商業都市ロンバルド
馬車での旅にも慣れてきた頃、僕の眼にもロンバルドの街が見えてきた。
サティスも大分皆んなに慣れてきたみたいだ。ただ僕に対して、過剰な位構ってくる様になった。僕も絶世の美女のサティスに、お世話されるのは嬉しいけど若い女の人に免疫がないから少し恥ずかしい。
街に近ずくにつれ、その大きさが分かってくる。街を囲う防壁は高さ10m位あるだろう。
「ウワー、何この大きさ!今まで寄った街と比べ物にならない位大きいよ!」
「そりゃそうじゃ、ロンバルド都市同盟の中心都市じゃからの」
街の門前に多くの人が並んでいる。ユキト達の馬車もその列に並ぶ。ふと防壁を見たユキトは防壁に結界の魔法がかかってることに気付いた。
「気付いたかいユキト君、防壁には物理障壁と魔法障の結界が施してあるんだ」
「大きな街には大抵何がしかの結界は張ってあるもんじゃ」
アイザックさんと爺ちゃんが、教えてくれる。
ある程度の大きさの街には、この程度の防壁は最低限備えているらしい。
門を護る兵士が、騎士の姿とは少し違う気がする。
「フーン、あの門に立ってる兵士は騎士じゃないよね?」
「ここは都市同盟だから王等は居ないからね。この都市に居るのは自警団だね」
「そうだユキト!ステータスカードの名前と年齢、種族とファーストジョブ以外は消しとくんじゃ」
爺ちゃんが、思い出した様に言ってきた。
「消すってどうするの?」
「消えろって思いながら、消したい場所をなぞってごらん」
アイザックさんに言われた通りに、ユキトはカードを出して消したり出したりしてみてから、言われた通りにする。
「個人のステータスやスキルは、他人には見せない様にするんだよ」
そうこうするうちにユキト達の番になった。
「ステータスカードを見せて下さい」
兵士に言われて準備に見せていく。
「ハイ、結構です。ようこそロンバルドへ」
門を抜けて街に入る。
「時間も早いですし、先に商業ギルドに行きましょうか」
「そうだね、上手くいけば今日中に良い物件が見つかるかもしれないからね」
アイザックさんの提案で、商業ギルドに家を紹介して貰う為に、向かった。
ロンバルドに詳しいアイザックさんが御者をして商業ギルドに向かった。
15分くらい走った所にある、三階建ての豪華な造りの建物が商業ギルドだった。馬車を馬車置場に停めて、爺ちゃん達が建物の中に入っていった。僕とサティスはお留守番だ。
暫くの間待ってると、爺ちゃん達が商業ギルドの職員らしき人を連れて帰って来た。
「随分と時間が掛かったね」
「爺い共が色々とうるさく言うもんだから中々決まらなくてね。…ハァ、結局条件に合う物件が一軒だけ見つかったから今から観に行くのさ」
婆ちゃんが、うんざりしてそう言った。
ギルド職員の案内で馬車を走らせる。
ロンバルドは、行政区、商業区、居住区と区画が別れている。馬車は商業区にあったギルドから居住区の中でも高級住宅街へ入って行く。やがて一軒の家の前で馬車は止まった。
大きな門と外壁に囲まれた、豪邸がユキトの目の前に建っていた。
「……婆ちゃん、大きすぎない?」
「爺い共の要望を叶えると、この物件しか残ってなかったんだよ。広い分には良いじゃないか」
「それでは案内しますから中を見て下さい」
ギルド職員さんが鍵を開けて家の中に入る。
建物は煉瓦造りで、その上から漆喰を塗ってある。二階建てで凹をひっくり返した形をしていた。
入り口を入ると広いホールになっていて、二階に上がる階段がある。一階にはリビングと食堂とキッチンに広いお風呂があった。二階には個室が9部屋と書斎と応接室があった。地下に倉庫とワインセラーが有り裏庭も広く申し分ない。
トイレは一階と二階併せて4箇所有り、下水は魔道具を使い処理しているそうだ。
「ここで良いんじゃねえか」
「うむ、裏庭の一画に儂の工房を建てても良いなら儂はかまわんぞ」
ヴォルフさんとドノバンさんは、ここが気にいったみたいだ。
「それで値段は如何なんだ?」
「はい、賃貸でしたら一月金貨30枚、購入される場合は白金貨3枚になります」
「じゃあ、買っちまうか」
「ふむ、では儂が出しとくぞ」
爺ちゃんが白金貨3枚を出してギルド職員に渡す。
早速契約書を作成し、契約を結んで鍵の引き渡しを済ませた。
「掃除は昨日、定期的な清掃を済ませてありますし、灯りの魔道具やコンロやトイレ、お風呂の魔道具の魔石は全てサービスしておきます」
「それじゃあ、手分けして必要な物を揃えるよ」
婆ちゃんの号令の下、必要な物の買い出しに出かける。僕とサティスは婆ちゃんと食器や日用品を買いに。爺ちゃんとヴォルフさんが家具を、ドノバンさんは工房を建てる用意を、アイザックさんは僕の入学願書を提出しに行った。
婆ちゃんの指示で、買った物を片っ端から僕のアイテムボックスに放り込んでいく。
「そうだユキト。ルドラの従魔登録をしておかないといけないね」
「何処で登録するの?」
「行政区の役所か、冒険者ギルドか従魔ギルドだね」
「従魔ギルドなんてあるんだ」
「あぁ馬の代わりに馬車を引かせたり、荷物運びをさせるのに、魔物使いや召喚術士が従魔を使うのは、一般的だからね。以外と従魔の需要はあるからね。古くからあるギルドだよ。まぁどこで登録しても良いんだけどね、従魔と野生の魔物を区別する為に、登録はしなきゃいけないのさ」
