ユキト初めての友達?
入学式の次の日、何時ものように早朝からの鍛錬に汗を流したユキトだが、今日は何時もの朝とは少しだけ違った。
「サティス、大丈夫かい?」
「ハァハァハァ……、大丈夫です」
サティスが、僕と一緒に鍛錬に参加するようになった。
「僕が学校に行ってる間にゆっくり休んでね」
「いえ、バーバラ様に魔法の訓練をお願いしていますから」
「無理はダメだよ」
朝食を食べてユキトは、学校へ向かう。
ロンバルドの街に、建物から建物へ飛び移りながら高速で移動する影がある。気配を消し隠匿のスキルを使っているので、街を行く人に気付く者は居ない。
影の正体は当然ユキトだ。この日から学校へは鍛錬を兼ねて馬車を使うのを止めた。
馬車で通うよりも遥かに早い時間に学校へ着いた。
Sクラスの教室に入ると中にはまだ半数程の生徒来て居なかったが、ここでユキトは少し困ってしまう。
僕の席は何処だろう?誰かに聞くか。
だけどユキトにとっては、同年代の子供に話し掛けるのはハードルが高かった。
「あの……」
誰かに聞くか悩むユキトに話し掛ける者が居た。
ユキトが声のした方を見ると話し掛けて来たのは金髪を長く伸ばした可憐な少女だった。
「マリア・フォン・ロアールと申します」
えっと自己紹介した方が良いのかな?
「……えっと、ユキトといいます」
「あたしはヒルダ・フォン・モントローデよ!」
マリアと名乗った金髪の女の子の後ろから、元気の良い赤髪の女の子が自己紹介して来た。
「……なんか用かな?」
「ユキト君は受験番号286番だよね。私287番で魔法実技の試験で直ぐ後ろに居たの」
「……あ~、ごめんマリアさんだっけ、試験で迷惑掛けたね」
「違うの、ユキト君があの時使った魔法について話がしたかっただけだから。それと私の事はマリアで良いわ」
「いや、マリアさんは貴族だろ、流石に不味いんじゃない。特に僕は田舎の小さな村に住んでたから礼儀なんて分からないからね」
「ロンバルド高等学院の校則で、貴族だからとか平民だからとか権力を振りかざすのは、禁止されているのよ、だからマリアと呼んでくれれば良いわ私もユキトって呼ぶから」
「私もヒルダって呼んでね」
「分かったよ、マリアとヒルダだね。それで何の話しだっけ?」
「色々と聞きたいから、お昼ご飯を食べながら話さない?」
「分かったよ。あ、席は何処に座っても良いの?」
「貴方は首席だから一番前列の一番左よ。私は次席だから隣よ」
席に着くとマリアが隣に座り話しかけて来た。
「ユキトは、選択科目何を取るの?」
「魔道具製作と魔法陣と魔法薬学かな」
「えっ!属性魔法や武術は取らないの?」
「魔法や武術は家でするから」
「家で??……そうなんだ」
お昼になり、マリアとヒルダと3人で学食で昼ごはんを食べながら話していた。
「それで試験の時に使った魔法は何なの?」
「ただの雷魔法だよ」
「ただの雷魔法じゃないでしょう。何て言う魔法?」
「雷魔法レベル5のトールハンマーだよ」
「雷魔法のレベル5って……複合属性のレベル5の魔法を使えるの? しかもあの時ユキト無詠唱だったよね」
やっぱりユキトは凄い。魔法の才能を持つ人は貴族が圧倒的に多いけど、彼は平民なのにイオニア王国の宮廷魔術師よりもずっと実力は上だ。私は是非ともイオニア王国にスカウトしたいと思った。
「ねぇユキト、あなたイオニア王国に来ない?」
私がそう言った瞬間、ユキトの目がスゥッと醒めた冷たい感じになった。なにか気にさわること言ったかしら。
「それはどういう意味?」
「イオニア王国の宮廷魔術師か、騎士にならないかって事なんだけど。」
「ごめんね、僕は宮廷魔術師にも騎士にもならないよ。ご馳走さま先に行くね」
ユキトはそう言うと席を立って食堂を出て行った。
「ねぇヒルダ。私何かユキトを怒らせる事言ったかな?」
「うーん。イオニア王国にスカウトしたのは失敗だと思うよ」
