7話 計画と感触と骨折と
遅くなりました。
文体やらの統一は明日(土曜)行います
で、結局1話投稿となるのですが、2話分くらいの文字数あるので許してください!
脱出を企むきっかけとなった『あれ』は、2日前に起こった……
「お昼からの授業は外でしますので、11の鐘が鳴る頃に……そうですね、この前渡した鉄剣を用意しておいてください。少し森の奥にいきますよ」
アレンが先に出て行ったあと、レオルがそう告げる。
いきなりだが、この世界の時間感覚がほぼ地球と同じで、ほとんどの物理的法則も通用することから僕はここは平行世界だと思っている。魔法も科学的に証明出来そうではあるが、『地場』や『魔力』は地球にほぼ存在しなさそうだ。だから地球では魔法は使えない。なお、こちらの電気の性質は随分ねじ曲がったもののようなので、魔法に比べ面倒くさい科学は発達しなかったらしい。
つまり何が言いたいのかというとこっちに来たからといっていきなり能力が上がるわけでもないし、剣が上手くなるわけでもない。だから、
「えー! お昼からって武術!?」
だから、別に漫画やゲームの勇者のように転移した瞬間に才能溢れた人間になるわけでもない、ということがいいたかったのだ。まあ成長速度だけは上がってるみたいだけど。
ちなみに今話してるのはレオル。今週の
初めくらいから会話が出来るようになってきた。つくづく道具だけはチートだよ。
「そうですよ? 今日は大事な授業です。しっかり気を引き締めてきてください。それでは」
「あれ? ご飯は?」
「一食くらい抜いても罰はあたりませんよ。まあ、代わりに夕食が豪華なので我慢してください」
「ええ!?」
そう言ってレオルは部屋を出て行った。
これでも一応高校生なんだから、食欲はあるのになあ……。くそ! 1食抜きって何の嫌がらせ!? ああ、あと1核もある。何してりゃいいんだろ______
〈同時刻 とある部屋〉
「アレンさま、あれでよろしいのでしょうか? 歴代さまでももう少し期間を置いたのに、あの少年に耐えられるとは思いませんぞ!」
レオルが机を叩く。随分な音がなるがまだ冷静なようで、机に損傷はない。窓際に置いてある花瓶が揺れ、鳥が飛び立つ。
「今はそんなことを言っている場合ではないのです。『西』の3国で『3国同盟』は組めましたが、『東』の進行を食い止めるにはこうするしかないでしょう。何のために彼に『鴉竜骨』を与えたとおもっているのですか?」
まだ15とは思えぬ、静かだが迫力のある声だ。
「今までは『大陸縦断山脈』が防波堤となってきていたものの、1年前からの不穏な動き、来訪者出現との噂もあるのです。この国を、『西』を守るには利用できるものはなんであろうと利用するですよ」
レオルは口を開き、しかし何も言わず1言、わかりました、と言った。話し合いは暫く続き、
「それでは失礼致します」
数分後レオルは部屋を出た。そのとき、
「あまり無理はなさらないように……慣れない役柄は疲れますよ」
と呟いたが、その呟きがアレンに届いたのか、それは謎だ。
〈数時間後 森の中〉
はやめに戻らないと! このまま何かに遭遇したら一方的にやられるだけだろう。それは避けたい。痛いのは嫌だ。
「どっちが城かわかる目印なんてないの?」
「いや、『標』がこちらでいいと示しておりますので……」
みたこともないような足跡や、変な鳴き声が聞こえてくる。周りはもう黄昏ているように暗い。レオルはゆっくりとしか動けないし、行きに通ったところとはまた別の道だ。これが最短ルートらしいけど……
「すみません。私が迷惑をかけてしまって」
「いやいや、大丈夫大丈夫」
なんでこんなことに……さっきまでの出来事を僕は思い出していた___
〈数分前〉
随分ジメジメしている場所だな。……怖いし、もうそろそろ引き返そう?
「レオル〜。どこまで行くの?」
「もう少しですよ」
さっきも同じ言葉を聞いたような……出発からもう30分近く歩いてるよ?
