6話 脱出と『家』と爺さんと
番外編2ですが、後半部分は追記しております。
繰り返します。
前半しかみていない方がいらっしゃれば、もう一度読んでください。
後半追加されてます。
さて、もう授業がはじまってから2週間が過ぎようとしていた……
「はぁ……」
ようやく午後の授業が終わった。アレンもレオルも部屋から出ていく。もう言語はほぼ終わったし、地理も、武術の基本も習った。ただ、魔法だけは1回しかしていない。
練習して、独学で立体人形を動かせるくらいにはなったけど。でも、それだけ。でも我ながら凄いよなあ。独学でここまでいくとか。
まあ、物体に干渉するだとか、何かを元通りにするだとか、そんな魔法は一切使えないんだけどさ。
ちなみにそんな僕はホームシックみたいです。一昨日の授業から、どうもここにいるのが苦痛になってきた。僕ってダメ人間なのかな……先々週くらいから、アレンも寝不足みたいで今日もやけに部屋が静かだった。たまにレオルが授業に関係のない話をしてもスルーされてる。ああ、あんな家でも帰りたいと思う日が来るなんて……
まあ、日本人の僕にはあれ(・・)は堪えたよ。ま、つまり限界だよ。かっこいいこと言ったけどさ、有言実行なんて無理さ。そう思いつつ、この後の行動を頭の中で確認する。
まず、部屋から抜け出し窓を探す。そして窓から城の外へ。門番がいるなら、アレンの立体人形で騙す。ちょっと倒れさせるだけでもいいだろう。ひとまず、アレンもそれなりに重要人物だろう。国内の魔導師の中で10本の指に入るんだって言ってたもんね。
嘘じゃなければ、だけど。
門がしまっていたら、誰かが外へ出るのを待とう。で、外にでたら……
ここでふと、気付く。僕は外に出て何をしたいんだろう?ここにいれば、衣食住には不自由しないし、危険な目にも合わないだろう。
……でも、逃げたい。辛い、本当に辛い。今でもあの感触が手に残ってる。ここにいても埒が明かないのも確かだ。だから僕はここを出る。そういう結論に至った。
部屋に魔具がないことを確認し、ドアノブに手をかける。
「よし、今日は魔法がかかってないな」
と、小声で呟きゆっくりとドアを開ける。
外を見ると長い廊下が続き、左右には同じようなドア、ドア、ドア。その廊下の先には当然のように壁が見え、さらに先に、階段があったはずだ。心臓の音がうるさい。ゆっくり深呼吸する。大丈夫、大丈夫だ。授業で何度か外へ出たとき、そこを通った。
といっても、いつも出るのは森の中。
ここが城なら、きっと城下町があるはず。多分、あれは国立公園みたいなものだろう。凄い城下町があるって、この前レオルが言ってたし。
そう憶測をたてながら、階段につく。耳を澄ませても、声は聞こえない。抜き足、差し足、忍び足。そーっと階段を登りきる。しかし、上に上がっても不自然なくらいに人がいない。どういうことなんだ?
まあいいか。ここでシーツを一枚取り出す。事前に書いた魔法陣が崩れていないかという確認のためだ。このシーツに立体人形を浮かび上がらせる予定だ。地面に置くためこれは泥々にしてある。カモフラージュだ。
もう一度左右確認。よし、まずはあの窓から脱出出来るかみてみよう。耳を澄ませ、誰かの声がしないか確認する。上から何かを叫ぶような声が聞こえたが、すぐに静まる。なにしてるんだ? あまり気にせず、窓に駆け寄り下を見る。
おお、門が見える。うん、開いてるな。ついてるついてる♪
窓から地面までの距離はせいぜい1,5mってとこか。ここで降りれるかな? でも、1,5mなら大丈夫か。……それにしても順調だな、仕組まれてるのか? 辞めるか、と一瞬考えるがすぐに頭を振る。もう十分考えてだした答えだ。今更変更などしない。自分に言い聞かせ、窓を乗り越える。
「おっと」
足を捻りかける。危ない危ない。こんなとこで怪我してたら城外へでるどころじゃなくなるや。門を確認する。ひとまず門番は見当たらない。多分、門の外にいるのだろう。窓の方に注意しながら、門の近くに移動する。幸い木々が邪魔をしてくれたおかげか、誰にも見つかることはなかった。
ついでに、シーツも設置しておく。よし、これであとは石でも当てればOKだな。別に棒で叩かなくても、衝撃を本人が与えればいいみたいだし。
門をそーっと覗く。橋がかかっており、その先には石畳の長い道が見え、人がたくさん通っている。たしかにすごい人だな。
休日のイ◯ンくらいかも。念願のケモミミは見えないな。エルフどころか、人ばっかだ。髪は黒は少なく、明るい茶や金髪、銀髪、アレンのような白髪まで様々だ。
で、その橋の真ん中辺で門番がべっちゃくっている。見た感じ2人だな。……なに喋ってんだろ。ちょっと盗み聞こうかな?