「どうして? 名誉な事じゃない」
「はぁ~、マリア今のあなたゲルトと大して変わらないわよ。イオニア王国の宮廷魔術師や騎士になって名誉に思うのは、イオニア王国の人間だけだからね。マリアあなた他所の国から名誉でしょうって、スカウトされてどう思う? どこの国も潜在敵国なのに祖国を裏切れって言ってる様なものよ」
私はバカだ。ゲルトを嫌っていたけど私はもっと最悪だった。ユキトにかける言葉が見つからない。
「まあ明日にでも謝れば良いんじゃない」
ヒルダはそう言ってくれたけど、次の日からユキトは教室に来なかった。先生に聞くと一般教養と魔法の座学は単位免除になったので学院長先生とマンツーマンで授業を受けているらしい。
一般教養と魔法の授業が免除になって、フィリッポス先生とマンツーマンで授業を受けている。これじゃ益々友達を作れない。マリアとヒルダは友達になれるかと思ったけど、やっぱり彼女達は他国の貴族なんだと思った。しかたないよね。
「ゴーレムを作る時に、必要な物は分かりますか?」
「えっと、コアが必要です」
今日はフィリッポス先生に、ゴーレムを造る為に必要な事を学んでいる。
「そうですね、コアにゴーレムが身体をコントロールする術式を書き込む事で様々な素材の身体を制御するゴーレムが出来ます。さて、コアが有ればゴーレムが出来るのですか?」
「あとは召喚術ですね」
「正解です。サモンゴーレムの魔法が必要です。最初にゴーレム用の召喚魔法陣でコアに定着させるのです。術者と魔力のパスを繋ぐ代わりにコアとゴーレムの間にパスを繋ぐのですね。ゴーレムの召喚魔法陣はこの本を読んで下さい」
一冊の本を渡される。
「驚いたことにユキト君は既に、召喚魔法を使えるのですよね。でしたらコントロールコアとゴーレムの身体になる素材が有れば実験出来ますね」
「僕は魔物を召喚契約して従魔にしているんですけど、魔法陣を使った召喚術と何が違うのですか?」
「ユキト君にはグリフィンが居ましたね。既に存在する魔物と契約する場合、相手に契約を認めさせることが必要です。方法は様々ですが一番多いのは、戦闘で屈伏させることですね。その後召喚魔法を発動すると魔力のパスが繋がります。対象が既に存在する為、地面に描く魔法陣は使用しません。一方、魔法陣による召喚術は魔法陣に召喚したい対象の条件を描き込んでその条件に合う者が召喚されます。その後の契約は認めさせる方法は一緒ですね。ただゴーレムだけは性質が虚心ですから召喚イコール契約ですね」
「召喚魔法陣で何処から召喚されるのですか?」
「この世界を流れる大きな魔素の流れがあります。過去に生きていた魂の記憶がそこに溶け込んでいるのです。その流れの中から魂の記憶を召喚するのです。召喚魔法陣で召喚すると術者の魔力と魂の記憶が溶け込んだ魔素が魔法陣で融合して実体として顕現します。召喚する時にランクの高い魔石を触媒にする程、能力の高い個体になります。後は、違う次元から召喚する魔法陣も存在します。悪魔召喚や勇者召喚などが其れに当たります。それらの魔法陣は、大昔に失われていますが」
召喚魔法陣の本を読むと、色々な魔法文字と記号の組み合わせで召喚する対象を選ぶのか。ドラゴンとか召喚出来るかもな。
「サモンゴーレムの魔法のイメージはどうイメージすれば良いですか?」
「良い質問ですね。例えばどんな動きをするのかイメージしても良いのですが、硬さとパワーが持ち味のゴーレムですから素早い動きをするにも限界があります。出来るだけゴーレムの持ち味を生かした方向でイメージを固めると良いでしょう」
フィリッポス先生は喋りながら何かを作っている。
「先生何を作っているんですか?」
「これは魔石に土魔法のクリエイトウォールの術式を書き込んでいるんですよ」
「クリエイトウォール?」