と、足のぬかるみが急にひどくなr
「うわ!?」
ぬかるみのそばには決まったように危険がある。今回は崖だったようだ。体が重力に引っ張られる感覚。それがピタ、と止まる。手を見るとレオルが掴んでいた。そのまま振り向きざまに希の手を掴みレオルの位置と希の位置を交換し引き上げる。つまり_____代わりにレオルが落ちる、ということだ。
「っ!」
「レオル!?」
ドスっという鈍い音がして、レオルが落ちたことがわかる。不幸中の幸いとでもいうべきか、崖がそこまで高くなかったおかげで目立った外傷はない。しかし、レオルはピクリとも動かず希はただひたすら呆然としていた。だが、状況を理解しきれない気持ちとは反対に手の感触はその事実を物語っていた。
「れ、レオル? 冗談だよね?」
レオルに、それとも自分に向けたのかその言葉は誰かに届くこともなく、闇に吸い込まれる。
(ま、まず誰かに助けを呼びに行かなきゃ)
ふと、そう思い今来た道を引き返そうとするが、希を激しい頭痛が襲う。何かを思い出そうとしているのか、今までの状況が-城に落ちたことも-リフレインする。
(なんなんだよ! こんな時に!)
頭が割れそうな痛みの後に見えたのは、電車の中での風景。それも一瞬で消えてしまった。
(今の、僕?)
窓に反射して写っていたのは中学生の頃の僕だった。周りには両親と、そして幼馴染2人。それだけだったけれど、いや、だからこその違和感。
なんにしろ今はそんなこと考えてる場合じゃなく、前に進もうとする。
(足が、動かない? 魔法、いやこれは……)
恐怖。足は前に動こうとせず、無理に進もうとすれば前に壁があるかのように拒まれる。そしてまた一歩、一歩と下がって行き、希はーーー落ちた。
どさっという鈍い音以外は何も聞こえず、ただただ沈黙が世界を守っていたーーー
ーーーさま! 希さま!」
顔を上げるとレオルの顔があった。どうやら、崖から落ちたようだ。が、不思議と痛みはない。大丈夫だ、と告げようと、横を向く。
「レオル、その怪我は!?」
レオルの右足はあからさまな腫れ方をしていた。きっとこれでは軽い骨折どころではすまないだろう。
「ん? ああ、これなら大したことはありませんよ」
そう言って走ったりして見せてくれるが、明らかにいひとつひとつの動きにぎこちなさが垣間見える。よくこれで走れるよ。
これはひどい、そう判断したのですぐに応急手当を行うことにする。
「ちょっと待って」
「なんですか? 希さま」
周りは森、きっとおあつらえ向きな枝が……あった。近くにあったツタを使い持ちやすいように改良すれば、はい! 松葉杖完成!
