prologue
山間の小さな村そこに嘗て英雄と呼ばれた男がひっそりと住んでいた。
その昔魔物の氾濫から世界を救う為に仲間達と戦いぬき、やがて英雄と呼ばれる迄に至ったが、その後に待っていたのは英雄の名を利用し様と近づいて来る貴族や教会などの権力者達の泥々とした権力闘争、共通の敵が居なくなった途端に始まる人間同士の戦争、大き過ぎる力を恐れて刺客を送られる事も一度や二度ではなかった。
そして英雄達は、世の中から姿を消し、英雄達が世の中から姿を消して30年経った。
嵐の中、ドアや窓を風が叩く夜更け過ぎ……。
ドンドン!
「こんな夜更けに誰じゃ」
ドアを叩く音に、白くなった総髪を後ろで結わえた老人がドアを開ける。
深い傷を負って血だらけの女性が倒れ込むのを咄嗟に受け止める。
「……お、お父さん」
「サ、サツキか!如何した!大丈夫か!」
傷だらけの今にも命の火が消えそうな女性は老人の娘だった。良く見ると大事そうに赤ちゃんを抱いている。
「…お父さんこの子をお願い。ユキトっていうの私の可愛い子…お父さんとお母さんは何時でもあなたを見守っているから……愛してるわユキト」
愛おしそうに赤ちゃんにキスすると、老人の腕の中で静かに息を引き取った。
「…そうかい、魔物にねえ…サツキは美人で良い子だったのにねぇ。…それでノブツナ私に何の要だい?」
「バーバラその子をユキトを見てくれんか。儂は魔法は苦手じゃが魔力の扱いには馴れておる、身体強化は得意じゃからの。ユキトは儂から見ても赤ん坊とは思えん程の魔力量を持っておるのは分かるが、バーバラから見てこの位の魔力量を持って生まれて来る赤ん坊は居るものなのか?」
「そういうことかい、アタシもさっきから気にはなってたんだよ。……はっきり言うとこの子の魔力量は今の時点でアタシの半分位あるね」
「…なっ!それ程か!」
「魔力は5歳頃から成人する頃までが一番成長するんだよ、身体の成長に合わせてね。この子アタシなんかとは比べ物にならない位の魔力量になるよ」
「爆炎の魔導士と呼ばれたお主よりもか!」
「それでこの子を如何するつもりだい」
「サツキは女の子だから可愛がるばかりで、余り鍛えたりすることはせなんだ。女の子に強さは必要ないと思っておったからの、だがそれは間違いじゃった」
「あぁサツキは魔法の才能があったからね、魔力も多かったしね」
「サツキにこの子を託された時、儂はこの子に教えれる事は全て教えようと思ったのじゃ」
「魔法と魔力の制御はアタシに任せときな。サツキはアタシにとっても娘みたいなもんだったんだ。見てごらんよこの子の顔、サツキにそっくりじゃないか、男前になるよ」
「バーバラ、かたじけない」
「白髪頭を下げるんじゃないよ、早速荷物をまとめてこの村に引っ越すからね」
「部屋は余っとるから使ってくれ」
ノブツナの家に同居を始めたバーバラは、まだ1才にもならないユキトに既に鍛錬を始めていた。
バーバラがユキトを抱きながら自分の魔力を流し込みユキトの魔力を引き出して魔力を循環させている。
ノブツナが狩りから帰って来て不審に思って聞く。
「バーバラ、ユキトに何をしてるんじゃ?」
「魔力の循環さ、魔力総量の増加や魔法の威力も上がる、魔力制御する時にも役立つよ。流石に武術の鍛錬は、まだ無理だろ」
「…くっ、ズルイぞバーバラ!ユキトは儂の孫だぞ!」
「仕方ないじゃないか、ねぇ~ユキト」
「ダァ~」
「3歳になったら儂も教えるぞ!」
ノブツナが口惜しそうに宣言するがユキトが3歳になる頃ノブツナの思惑通りにはいかなかったのだが、この時のノブツナには分かる筈もなかった。