帰って来た日常
あれから新しい街(ヘリオスと名ずけられた)の開発と防衛は、自警団と奴隷から解放された獣人部隊に代わっている。
獣人の集落からの移民を受け入れ、現在獣人だけで約2000人、自警団が400人とその家族を合わせて約1500人、他にも商人や南東側の穀倉地帯を農地に開発する為の農民が、都市同盟からの補助を受け集まって来ている。
僕はと言うと、ロンドバル都市同盟のパルミナ王国側にあるペトラと言う街の防壁を強化して、さらに砦を二カ所作る手伝いをしていた。一応報酬は貰っている。だけど僕は、お金はもう使い切れないくらい稼いでしまった。
2万の魔物のうち、魔石さえ残さず消えた魔物も多かったが、それでも1万5千はあった魔物の素材と魔石の売却代金は、後始末を手伝ってくれた冒険者や自警団に報酬を支払っても莫大な物だった。
それを皆んなで分けたんだけど、ハンス先輩は余り役に立たなかったからと、少ししか受け取ってくれなかった。サティスに至っては「私はユキト様の奴隷ですから頂けません」と言って丸々僕に預けられた。結果僕の手許には白金貨40枚が残った。
ヴォルフさんは獣人部隊の家族や移り住む集落の人達の為に寄付していた。フィリッポス先生とアイザックさんは、農地が出来て収穫が出来るまでの補償に使うみたい。爺ちゃんはヘリオスにも僕等の家を作るのだそうだ。ドノバンさんも新しい工房を建てインゴットを買うと言ってた。
僕はヘリオスから学校に通うのかな。転移すれば良いだけだけど、そう僕は三年生に進級した。ハンス先輩は卒業してヘリオスの自警団に入った。
それとロンドバルのお祭り騒ぎは酷かった、吟遊詩人が僕等の英雄譚を歌い街中に僕の事が知られ、僕は恥ずかしくて街を歩けなかったよ。
「ユキトお兄ちゃーん!ごはんだよー!」
アメリアちゃんが呼びに来た。癒されるな~。
朝の鍛錬を終えた僕を呼びに来るのはアメリアちゃんの仕事らしい。
「分かった、今行くよ」
飛びついて来たアメリアちゃんを抱きあげて食堂へ行く。
「「「おはようございます」」」
サティス、イリス、ティアが挨拶して来る。
サティスとティアは、一緒に寝てるんだけどね。
「おはよう」
「ユキトは今日から学校か」
「うん、爺ちゃんは出掛けるの?」
爺ちゃんは旅装をしていた。爺ちゃんはニヤっと笑うと。
「アイザックと一緒に、貴族共に奴隷されているエルフや獣人を解放して助けるのじゃ!」
「良いの?そんな事して」
「攫われた違法奴隷を救うのじゃ、何が問題ある!という事でユキト転移の魔石を一杯くれんか」
「転移の魔石一杯くれんかって………分かったよ、用意するよ。ひょっとして行きも転移するの?」
「当たり前じゃ、年寄りに長旅をさせるつもりか。多めに用意するんじゃぞ」
「ユキト君お願いしますね、此れも人助けです」
あれ?アイザックさんが旅装なのは分かるけど、ヴォルフさんまで旅装だぞ。
「ヴォルフさんも出掛けるの?」
「おう、俺にも転移の魔石くれ!マーカーもな!」
あれ?マーカーが必要だってことは……
「……えっと、マーカーがいるってことは……」
「おう、移住を希望する集落があったら転移じゃ無理だろ、ゲートじゃねえと」
「……僕が、マーカーへ跳ぶんだね」
「理解が早くて良いな、じゃあ頼んだぜ!」
ヴォルフさんはロンドバル以外で、獣人が隠れ住む集落を周るみたいだ。
僕は朝食を済ませると、自室に戻りサティスとティアに着替えさせられて学校へ転移する。
研究室に直接転移すると、既にフィリッポス先生が来ていた。
「おはようございます」
「はい、おはようございます」
僕は温めていたアイデアを形にする為に、術式の開発に取り掛かる。
「ユキト君も三年生になった訳ですが、今度は何を研究するのですか?」
「新しいゴーレムを作ろうかと思ってます」
「ゴーレムですか?新しいという事は今のゴーレムとは違うのですか?」
「一応設計図は描いて来たんですけど術式の方が難しくて。」
僕は設計図をフィリッポス先生に見せる。
「これは……随分突飛な……確かに新しいですね」
「拠点防衛用に良いんじゃないかと思いまして」
「そうだね、術式が複雑で制御が難しそうだけどユキト君ならできると思うよ」
改めて机に向かい、図書館で借りた魔法文字と記号の本を読みながら術式を考える。
少し時は遡る。
イオニア王国 ロアール伯爵家
「ロンドバルはどうなったかしら」
マリアはロンドバルから実家へ戻っていた。
ロンドバルから魔物の氾濫から逃げ帰ってきた自分が酷く汚い人間になった様な気がしてた。
その時、恰幅の良い壮年の男が部屋に入って来た。
「マリア、ロンドバルに戻る準備をしなさい」
入って来た男はハロルド・フォン・ロアール、ロアール伯爵家の当主でマリアの父だ。
「お父様、どういう事でしょうか?私はロンドバルから帰ったばかりですし、魔物の氾濫はなかったのですか?それともロンドバルにはあまり被害がなかったのですか?」
