ゴーレム強化作戦
武術大会が終わって2カ月たった。周りの喧騒から逃れる為に、益々引き篭もる様になったユキトは以前召喚したゴーレム《タイタン》のボディーを作ろうとしていた。
「ユキトや、学校へは行かなくとも良いのか」
「大丈夫だよドノバンさん。単位は取ってるから毎日行かなくても良いんだって」
「それなら良いんじゃがの」
カンカンカン!!!
「骨格はこれで良いかな」
「ユキトや、外側はフルプレートの鎧を改造するとして骨格はそれで良いじゃろう。でも中身が空洞でも良いのか?」
「そうなんだよね。ドノバンさん筋肉の替わりになる素材なんかないかな?」
「うーん、筋肉の替わりのう……サンドワームの外皮は使えるかもしれんの。丈夫で伸縮性に富んどるし、砂の中で餌の魔力を感知するのにサンドワームの外皮は魔力感知性に優れとる」
「どういう事?」
「魔力の通りが良いんじゃ」
「それ良いね、サンドワームってどこに居るの?」
「ロンバルド都市同盟は、大陸の南に位置するのは知っとるの。このロンバルドから南へ行くと海に出るんじゃが、海に出るまでの間が砂丘になっておる。その砂の中にサンドワームがおったはずじゃ」
早速サティスと連れ立って、ロンバルドを南へ走り続け4時間程で砂丘に着いた。
「サティス大丈夫かい?」
「……ハァハァハァ、だ、大丈夫です」
サティスにはきつかったかな?サティスの息が整うのを待つ間に、サンドワームの気配を探るとウジャウジャいる。
「もう大丈夫です、ユキト様」
ルドラとバルクを召喚する。
「ルドラは空から攻撃してくれ。バルクはサティスの護りを頼む」
『承知しました』
「サティス、先ず僕がサンドワームの密度の高い場所に魔法を撃つから、砂から出て来たら攻撃して」
「分かりました」
ユキトは大身槍【雲切り】を構えファイヤージャベリンを併せて10本浮かべる。
「ファイヤージャベリン!」
ズドドドドドドドドドドッーーーン!!!!
砂に着弾した魔法の爆風が収まると、砂が吹き飛びサンドワームの死体が散らばっている。生き残った4匹の全長5mはありそうなサンドワームが襲い掛かる。蛇が鎌首を持ち上げる様に砂から出た頭を狙いサティスが矢を放つ。1匹のサンドワームの頭が針鼠の様になりながら突っ込んで来る。ドンッ!!バルクが、盾で止める。そこでやっと動きを止めた。ルドラは空から風魔法ウインドカッターを連発しているがサンドワームの外皮は柔軟で効き目が薄いのか風牙を併せて放ち漸く1匹のサンドワームを倒した。
ユキトは襲い来る2匹のサンドワームに神速の突きを放つ。【雲切り】は、サンドワームの外皮を抵抗を感じることなく突き刺し仕留める。
ユキトは戦闘が終わると、散らばっているサンドワームを片っ端からアイテムボックスに入れていく。
全てのサンドワームを回収すると、ルドラとバルクを送還してサティスの手を取り転移した。
ロンバルドの家の裏庭に、転移で戻って来て一息ついた。
「はぁ~、危なかった。サンドワームがドンドン集まって来てた」
「お疲れ様です、ユキト様」
「サティスもお疲れ様」
「では、私は仕事に戻ります」
サティスが家に入って行く。家の用事をサティスだけじゃ大変だよな。誰か人を雇うか。
婆ちゃんに相談するか。
裏庭でサンドワームを1匹づつ解体していく。
その日、暗くなるとライトボールを浮かべて作業を続けて全て解体し終える頃には夜中になっていた。
「ユキト様、お風呂を入れました」
「うん、ありがとう」
かたずけて家に入って風呂場に行く。当たり前の様にサティスが付いて来る。そう、最近何故かサティスは僕がお風呂に入る時一緒に入って背中を流してくれる様になった。きっと婆ちゃんの差し金だ。
次の日、サンドワームの外皮を筋肉の様に動かす為の制御術式をフィリッポス先生に相談する為、学校に登校する。
「また面白い事を考えましたね」
「ハイ、ゴーレムの利点の一つの再生を捨てて身体を作るんですから、出来るだけ高性能にしないと意味がないですから」
「そうですね。今あるコントロールコアを補佐する形で補助のコントロールコアを連結しますか。術式は少し待って下さい。以前みたオートマタの術式を流用出来ると思います」
「じゃあ、僕はゴーレムに持たせる武装を開発します」
そう言うと魔石を複数取り出して術式を刻印していく。
「武装を……開発?何を作るつもりですか?」
「魔石に術式を書き込んだ物や、金属板に魔法陣を刻んだ物は魔道具製作では普通の事ですよね。でも使われているのはコンロや灯りの魔道具くらいですし、魔法陣を使用した攻撃魔法は大掛かりな準備をして独りで使えない大規模な戦略級魔術を、複数の術者で使用するのが一般的ですよね」
「ユキト君は魔法陣を使わなくても大規模戦略級魔法を使えるじゃないですか」
「僕は使えますが、今はそれは置いといて、今の魔法陣を使った魔法は機動性がないし準備に時間が掛かりますよね。そこでレベル1か2程度の魔法を撃つ魔道具を作ろうと思ったんです」
