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ユキト社会のゴミ掃除

 奴隷商人とは名ばかりの、人攫いを捕まえたその日の夜、ユキトは屋台で買った大量の食べ物を振る舞った後、爺ちゃん達と今後に付いて相談する為リビングに集まっていた。


「ユキト君その卵は何ですか?」


 フィリッポス先生が聞いてきた。ユキトの膝の上には、人の頭よりも大きな卵が乗せられていた。今も魔力を流し続けている。流石は龍の卵といったところか、帰ってからサティスと交代で魔力を流し続けているがまだ底が見えない。


「青龍の卵です」

「青龍の卵なんて良く手に入りましたね」

「まあ、今はその話は置いときな」


 婆ちゃんが話を戻すように言う。


「そうですね、今回の事はロンドバル都市同盟の課題ですから。各国の貴族が獣人族やエルフを奴隷として欲しい場合、他国の奴隷狩り組織を使うことが多いのです」

「領内に居る獣人族やエルフの、反乱の火種になるからですか?」

「そうだね、それぞれの国が足を引っ張る機会を狙ってるからね。そんな時に自由貿易都市、ロンドバル都市同盟は使いやすいし、ここは国とは認められていないから各国の貴族や豪商達は自分達はロンドバルから買っただけだから悪くないと言いたいのだろうね」


「ロンドバルにある犯罪組織のアジトは、俺が吐かせたぞ」

「先ず、そいつらは今晩中に潰しておくか」


 ヴォルフさんと爺ちゃんは、やる気だ。


「ノブツナも行くのかい?」

「俺とノブツナにユキトの3人で充分だろう」


 婆ちゃんの問いに、ヴォルフさんが言った。


「じゃあアタシとサティスで、あの子達の世話をしているよ。念のためバルクを召喚しといておくれ」

「分かったよ、婆ちゃん」

「ノブツナ、ヴォルフも生かして捕まえる必要ありませんから」

「じゃあフィリッポス、後始末は頼んだぞ」


 僕は爺ちゃんとヴォルフさんと供に夜の街に駆け出す。建物の上を跳びながら高速で移動する3つの影。




 ロンドバルの街ハズレにある奴隷狩り組織のアジトでは、ボスが手下を怒鳴りちらしていた。


「奴隷商が捕まったってどういう事だ!」

「店に居た奴隷も全員連れて行かれたそうです」

「俺たちに楯突く奴は何処の何奴だ!」


 ギャーー! ガッ! ウワァー!


「どうした、何があった!」

「殴り込みです!」

「何人だ!」「3人です!」

「バカヤロー!!3人位直ぐに始末しろ!」


 バァーーン!!


 その時、扉が吹き飛び巨漢の狼獣人が現れる。

部屋に居た手下が、一斉に剣やナイフで襲いかかるが擦りもせず手下の顔が殴り潰され壁に張り付く。

部屋の壁が手下の血で染まるころ、ボス以外息をしている者は居なかった。


「ま、まて、金か、金ならやるから助けてくれ!」


 獣人の男が近づいて来る。


「俺を殺すと組織が黙ってないぞ!」


 獣人の男がニヤッと笑った。


「……ほかの街のアジトを全部吐け」




 時間は少し戻って。アジトに着いたユキト達は一人づつ手分けして殲滅する事にした。


「じゃあ僕は、一階と地下に行くよ」

「儂は二階を担当しようかの」

「俺は三階だな、悪いなボスを譲って貰って」


 ユキトは気配を消して一階に飛び込み、後にノブツナとヴォルフが続き階段へ向かう。

 ユキトは両手にナイフを持ち、敵の頸を掻き切っていく。一階の部屋をひとつづつ廻って、一人残らず息の根を止めると地下へ向かう。


 地下に降りて部屋の中に入ると、少女の首を絞めヘラヘラ笑いながら犯している男が居た。周りの男達も酒を飲み笑いながら、少女が犯されているのを見ている。


「あーあ、殺しちまいやがった」

「良いじゃねぇか、また攫ってくりゃ」

「ヒャハァハァッ!」


 次の瞬間グハッ! 少女を犯していた男の頭が飛んだ。ユキトは男の頭を斬り飛ばし身体に回し蹴りを

放ち少女の上から吹き飛ばす。


「なっ、なんだお前は!ぎゃー!」


 男に最後まで喋らせずに、喉に刀を突き立てる。周りで見ていた男達も、問答無用に抵抗を許さず斬り捨てていく。ユキトが横薙ぎに刀を振ると顔の上から半分がズレて落ちる。ユキトはワザと一人づつ斬っていく。少女の無念が少しでも晴れるように。