ハロルドはマリアの向かいのソファーに腰をおろすと国に届いた情報を聞かせる。
「魔物の氾濫はその日の内に終息した」
「よかった、街は無事なんですか?」
「街は無事だ、魔物は一匹も街へは辿り着けなかった様だ」
父の様子が少しおかしい様な気がする。
「お城でどの様な報告を受けたのですか?」
「うむ、我が国の諜報部の指摘通り魔物の氾濫は起きた。その数およそ2万 ロンドバル方面へ溢れ出したそうだ。問題はここからだ、溢れ出した2万の魔物はその日の内に殲滅されたそうだ」
「2万の魔物をその日の内に……ロンドバルが全軍を動かしたのですか?」
「ロンドバルが自警団を全軍投入したとしても無理であろう、複数の亜竜やトロールやオーガ、オークの上位種も確認された様だ。我が国が10万の軍を投入して撃退出来るかどうかということろだろう」
「ロンドバル単独ではなく、他国と連携して撃退したのですか?」
「そうであれば良かったのだがな、氾濫を鎮めたのは嘗て大氾濫時の六英雄とユキトという少年だそうだ」
「ユキトが!」
「マリアはクラスメイトだったな。彼は六英雄の一人、剣聖ノブツナ殿の孫らしい」
「ユキトが英雄の孫!……けどお父様、彼は魔法も凄かったのですが」
「彼は六英雄のうち五人の英雄に育てられたらしい。特に魔法は爆炎の魔術師バーバラ殿が、彼が物心がつく前より鍛えられた様だ」
「そこまで詳しく良く調べられましたね」
ハロルドは首を横に振り苦笑いする。
「なに、我が国の諜報部が優れている訳ではない。同じ学校の一学年上に、ハンスという獣人の生徒がユキトという、その少年と親しくしているらしくてな。彼の家にも出入りを許され、拳王ヴォルフ殿に教えを受けていたらしい。その関係か氾濫時にも現場に居合せ、街に戻ってからその時の話を皆にせがまれ話しているようだ」
「後ろめたい思いをして、帰ってきたのがバカみたいです」
「仕方なかろう、誰が魔物の氾濫を犠牲者も出さず、その日の内に殲滅してのけると誰が予測しうる。しかし彼が我が国の民であったなら、大陸統一も夢ではなかったものを」
「お父様、六英雄の孫である時点でそれはあり得ないのでは無いですか?」
「分かっている唯の愚痴だ。我が国は帝国の圧力にも晒され常に緊張状態にあるからな」
「お父様、準備を済ませてロンドバルに戻ります」
「うむ、彼とは仲良くしておくのだぞ」
父の言葉にマリアの表情がかげる。
「……はい」
「うん?…どうかしたのか」
「実は、……」
マリアは以前、自国に勧誘してその後距離を置かれた事を話した。
「ふむ、早まったな。マリア、彼は特に六英雄に育てられた少年だ、六英雄が何故姿を消したのか分かるな。……その時点では六英雄との繋がりは分からなかったから仕方の無い事だか、それにしても潜在敵国の少年を勧誘するならジックリと時間をかけて臨むべきだったな」
「お父様、申し訳ありません」
「うむ、……なに、我が国に取り込めなくとも仲良くする事は意味がある。友達として仲良くする事からはじめて見るといい」
「はい、わかりました」
ロンドバル高等学院 研究室
僕は新しい術式を組むのに苦戦していた。
「今日はこの辺にしなさい」
「………はい」
「君が今取り組んでるものは術式が複雑になりますからそう簡単には出来ませんよ」
やっぱり1日や2日では形にならないよな。
「今日は帰ります」
「そうしなさい」
「おかえりーー!」
ユキトが家に帰ると、アメリアが跳びついてくる。
「ただいま。アメリアちゃん!」
アメリアを抱きあげて家に入るとイリス・サティス・ティアが迎えてくれる。
「「「おかえりなさいませ」」」
「ただいま」
「ユキト、帰ったのかい」
「ただいま、婆ちゃん。爺ちゃん達とヴォルフさんはもう出掛けたんだね」
「あぁ、そのうちユキトに仕事を頼みに帰って来るさ」
「ユキト様、先にお風呂をどうぞ」
「うん、そうするよ」
風呂場へ行くとサティスとティアが付いて来る。
二人が僕の服を脱がせようとする。一人で出来るから止めてと言っても止めてくれない。彼女達にも譲れない部分らしい。
「フゥ~、いい湯だね」
「「ハイ、ユキト様」」
当然のごとくサティスとティアが一緒に入って来る。何時の間にかティアまで一緒に入る様になった。二人とも目に毒な魅力的なスタイルをしているので夕飯前にお風呂に入る時は色々我慢して早くあがらないといけない。
「お背中を流します」
ティアが言うと。
「じゃあ、私は前を洗いますね」
サティスが言う。
僕は我慢強さも鍛えられていく。
夕飯を食べて早めにベッドに入る。
ここの所忙しかったからご無沙汰だったけど、今日はサティスと二人肉体言語で語り合った。
それはもうジックリと。
途中でティアが乱入して来た。
その夜は、三人でジックリと語り合った。
勿論、肉体言語で。
ユキトにやっと日常が戻ってきた。




