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魔石を求めて

「どうして、私まで一緒に行かなきゃいけないの!?」


 ヒルダが叫ぶ。


「だって、私だけじゃ心細いじゃない!!」


 マリアが、ヒルダに叫ぶように応える。


 マリアとヒルダが叫ぶ原因は、彼女達の足下にある。彼女達が現在どこに居るのかというと・・。


「もうすぐ着きそうかい?」

『あぁ、もう直ぐ見えて来るじゃろう』


 ユキトが、聞くとアグニが応える。

 そう、マリアとヒルダはユキトに連れられ、高速で飛行するアグニの背に乗っていた。


「ユキト様、お茶はいかがですか?」


 高高度を高速で、飛行しているアグニの背に乗っているのを感じさせず、何時ものようにユキトの横に付き従うサティスが、水筒からお茶を淹れてユキトに渡す。


「どうしてあの人達は、こんな所で普通にお茶してるのよ!」

「しらないわよ!」


 マリアとヒルダが抱き合い、下を見ない様にしながら、目の前で普通にお茶をしているユキト達を、信じられないと非難する。


 大陸の南に位置する、ロンバルドから南に向けて飛行するユキト達。なぜユキト達がアグニの背に乗って移動しているのかというと、飛空船に使用する高ランクの魔石をどうするか考えていたユキトに、アグニから竜の墓場に有る魔石を使ってはどうか、と提案され「それは竜的に大丈夫なの?」と聞いたユキトに『なに、魔石でも骨でも持って行くが良い。幾らでも有るからの』と死んだ後の骨や魔石にこだわりはない様だった。


 竜の墓場は、大陸の南から離れた無人島で、激しい海流の所為で海路で近づく事は難しく、人が近づく事は無いそうだ。人が訪れる事がない為に、島には様々な魔物が生息するが、島の中心部にある山、竜の墓場には魔物は近づかない、とアグニが言っていた。


 マリアを連れて来たのは、その魔物で修行がてらレベリングをしておこうと思ったからだ。ユキトは、ここ最近の各地で起こる魔物の氾濫に、確信は持て無いが違和感を感じていた。他国の貴族だが、せっかく友達になれたマリア達のレベルを上げてステータスを底上げする事は、無駄にならないと思ったのだ。




『ほれ、見えて来たぞい』


 アグニの声に確認すると、中央部に高い山がある無人島が見えて来た。



 やがて島の沿岸部の海岸に降り立つと、ルドラ・バルク・ジーブル・エリン・ヴァイスを呼び出して、マリアとヒルダのレベリングのサポートを頼むと、サティスとアグニに乗り竜の墓場へ向かう。


「「おいてかないでぇ~~~!」」


 マリアとヒルダが叫び声が聞こえるが、皆んなが居るので心配ないだろうと、ユキト達は竜の墓場へ急いだ。




 山の頂上付近は、街ひとつ入りそうな広場に竜の骨や鱗が散乱していた。


「……これは凄いな」

「ハイ、凄いですネ」


 ユキトの呟きにサティスが頷く。


「ん?」『……やれやれ』


 ユキトとサティスが同時に何者かの気配に気付く。


「アグニ、どういうこと?」


 竜の墓場に魔物は、近寄らないとアグニが言っていたので、問いただす。


『恥ずかしい話なんじゃが、たまに未練を残した個体が、アンデットになる事があるんじゃ。タダでさえ寿命の永い竜が、己の寿命を悟り竜の墓場に来るんじゃ。その時点でアンデットなんぞになる訳が無いんじゃが……たま~に、ああいった未熟者が居るんじゃよ。図体ばかりデカくてもこれじゃあのぅ』


 アグニがそう言うと、骨の山から一体のボーンドラゴンが現れた。禍々しい黒い霧を纏った巨体が動き出す。


「サイズはアグニより大きいな」


 GAOOOOONーーーー !!


 シュ、ドガーーーン !!


 ボーンドラゴンの咆哮を合図に、サティスが弓を射る。矢が当たると炎を上げて爆発音が響くが、たいしてダメージは無さそうだ。


『腐ってもドラゴンじゃからの、物理も魔法も耐性がある程度あるんじゃ。ユキトや、ひと思いに浄化してくれんか』


 ユキトは、頷くと用意していた魔法を解き放つ。


「サンクチュアリィ」


 ユキトを中心に、神聖な光が竜の墓場を覆っていくと、ボーンドラゴンは苦しむことなく浄化され、後に白く輝く骨を残して動きを止めた。


『ふむ、ご苦労じゃたの。うん?……ユキトの浄化魔法の威力が強すぎて、骨が光属性を帯びて強化されておるのぅ。丁度えぇから、こ奴一体丸ごと持って帰ればえぇじゃろう』


 アグニの言ったとおりに、ボーンドラゴンの骨は白く輝き神聖な魔力を纏っていた。ユキトは、ボーンドラゴンを一体丸ごと収納して、骨や牙や爪と巨大な魔石を手に入れた。


 その後、ボーンドラゴンよりひと回り小さな魔石を二つと、骨と竜の鱗を各種手に入れたユキトとサティスは、アグニに乗ってマリア達のもとに戻った。




 ユキト達が海岸に戻ったとき、マリアとヒルダはグッタリとして座り込んでいた。


「マリア、どう?レベルアップ出来た?」


 ユキトがアグニから降りて、マリアに修行が上手くいったか聞いた。ジーブルやバルクが居たので、余り心配はしていなかったが、それでもエリンのレベリングも兼ねていたし、ヴァイスはエリンに付きっきりだった事も有り、マリアとヒルダの無事な様子を見て安心する。ルドラはユキト達以外の人には従わないので自由行動だったので、数に入っていない。


「レベルアップ出来た?じゃないわよ!ユキト酷いじゃないの、死ぬかと思ったわよ!」

「うん、元気そうで良かったよ」


 噛み合わない会話に、マリアはユキトに抗議するのがバカバカしくなって黙り込む。確かにマリアはおろかヒルダまで、今日半日程の時間に二十以上、レベルが上がっている。それ自体は、強くなれて有難いと思う。ユキトが残していった召喚獣達も異常な程の強さだった。だけど、半日で二十以上レベルが上がるという事は、それだけ格上の魔物ばかりと戦ったという事だ。


「はぁ~、まあいいわよ。レベルが上がって強くなれたのは、本当だものね」


「うん、二人共レベル四十以上になったようだし、もう少し良い装備を揃えたほうがいいね。帰ったら練習がてら造ってみるよ」

「うそ!ユキトが装備を造ってくれるの?」

「あぁ、備えあれば憂い無しだからネ」


「・・・チョロ過ぎる」


 装備が貰えるとなって喜ぶマリアを見て、ヒルダが呆れながらボソリと呟いた。




 目的の魔石や竜の骨を手に入れ、マリアとヒルダのレベリングも上手くいった様なので、帰りは転移でロンバルドへ帰った。

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