 命乞いの声も今のユキトには聞こえなかった。

 全員を切り捨てると刀を鞘に収め少女に近寄る。

 少女は既に亡くなっていた。涙の跡の残る顔を見てユキトが謝る。


「ごめんね、もう少し早く来れれば死なずに済んだね。でも敵は討ったから許してね」


 ユキトはアイテムボックスから、野営用の毛布を取り出し、少女を包み抱き上げる。



 ユキトが少女を抱いて二階に上がると、既にノブツナによって全て終わった後だった。


「ユキトどうしたんじゃ」

「爺ちゃん……」


 ユキトは地下であった事を話した。


「……そうか、今はヴォルフと合流しよう」


 ノブツナの後に付いて三階へ上がると、ヴォルフがボスの尋問をしているところだった。


「おう、俺の方は終わったぜ、全部吐かせた。うん?ユキトそれはなんだ?」


 ユキトは少女が、惨たらしく犯されながら殺された事を話した。


「やっぱり予定変更だ、お前死んどけ!」

「なっ!命は助けてくれると言ったじゃないか!」

「優しいユキトをこんだけ怒らせたんだ、死すら生温い。ユキトが殺るか?」


 ユキトは首を横に振る。


 ドガッ! ヴォルフの蹴りで男の顔が陥没する。

 暫く痙攣して息絶えた。


「早く全部潰さないといけないね」

「あぁ明日から手分けして潰して回ろう。ひとり一ヶ所づつだ」

「そうじゃな、本気で走れば三日もあれば着くじゃろう」

「その子を自警団の詰所に連れて行って、弔って貰おう」





 黒龍の革鎧、黒龍の籠手、龍牙のブーツに濃いグレーのローブを着たユキトが、ロンドバル都市同盟第二の都市ベルタに向け疾走している。途中襲い来る魔物を瞬殺しながらひたすら走る。


 陽が落ちて暗くなると、そこにマーカーを置いて家に転移した。本当はユキトは一日中走り続ける積りだったが、バーバラとサティスの反対を受けて夜には転移で家に帰って寝ることにした。ノブツナとヴォルフもユキトが作った転移石で同じ様に家へ帰って来ている。


「お疲れ様です、お風呂に入って早く寝ましょう」


 サティスが出迎えてくれる。


「ただいま、明日も早いからね」


 ユキト達はロンドバルの組織のアジトを潰してから、三日でそれぞれほかの街へ着いた。

 その日、ロンドバル都市同盟に巣食う最大の犯罪組織が壊滅した。大陸の各国の貴族や豪商を顧客に違法奴隷ビジネスで栄華を極めた犯罪組織は、一人の少年の怒りをかった為に草の根一本残さず殲滅する事になる。



 ロンドバルの奴隷商に攫われた女性のうち、人族の二人を除く四人は、アジトを潰す為に訪れた街だった為、ユキトが転移で送り届けた。獣人の家族を除く七人はヴォルフさんが送ってる途中だ。今はフィリッポス先生を含めて今後のことを相談する為に集まっている。



「ひとまずはお疲れ様でした。ユキト君には辛い仕事をさせてしまいましたね」

「フィリッポス、あんたの責任でもあるんだよ。あんたは議会の一員だろ、あんな奴等をのさばらせたのはロンドバル都市同盟の責任だろ!」

「耳が痛いですね、確かに人手が足りない事を言い訳にして犯罪組織を黙認していたも同然です。しかも議会の議員の一部は組織と繋がっていましたから既に粛清しましたが」


 ユキトは卵を膝に乗せ魔力を流しながら、苦悶に満ちた表情で死んだ少女の事を思い出していた。


 サティスが心配そうな顔をしてユキトの手を握る。  

 ユキトが微笑みサティスの手を握り返す。


「獣人族の家族は、どうする事になったの」


 家に残っていた婆ちゃんに、聞いてみる。


「兎人族の子がいるからね、どうするかね」

「お父さんとお母さんは解放しましたから、何処へでも行けるでしょうが、彼女は難しいですね。兎人族は欲しがる貴族や豪商が多いですから。また攫われかねません、かと言って家族が離れ離れじゃ可哀想ですしね」


 フィリッポス先生が、ティアの事がネックになると考え込む。


「本人はなんて言ってるんですか?」


 婆ちゃんに聞いてみる。


「それがね、ヴォルフは獣人族にとって英雄以上の存在らしくてね、ヴォルフに仕えたいって言い出してるのさ。困ったもんだよ」

「奥さんはなんて言ってるんですか?」

「弓が得意だから役に立つなんて言ってヴォルフに夫婦で仕える気満々だよ」

「犬獣人のお父さんがダンさんで、猫獣人のお母さんがニケさんでしたね。兎人族の娘さんがティアさんでしたか、暫くは家に居てもらうしかないのかな。でもダンさんとニケさんは、家に居ても何かしら働く必要があるよね」