「なあなあ、知ってるか?」
「何がだよ」
「いや噂なんだけどさ、城内に黒髪の男の幽霊がいるらしいぞ」
「はあ?なんだよそれ。そんなもんいるわけないじゃん」
「いやいや、2週間くらい前に悲鳴が聞こえたらしいぞ。俺も聞いてるし」
「空耳じゃね? それより話ばっかしてると王女に怒られるぞ! もうすぐ会議終わって兵長も帰ってくるし」
「それもそうだな」
そういって急いだ様子で離れる2人。ふーん、幽霊か。でも2週間前の悲鳴って、僕がベッドから叩き落とされたあれじゃ……? まあ、レオルにでも聞こうかな。
……あれ、帰る前提?まあ寄るとこもないしなあ。どうしよう?
ま、いいか。
手頃な石ころをシーツに投げつける。珍しく一撃であたり、浮かび上がるアレン(ホログラム)。しばらくすると命令通りにバタッと倒れ、「うぅ」と呻いた。さすがに声で気づいたのか門番がこっちをみる。
「ん? お、おい! アレンさまが倒れているぞ!」
「へ?そんな縁起でもない嘘……うおっ!?」
すぐに駆け寄る2人。その隙をみて駆け出す。あれは所詮人形。しかも魔力も使うし、シーツが持つのはせいぜい1分。そもそも近寄れば魔法だとバレるだろう。全力で逃げ出す。まっすぐ逃げてもバレそうなので、左に曲がる。後ろで騒ぎ声が聞こえるが、追いかけられている気配もない。
おお、陽動作戦大成功だ! に、してもアレン『さま』か。随分大物なんだな。徐々にスピードを落とし、門が見えなくなくなると歩き出す。ひとまず散歩でもするかな。
〈町外れ〉
「はあ、はあ、はあ」
もうここまで逃げれば大丈夫だろう。地面にへたり込む。なんでアレンとレオルが追いかけてくるんだよ! 猛ダッシュって...…
あの二人がふざけているように見えたのは僕だけかな。魔法を当たるギリギリに打ってくるし。辞めてくれよ……
そんな周りは、町外れとはいえ、流石は城下町。近所の商店街くらいの賑やかさはある。近くには森があるというのに、よくこんなに賑わうものだ。
「少年よ」
いきなり声をかけられる。誰だろう? このおじいさん。
「少年よ、といっておるのだ」
「あ、はい」
「お主『来訪者』じゃろ?」
「は?」
声が裏返る。待て、相手はふざけているだけかも。いやいや、ボケ老人って可能性も……
「誰がボケ老人じゃ、若造が!」
「ひっ! 心読まれた!」
「いや、声に出てたぞ」
そういってカラカラと笑う老人。くそ、このおじいさん何なんだよ! 後半は声に出たとしても、来訪者ってことは言っていないはずなのに!
「なぜ、僕が『来訪者』だと思うのですか?」
「かっかっか。なぜじゃろうなあ?」
「じゃあお名前は?」
「ボケ老人には分からんよ」
このおじいさん、普通に聞いても教えてくれる気がしない。相当な捻くれ者だな、こりゃ。しょうがない、平身低頭お願いするしかないかなあ。気になるし。
「どうすれば教えて貰えますか?」
「おお、低姿勢は良いことじゃぞ。そうじゃな……儂の話を聞いてはくれぬかの。人受けする話ではないかもしれんが。そうすれば、なぜ分かったか教えてやっても良いぞ」
しばらく考えたが、話を聞くぐらいなら問題ないという結論に至った。
「わかったよ」
「そうかい、ありがとよ」
そうすると、老人はすこしずつ話をはじめた。
____とある村に、一人の男の子が生まれた。名をデュマ・ナホといい、優しい両親とともに豊かではないが、幸せに暮らしていた。しかし、幸せはいつまでも続かなかった。それは、デュマが12になった日のことだ。12になれば、魔法も解禁される。
浮かれたデュマは、友人である魔導師から魔法陣を教えて貰い外で使ってみた。それは『魔弾』という最下級魔法だった。普通なら、何も問題なかったのだ。普通なら。
その球体は、『白』だったのだ。白は呪われた属性の証。セレノオ教の信者の多いその村での彼の属性とは、不幸の象徴でしかなかった。繰り返される嫌がらせ。それでも、デュマは希望を捨てていなかった。両親がいたから。信じてくれる人がいたから。
そんなある日のこと、家に帰ると
両親はいなかった。
デュマはその現実を受け入れられなかった。どこかに隠れているのではないのかと、必死に探した。本当はわかっていたのだ。
自分が捨てられたのだということは。
何日も探して、探して、探して、そして諦めた。諦めは憎しみに変わり、憎しみは虚無へと変わった。全てから色が抜けたようにデュマは感じた。数年後、彼は村を出た。色は相変わらず戻らない。彼は、色がもう一度みたかった。なら、どうすればいい? 考えて、考えて、考えた答えが、この世界を虚無へと変えた『魔法』ってやつで世界を見返してやろう、ということだった。
彼の属性は劣っていない、ということを証明してやろうと。その日から、彼の研究ははじまった。一人で、なんの知識もなかった。でも、彼にはかたい決意があった。
そして数十年後、
彼は魔法学会の権威となっていた。
また、そんな彼の努力により、彼の属性への風当たりもマシにはなってきていた。『魔具』があらわれるまで。『魔具』を無属性が使えないと分かるとセレノオ教の信者達は、それを理由に彼の属性への迫害を再開した。
それは、彼にも影響をきたした。その属性である、ということを理由に学会の追放が決定したのだ。戻りかけていた色が、また、抜けた。その後の彼を知るものは少ないという____
これで終わりのようだ。随分暗い話だ。そりゃあ、人受けするとも思えない。
「ありがとよ。老いぼれの無駄話を聞いてくれて」
「まさか、デュマって??」
「……儂の話じゃないぞ。こう見えても語り部での。ちょっと反応をみたかったんじゃ」
「で、ですよね」
「ああ、そういえば、お主になぜ来訪者か分かったのかを教えねばならんかったな。それはな……」
「あ!希さま、探したですよ!」
あれ? アレンのテンションが戻ってる。なんでだ? というか、そのまま捕まっていいのか?