「魔法陣といえば大規模な魔法か、コンロや灯りの魔道具などの生活用品しか有りませんでしたね。魔法を使える人はレベル1か2の魔法を使うのに魔道具を使いませんしね。魔法を使えないゴーレムに持たせるですか……魔法を使えない人の武器に成りませんか?」
「大丈夫だと思いますよ、ゴーレムは魔法を使えないけど魔力で動きますから内包する魔力で使えますが魔法の使えない人の魔力量では2~3発撃てるかどうか。魔法を撃つ魔力は魔道具の魔石から供給しますが発動させる為の魔力が必要ですから」
「なるほどね、レベル1か2の魔法を使える魔石は高価だからね、更に魔力を補う魔石を使っていれば物凄い高価な物になるね」
「僕は自前で魔石を用意しますが、騎士団などではそんなお金出せないでしょうね」
「なんの魔法を刻んでいるのですか?」
「色々考えたんですが、アイスバレットにしました」
「アイスボールのサイズを小さくして、スピードを上げた魔法かい?確かユキト君のアレンジした魔法だよね」
「ええ、ただ単に小さくして速くしただけじゃないですけど、完成させるのに結構大変だったんです。空気の抵抗を少なくするのに椎の実の形にしたんですけど真っ直ぐ飛ばないし、速くなった分ボールやアローやジャベリンみたいに方向を意識して操作するのが難しいんです。何度も失敗してやっと真っ直ぐ飛ぶようになったんです」
「魔法を放った後に?最初からコントロールしない事が前提の魔法かい」
「はい、元々剣を持って戦ってる最中にばら撒く様に使うつもりで考えた魔法ですから、撃った後のコントロールは最初から考えていませんでした」
「それで、どうして真っ直ぐ飛ぶようになったんですか?」
「弾の形も色々変えて試したんですけど、最終的に椎の実型の弾を螺旋回転させたら、やっと真っ直ぐに飛ぶようになりました」
「なるほど、今度私も試してみます。それはそうとユキト君、貴方相変わらず授業に殆んど出ていないのに試験の成績はまたトップでしたね」
「アイザックさんに叩き込まれていますからね」
「まあ貴方は、先生の間ではアンタッチャブルですからね。武術も魔法も貴方に教えれる人は居ませんから。何だかユキト君が学校へ通う意味が薄くなって来ましたね」
よし、これで術式は出来たかな。今日はもう帰ろう。
「フィリッポス先生、今日はもう帰ります。お疲れ様でした。筋肉制御の術式お願いしますね」
自分の用事を済ませると帰ってしまったユキトを苦笑いしながら見送った。
「……ユキト君、貴方には申し訳ないですけど、総ての同胞の為に英雄になって貰いますね」
いまだに多くのエルフの民が、奴隷狩りの危険に晒されている。にも拘らず閉鎖的なエルフの民は他種族と力を合わせる事もせず森の中に引き篭もっている。総ての同胞が平和に暮らせる国を作り上げる事がフィリッポスの目標だった。きっと起きるであろう戦争にユキトを巻き込むことは本意ではないが、彼と彼を支える6英雄は総ての種族が団結する為にこれから興す国の象徴として外せなかった。
「……サツキに叱られるでしょうね、あの子は争いの嫌いな優しい子でしたから……」
「ドノバンさん、こんな盾に内蔵の武装を作りたいんですけど」
ユキトが羊皮紙に描いた図面を見せる。
「どれ、……なるほど魔道具を仕込むのか。盾は丈夫に作れば魔道具に影響は、ないじゃろう」
「多少重くなっても、ゴーレムだから問題無いしね」
「それで武器はどうする剣か槍か?」
「やっぱり長柄武器が良いですね、ハルバートなんか良いですね」
「ハルバートか、突いても叩きつけても使えるし、力のあるゴーレム向きの武器じゃな。予備でメイスを装備すれば良いの、よし任せておけ」
新年を迎える頃には家の裏庭にある工房に二体の鋼鉄の巨人が出来上がっていた。
全長2m50cm、3m50cmのハルバートを右手に持ち、腰に予備の武装としてメイスを装備している。左腕に固定された盾の内側には金属のパイプの様な物が4列に並んでいる。ユキトが開発したアイスバレットを発射する魔砲である。白銀の鎧がタイタン、漆黒の鎧がギガス、二体のゴーレムを完成させていた。パワーやスピードだけでなく熟練の戦士と変わらぬ技術を擁し既存のゴーレムとは比較にならない性能を有するに至った。また、内蔵する魔石に空気中に漂う魔素を変換して魔力を補充する術式を組んであるので継戦能力も飛躍的に向上している。
「やっと完成したのう。硬化と防錆と防汚に魔力障壁かエンチャントも目一杯掛けたしの」
「思った以上の出来だね。本当ドノバンさんに感謝だね」
「スケルトンロードのバルクだったか、奴の武装も作らにゃならんかったからの」
「タイタン、ギガス、門番をしてくれ」
二体のゴーレムが門の両側に立つ。
2m50cmのゴーレムが3m50cmのハルバートを持って微動だにせず立つ姿は威圧感が凄かった。
普通の人なら近づこうとしないだろう。
ユキトは最高のゴーレムを作れた事に満足しているが、タイタンとギガスが大陸でも最高のゴーレムである事に気付いていない。もし他国にタイタンとギガスの性能が漏れればロンドバル都市同盟に軍を派遣してゴーレムと製作者であるユキトを確保に動くだろう。自重を知らない英雄に育てられたユキトは当然のこと自重を知らない少年だった。