こちらにも松葉杖はあるようだ。すぐに使いこなしていた。あとは持ってきていた着替えを引き裂いて1枚の長い布にし、包帯代わりにして、応急手当てはこんなものか。
「さあ、レオル行こうか。今日の授業は中止でいいよね?」
「しょうがないですね。授業をしたかったんですが。そして希さまをいじめたかったのですが」
「冗談だよね!?」
怪我をしても相変わらずなレオルをみて、少しホッとしながら、歩みを進めることにする_____
とまあ、10分が経つのだが、一向に明るくならない。『標』という道具の指し示す方向へ進んでいるが……
「ねえレオル」
「なんですかな、希さま」
「さっきも同じところ通ったような気がするんだけど。気のせい?」
「はっはっは、それは気のせいじゃないですよ?」
「えっ!?」
「だってそれ壊れてますし」
「は?」
「さっき言いませんでしたか? 落ちた衝撃で壊れたようだ、と」
「聞いてなかった……」
ガサッと草むらが音を立てる。よくもこう、テンプレ通りにイベントが続くんだよ、まったく。出て来たのはゴブリンの群れ。1、2、3、4…10体くらいか。正に
「泣き面に蜂だよ」
「転べば落石ですね」
ほぼ同時だ。まあ、余裕があるからなんだけど。レオルにポッケの中の魔具を渡す。
あとは、こいつらの特徴をしっかり覚えることだ。じっと全体を見回す。つのが短いな。まあでもあるってことは若い雄の集団か。人なら不良ってやつだな。大概こういう奴らってのは魔法が上手く、調子にのってる輩らしいし。
近くにあった枝を投げつける。挑発だ。しっかり属性を見るためには攻撃をみるのが手っ取り早い。腰の鉄剣に手を掛ける。相変わらずズシリと重い。打って流すだけ、打って流すだけだ。そう自分に言い聞かせる。
近くにいた一体が何か呟きながら殴りかかりに来る。漫画でしか見られないようなオーラ……火闘か。レオルに合図を出して向こうの拳に剣の腹を添わせ、勢いを殺し目をつぶる。ナイスタイミング、レオルが魔具を投げつける。これは閃光の魔具、とてつもない光を放つ。今のうちに逃げる。ジンジンする手を押さえながらレオルを背負い走り出す。ただひたすら、元の道へ______
ひとまずさっきのは目くらましになるとは思うけど、どうせ一時的な効果だ。足跡や音は気にしながら走れるほど器用でもないし、『標』もない。レオルもいる、すぐに城に着くってわけでもないだろう。
ならどうすればいい?
まず戦闘だが、これは勝ち目がない。頼みのレオルが怪我しているし。でも、次の3つの中なら1番可能性があるだろう。向こうは火のゴブリン、短気で挑発に乗りやすい、扱いやすいゴブリンだ。
次に逃走だが、これもなかなかだ。こっちが勘で走らなければならないし、音、匂い、足跡なんかですぐバレるだろう。途中でレオルの魔法が切れたら終わりだ。
最後に罠か。ただ、落とし穴掘る時間は無いし、罠をかけれるような人はここにはいない。レオルの『浮遊』もいつまで続くやら……今は軽いけど、徐々に重くなってきている。攻撃魔法は習ってないし、剣術もろくに知らない。はやめに決着をつけるには……あれ、をやってみるか_____
_____ゴブリンが、2体か。ここで行くのが得策か? でも、もしかしたら群れの怒りに火を付けるかも……「大丈夫ですよ。この場合、群れは怯みますよ」そうか、じゃあ今しかない!
「っていつから聞いてたの!?」
「そんなこと聞いてる場合じゃないのでは?」
思わず立ち上がる。こちらが丸見えだ。いま、格好の餌食になるのって……僕?
……いきなり2体同時に襲いにかかってくる。若いせいか、まだ見切れる。とっさによけるが、後ろには
「レオル!」
「わかってますよ!」
松葉杖をまるで足のように使い避けると、1体に礫を投げる。それだけで1体KO。
「レオル!もう1体!」
「嫌です。めんどくさい」
何て爺さんだ! そちらには勝てないと悟ったのだろうか。ゴブリンもこちらに標的を変える。
「舐めんな!」
もともと描いてあった魔法陣を展開させる。浮かび上がるのは真っ黒な半球体。これでこちらの場所も分からないだろう。攻撃は無理でも、撹乱すれば勝てる可能性も出てくる。
「で、そこからどうするのですか?」
「え? 考え中」
「じゃあ、負けますよ?」
「いやいや、ゴブリンが魔法陣を打ち破るとでも?」
半球体が消える。
「なんで!?」
「当たり前でしょう。この程度で撹乱されていては、とっくに絶滅してますよ」
ゴブリンが拳を固めて飛びかかってくる。スレスレでよけ、振り向きざまに剣を降る。何かが切れる感覚。思ったより軽い。
「やったか!?」
「希さま! うしろ!」
「え?」
パッと振り向こうとすると意識が刈り取られそうになるほどの衝撃。
なんとか耐えたが、今までの冷静な判断は出来ない。ただ、自我を支配する恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖、恐怖……
「うわーーーー!」
闇雲に剣を振る。自らさえ、予測不能な剣筋、なんの間違いかそれが当たってしまったのだ。ゴブリンに。
「え?」
何か柔らかいものが切れ、硬いものに当たる。命が断ち切られる感覚。返り血が飛び、ゴブリンの首が飛んでいる。全てがスローモーションで……次の瞬間、背中に強い衝撃を当てられ、希は倒れていた。
_______なにかが切れる感触。返り血が服にべったり着き、ゴブリンの首がとぶ。その首がこちらを睨みつける……
「うわーーーーーーーーー!」
はあ、はあと荒い息になる。あれ? 森にいたはずだけどここは……?
