺ちゃんが居ますし、魔法はバーバラ婆ちゃんとアイザックさんに教えて貰ってますから」

「……ハアーッ、何をしてるんですかあの人達は」


 あれ、爺ちゃん達と知り合いかな?


「爺ちゃん達を知ってるんですか?」

「それはそうです。アイザックに入学願書等の書類を渡したのは私ですからね」

「えっと、もしかして爺ちゃん達の昔の仲間ですか?」

「えぇ、フィリッポスと言います。ユキト君はノブツナに剣術を、バーバラに属性魔法をアイザックに回復魔法を、教えて貰ってたのですね。参考の為に聞きますが何歳頃から訓練を始めたのですか?」

「正確には、爺ちゃんに教えて貰ったのは刀、槍、棒、弓を3歳から、バーバラ婆ちゃんは魔法の訓練を1歳からしてたそうです。ヴォルフさんにも3歳から体術とナイフをアイザックさんには、回復魔法と光魔法を5歳からですね」


 今度こそフィリッポスさんは頭を抱えてしまった。


「あの人達は、物心も付いていない頃から何をしてるのです。……はぁ、ユキト君のステータスを想像するのも怖いですね」

「それで僕は不合格なんですか?」

「学科も実技も文句無しのトップの生徒を、不合格には出来ません。しかしユキト君、君の実力が各国の貴族や国の中枢にいる者達に知られたら色々と厄介ですよ」

「気にしませんよ、爺ちゃん達も貴族の子弟に絡まれたり喧嘩売られたら買えって言われてますから。国が相手でも喧嘩するって言ってたので」

「本当に国相手でも勝てる気がして嫌ですね。しかしノブツナ達はそういった事を嫌って身を隠した筈なのに。はぁまあ貴方の為なんでしょうね」

「僕の為?」

「えぇ、貴方には自由に生きて欲しいのでしょう。その為の力を身につける鍛錬をして来た様ですし、貴方の為なら矢面に立つこ覚悟があるのでしょう。其れこそ国を相手に喧嘩をするくらいには」


 フィリッポスさんは疲れた表情で、今日何度目かの溜息をつく。


「正式には結果発表してからですが、取り敢えず試験は首席で合格です。ユキト君、ようこそロンバルド高等学院へ歓迎します」


 学院長室からアイザックさんとサティスに合流するべく学院の門へ向かって歩いていると、何だか色々な所から視線を感じる。中には露骨に敵視する視線も含まれているので余り気持ちの良い物でもない。


 足早に歩いて校門を目指す。やがて馬車の待機所にアイザックさんを見つけ駆け寄る。


「やあ、試験どうだった?」

「ハイ、学院長先生には合格と言われました」

「あれ、試験は受けたばかりなのにもう合否が分かるんだ。あと学院長に会ったのかい?」


 ユキトは実技試験であった事を説明した。


「成る程、それは学院長室に呼ばれるね。でも脆弱な結界だね、ちゃんとした多重障壁を張ってれば少し壊れる程度で済んだのにね」

「……あの、アイザック様、ユキト様。試験会場を半壊させて大丈夫なのですか?」

「大丈夫ですよ、向こうが全力で魔法を使えと言ったのですから。簡単に壊れる程度の結界しか張らなかったフィリッポスが悪いんです」

「……そうなんですか」

「さあ早く家に帰りましょう。ノブツナ達が首を長くして待ってますよ」

「ユキト様、改めておめでとうございます」

「ありがとう、サティス」


 僕達は爺ちゃん達の待つ家へと馬車を走らせた。

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