買い物を済ませ一番近くにある役所で手続きをすることにした。行政区の中でも一際大きな建物が役所だった。建物に入って受付に向かう。
「すみません、従魔登録をお願いしたいんですけどこちらでいいですか」
「ハイ、此方で伺っています。銀貨5枚頂きます。此方の書類に記入して、登録する従魔と登録される方のステータスカードを提示して下さい」
ユキトは書類に必要事項を記入して、ルドラを呼び出すと受付のお姉さんが目を見開いて驚いている。
「グリフィンを従魔にするのは初めて見ました」
「これで良いですか?」
ユキトが、カードを見せる。
「申し訳ありません、こちらの魔道具にカードを当てて下さい。…………はい、これで登録プレートを発行致します」
プレートは数分で出来たので、ルドラの首にチェーンを通して取り付けた。
辻馬車を使って家に帰ると、爺ちゃん達が先に戻っていた。
「ただいまー!」
「うむ、家具は部屋に入れて置いたから位置の調整は自分たちで出来るじゃろう」
「食器類を入れてくるね」
食器や日用品を整理し終わりリビングに行くとソファーに爺ちゃん達が座っている。
「ユキトの部屋は右側の端にしたぞ、ベッドとチェストは入れて置いたからの備え付けのクローゼットも有るから取り敢えずは間に合うじゃろう」
「サティスの部屋は、どこになったの?」
「なにを言うとるんじゃ、サティスはユキトの奴隷じゃろう。同じ部屋に決まっておろう」
「ええええっ!……なんで?!」
「うるさいよ、諦めなサティスにはユキトの世話をして貰うって言ってただろ」
「避妊はちゃんとしろよ」
「ヴォルフさん!なに言ってるのさ!」
「みんな余りユキト君をからかっちゃ駄目だよ」
ユキト君とサティスちゃんが、同じ部屋なのは決まってるんだけどね。……とアイザックさんにも言われてしまい、何も言えなくなってしまった。
「ベッドはデカイのを買ったからな」
「……エッ、と、まさかベッドが一つしか無いなんて事ないよね」
「「「一つに決まってるじゃないか」」」
ハァ~、サティスの方を見ると顔を真っ赤にしてモジモジしてる。サティスが嫌じゃなきゃ良いのか?
「さあ、さあ食堂へ行くよ。夕飯にしようじゃないか」
今日は料理を作る時間が無かったので、屋台で買った食べ物で済ませることにした。
先に裏庭にルドラを召喚して、アイテムボックスからオークを一体出してあげる。その後食堂でテーブルの上に、僕のアイテムボックスから串焼きや煮込みあとパンを出していく。
「「「「いただきます」」」」
「食事の途中に申し訳ない。ユキト君学校の入学試験は1週間後だよ」
「なんだ、結構ギリギリに着いたんじゃねぇか」
「ユキト君は、学科と実技共に今更何もする事有りませんから、当日じゃなければ大丈夫だと思ってましたからね」
「学科って何があるの?」
「簡単な地理や計算問題、後はロンバルドの歴史ですかね。歴史に関しては一週間で私が詰め込みますから安心して下さい」
「実技は何をするの?」
「実技は魔法と武術の両方ですね。ユキト君なら問題ないでしょう」
「他に何か気を付ける事はありますか?」
「……うーん、そうだねこのロンバルド都市同盟自体は貴族は居ませんから、選民意識に凝り固まった貴族とのトラブルは余り無いのですけど……ロンバルド高等学院は、事情が変わるのです。実はここの学院の教育レベルが高いことは大陸各国で有名でして、各国の貴族の子息息女がこぞって入学する為に、平民と貴族の軋轢があります。貴族の全てが選民意識に凝り固まっている訳ではないでしょうけど、気を付けるに越した事はありません」
うーん、なんだか面倒だなぁ。ただでさえ友達が一人もいないのに。
「ユキト、お前はその前に同年代の子供とコミュニケーションを取ることが課題だからな」
ヴォルフさんが酷い事を言ってるけど…間違いじゃないな。
「ユキト、貴族に喧嘩売られたら徹底的にやっちまえ。戦争になったら俺たちで潰しちまうから!」
駄目だヴォルフさん酔っ払って来てる。
「ユキト、ヴォルフはちと極端だが貴族なんぞにヘイコラする事はないぞ。喧嘩なんぞ幾らでも買ってやれ」
「そうだぞ、そんな奴等は儂のハンマーで叩き潰して炉に焼べてやる」
「アタシ達は子供の喧嘩に顔を出すよ」
「ハァ~、バーバラ貴女まであおらないで下さい」
「そう言うアイザックはユキトが貴族の馬鹿息子達に馬鹿にされても平気なのかい」
「ユキト君が馬鹿される……滅せねばなりません」
出来るだけ波風立てない様にしなきゃ、爺ちゃん達貴族に良い思い出がないんだな。
食事が終えて順番にお風呂に入って部屋に戻った。
うん、一つしかないねベッド、うん。
「エッ、と、サティス寝ようか」
「ユキト様、私は床でも構いません」
「駄目だよそんなの!何なら僕が床で寝るよ!」
「……ユキト様、私が一緒でも構いませんか?」
「寝ようか」
サティスの手を取り、ベッドに入り眠りについた。
広いベッドに少し離れて寝ているけど……サティスの良い匂いが漂って来る。試験までに寝不足にならなきゃいいけど。