「例の場所に城壁を作る時に土を固めて石のブロックを作って、その土を取った場所が堀になる様にイメージして術式を組んでます。この魔石ひとつで横幅5m、高さ10m、奥行き5mの城壁が立ち上がります」
「へえー、面白いですね。土魔法で城壁を作れば労力を使わず要塞が出来ますね」
「大量の魔力量で作り上げるんですが私とユキト君なら出来ると思います」
「話は変わりますが、マリアさん達と何か有りましたか?」
「フィリッポス先生、何処から聞いたんですか?」
ユキトはマリアとのやり取りを話した。
「仕方ないですね、マリアさんは伯爵家の令嬢ですからね。しかもまだ12歳です、思慮が足りない事もありますよ」
「そうなんですけどね、やっぱり他国の貴族と友達は無理が有りますね」
「例の件で、イオニア王国が攻めて来なければ問題ないのですけどね。あり得ませんか。余り仲良くならなければ問題ないと思いますよ」
「あぁそうだ、来月武術大会が開催されるのですけど 3年間で一度は出場して下さいね」
「武術大会ですか?良いんですか?」
「まあ、一度だけ我慢して出て下さい。優勝すれば武術の単位あげますから」
広いスペースに移動して、ゴーレム召喚の魔法陣を本を片手に地面に描いていく。よし、こんな感じかな。
石が積み上げられた場所へ移動して石を魔法陣に運びコアを載せる。魔法陣に魔力を流して魔法を発動する。
「サモンゴーレム!」
石がコントロールコアを中心に集まり、3m位のゴーレムが出来上がる。
「着いて来て」
僕の後を着いて来るゴーレム。
周りに何もない事を確認して、土魔法で的を作る。
「ゴーレム、的にパンチだ」
ゴーレムが的に向かってパンチを繰り出す。
ドォゴォーーーーン!!
「おおー!凄いな、成功かな」
「ユキト君、そのゴーレムに名前を付けてあげて下さい」
うーん、名前どうしようかな。……よし!
「君の名前はタイタンだ」
するとゴーレムのコントロールコアと、僕に魔力のパスが繋がった感じがした。
ユキトは一通り動きを確認した後、ゴーレムを送還する。するとゴーレムが崩れて、その場に石の山とコントロールコアが残された。コントロールコアを回収して戻る。
「上出来ですよ。ユキト君の召喚魔法のレベルも関係してるのでしょうね。名前を付けるのは他の魔物と同じですね。次からはコントロールコアと素材さえあれば、君がグリフィンを召喚する感覚で召喚出来ます。後はゴーレムの身体を全身鎧なんかを使って作っておいて剣や盾を持たせればユキト君の動きを模倣することも出来ますよ。飽くまでゴーレムの身体に出来る範囲のスピードや動きですけどね」
「それ面白いですね。二体作れば門番に良いですね」
「良いね、魔力タンクに魔石を使えば長く稼働しますよ」
「フィリッポス先生、ゴーレムの身体をドノバンさんに手伝って貰って良いですか?僕もドノバンさんの手伝いをしてたから鍛治は少し出来るんですけど」
「そうですね、ゴーレムの寸法など相談しに一度打ち合わせが必要ですね」
その後ユキトは召喚魔法陣の本を読み、召喚魔法陣の見本を見たり魔法文字や記号を書き出したりしながら、強い魔物を呼び出す事の出来る魔法陣を考えていた。
「ユキト君、今日は此処までにしましょう。その本は貸してあげますから持って帰って良いですよ。あぁそれとドノバンに都合を聞いて置いて下さい。彼も忙しいでしょうからね」
「わかりました、ドノバンさんは工房に籠りっきりですからね。あと本はお借りします」
「ではまた明日、さよなら」
「失礼します」
強力な魔物を召喚する前に、その魔物に勝てる実力が必要だよな、また爺ちゃんかヴォルフさんに魔物狩りに連れて行って貰わなきゃ駄目だな。
ユキトは気付いていなかった、召喚した魔物と戦って実力を示さなければ従わない魔物との戦いは、何も術者一人で戦わなければならない……なんて事はない。もしそうなら召喚術師なんていないだろう。
ユキトが、その事に気付くことはないのだが、間違った方向に努力するユキトだった。