「希さま大丈夫ですか!?」
「アレン! レオルは? あのあと何が? 大丈夫?!」
「落ち着くです。はい、深呼吸。吸って、吐いて、吸って、吐いて」
言われるがままに深呼吸する。心が落ち着いてきた。アレンが口を開く。
「レオルは隣室で寝てるです。骨折のようですね。2人共城の前に倒れていたです。血だらけだったのでひとまず上下の1枚は洗っておいたですよ」
ゆっくりと確かめるように質問に答えてくれる。不意にさっきの夢-いや、現実か-を思い出し吐き気が襲う。
まあ、そこから先は______自重するかな。想像にお任せするよ。
そんなこんなで2日くらいずっと吐いてたんだけど。だんだん自分の存在意義を見出せなくなってきてね。で、精神的にやられちゃったってわけ。まあ、弱いだけかもしれないけどね。今? うーん。やっぱ、今あれをやっても吐くだろうね。ただ、帰るとこも出来たしね。きっと、きっと大丈夫さ。あ、アレンが呼んでる。今日の日記はこれでおしまい。
「希さま! ひっさびさの魔法の授業、新任教師さまが来てるですよ!」
「うん! すぐ行く!」
達筆な文字で最後に一言。ありがとう、と刻みすぐに駆け出す。希の異界生活ははじまったばかりだ。
To be continue…?
〈2日前〉
「アレンさま、本当にこれでよかったのですよね」
しっかり鍵のかかった部屋、その中でレオルがアレンと話している。
「当たり前じゃないですか。そのための芝居じゃないのですか?」
仕掛けは簡単だ。あそこで若干の睡眠薬を使って気を緩めさせる。すぐに落ちかけるはずだからそれをレオルが助けて落ちる。もちろん受け身はとってあり、怪我は見せかけだ。勝手に希が落ちたのは計算外だったが、その後は偽の『標』でゴブリンの巣窟に放り込み、1体殺したところで希に当身をとってねむらせ、逃げる。全てが計画通りだ。
だが、レオルには思うところがあった。それは、こうも1人に、少年に頼りきっていいのかということだ。『来訪者』という半端じゃないプレッシャー、いきなりの危険、慣れない環境…どれをあげても、とても耐えられるものではない。例え、それが死にたいほどに絶望した人でも。
「このまま、彼が帰ってしまえばどうするんですか? そもそも、あなたのご両親がこんなことを望むとは思われませぬぞ!」
「黙れ黙れ黙るです! お前は私に従えばよいのです! 私には、一国の国民を守る義務があるのですよ! それは情だの、心構えだの、平和主義だという言葉では語れないのですよ! わかるですか!? 私だって、普通でいたかったですよ! そこらにいる同じくらいの子らと仲良くなりたかったです! 恋もしたいです! でも、でもぉ……」
いよいよ泣き出してしまう。微妙な雰囲気が立ち込める。結局アレンが泣き止むまで待ち、その日は終わってしまった。
だが、レオルは大きな手応えを感じていた。それはきっと希が現れたからだろう。内心で感謝する。感情の起伏が大きくなり、希にも心を開きかけている。ふと、アレンの部屋の窓際に飾られている、廻華津木を思い出す。
「重責は分けれますよ、アレンさま……」
アレンに、自分に呟いた一言は、ゆっくりと壁の白に吸い込まれて行った。
To be continue …