「そうだね、お金の問題じゃなくて何か仕事は必要だね」

「それなら儂とヴォルフで鍛えてフィリッポスが作ろうとしている新しい街の自警団にでもするか」

「本人に確認は必要ですけど、自衛の為にの戦力は必要ですね」


 後は姉妹の事だな。


「婆ちゃん、あの姉妹は如何するの?」

「姉のイリスは家でメイドをして貰うよ。妹のアメリアはまだ小さいからねメイド見習いかね。サティスはこれからは出来るだけユキトの側に居たいだろうから家の仕事をする子が居ると助かるからね」

「そうだね、それで良いと思うよ。爺ちゃんもそれで良いね」

「あぁ儂はそれで構わんよ」

「私がアメリアちゃんに勉強を教えましょう」


 最近影の薄いアイザックさんも嬉しげだ。

 その時ユキトの膝の上の卵にヒビが入る。


「あっ、生まれる!」


 卵が割れて青龍が孵化した。


 キューキュー! 


 ユキトの指を甘噛みして甘える青龍の子。

魔力を流してそのまま契約に移る。青龍の子が受け入れて契約が成立すると光に包まれユキトの魔力内に消える。もう一度召喚して名前をつける。


「君の名前は《エリン》だ」


キュー! ユキトに撫でで貰って嬉しそうに鳴く。


「そうだフィリッポス先生、ダンさんの左腕をオートマタの技術を流用して義手を作れませんか?」

「多分出来るでしょう、ドノバンにガントレットを改造して外側を作って貰いましょう」


 そこにイリスとアメリアがお茶を持って入ってきた。テーブルにお茶を置いていく。


「イリス、家でメイドして貰うことになったけどイリスはそれでいいの?」

「はい、置いて頂けるばかりか部屋までいただき不満など有りません」

「アメリアはどうだい」

「アメリアね、柔らかいベッドに寝れて嬉しかったの。骸骨のおじちゃんも優しいの」


 バルクは以外と子供好きかもしれない。


 獣人の家族を呼んで貰う。


「ダンさんとニケさんは、爺ちゃんとヴォルフさんの指導を受けて自警団になる積もりはありませんか?」

「ヴォルフ様の元で働けるなら何でもしますが、私の左腕で自警団が出来るでしょうか?」

「その辺はこっちでなんとかするよ」

「ニケさんは如何ですか?」

「私も夫と共に、少しでもご恩を返せたらと思いますわ」

「じゃあヴォルフさんが戻ったら、爺ちゃんと一緒に訓練をして貰おうと思います。それでティアさんの事何ですけど、その内必ず解放出来る環境を整えますから、それまで首輪は我慢して貰いたいのですが。もしお知り合いの方が居る集落があって、そこで安全に暮らせるようなら解放しますし集落までは責任を持って送らせて貰います」

「……あの、……私、このままユキト様の奴隷になることは、出来ませんか」

「……えっ、僕なの?…僕まだ学生だよ」

「ユキト様、娘をよろしくお願いします」

「ダンさん、そんな事簡単に決めて良いんですか?」

「娘は兎人族に生まれた時点で、一生集落で暮して行くしかありませんでした。兎人族は貴族達にとって愛玩動物ですから。けどティアはユキト様達に救われ、将来的には首輪をしなくても安全に暮らせるようにして下さると言って頂いた。ティアが一生仕えるに相応しいお方です」

「僕にはサティスが居るよ」

「優れた雄には多くの雌が集まるものです」

「ユキト君、年寄りの私達よりも君が主人になる方が良いでしょう。私は神に仕える身ですから無理ですから」


 アイザックさんも同じ考えのようだ。


「……ダメですか?」


 ティアが今にも泣き出しそうになる。

 改めてティアを見ると、確かに貴族がこぞって手に入れたがるのも分かる気がする。

 兎人族特有の長い耳に肩まで伸びた薄いピンクの髪、大きな胸と細い腰から形のいいお尻に可愛い尻尾が付いている。大きな赤い瞳と小さな顔は、とても可愛い。貴族がこぞって手に入れたがるのも少し分かるかもしれない。


「私はサティスさんのように、一緒に戦うことはできませんが、お側に置いて下さい」

「……分かったよ、取り敢えずイリス達と一緒に家の仕事をして貰おうか」

「それが良いでしょうね、契約だけは済ませてしまいましょう」


 アイザックさんに促され、ティアの首輪に僕の血と魔力を流して契約を終わらせる。


「ティアさん、これからは協力してユキト様のお役に立てるよう頑張りましょうね」

「ハイ、サティスさん!よろしくお願いします。」



 はぁ、明日は久しぶりに学校へ行こう。

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