ま、いいか。おじいさんの話聞いてたら、随分気が楽になったし。他人の不幸は蜜の味ってわけじゃないけど、なにこんなちっぽけなことで、って思えた。そりゃ、寂しいし帰りたいけど、ここにいるって決めたのは僕だし。
「ごめーん!散歩していたら迷っちゃって、このおじいさんに道を……あれ?」
たしかにそこにいたおじいさんは消えていた。
「おじいさん?」
「ほっほっほ、もしかして私のことですか? じじい扱いとはひどいですね」
「レオルじゃないよ。今、ここにいたんだけどな??」
「そんなこと言わないんですよ。怖いじゃないですか」
「あと、なんでそんな格好してんの?」
レオルは変わらないけど、アレンは随分厳重な変装してるし。
「まあ、私は有名人ですから!」
「はいはい、そうですね」
「むー。本当なのですよ! あ、明日から魔法の新教師がつくのです」
「そうなんだ。どんな人?」
「それは、出会うまでのお楽しみです」
「それにしても随分調子が戻ったね。何かあったの?」
「魔法の先生が決まらなかったのです。ようやく勤めてくれる方が見つかったのですよ……苦労はかけると思うですが」
「?最後よく聞こえなかったんだけど」
「独り言です。あー、仕事がひと段落してよかったのです。ようやく寝れるです」
話を逸らされたな。なんて言ってたんだろう? 首を捻ってると、二人が先に歩き出す。
「さあ、帰るですよ。希さま」
帰る、か。もうすっかり家になってたんだ、あの城は。クスッと笑おうとした。でも、笑えなかった。かわりに溢れ出す涙。
「あれ?」
「どうしたですか!?」
「大丈夫ですか!」
二人が口々に心配する言葉をかけてくれる。大丈夫だよ、と返したいのに涙が止まらない。そして今、気付いた。僕はずっと帰れる家を探してたんだって。本当に心配してくれる家族を探してたんだって。両親がいない僕によくしてくれた伯父さんと、伯母さん。本当に感謝してる。けど、あの人たちは僕を親戚の子供として扱っていたってこともわかってた。同情してくれてるだけだってことも。
だから、本当の家族が欲しかったんだ。
おじいさんの話を聞いて気が楽になったのは、自分と同じ境遇の人の話を聞いたからだったんだ。最低だってことは分かってる。疑いすぎなのかもしれない。でも、この二人はきっと一人の人間として、僕を受け入れてくれてる。来訪者だからとか、身寄りがないからとかじゃなく。
これは直感だけど、僕はそれを信じる。ようやく止まった涙を拭って、今出来る限りの笑顔で答える。
「ありがとう」
二人は、突拍子もなく出された感謝の言葉に戸惑っていたが、
「いえいえです!」
しっかりと、答えを返してくれた。異世界で前を向き続けることができたのは、きっとこの一言のおかげだ。
本当は、僕が救われたもう一つの理由から、目を逸らしていただけなのだけれど。そのことに気付くのは、まだ先のことだった。
To be continue…?
「あれが、新しい来訪者、か。無属性。同族だな」
デュマ-おじいさん-はそうこぼし、城に向かう。先ほどの陽気な様子ではなく、その声に気持ち悪いほどに抑揚がなかった。その跡からは音が、色がなくなる。そうして、だれに宛てるでもない呟きをもう一度。
さあ、儂の世界にもう一度色をつけてくれ、と……
To be continue…
次回、豪華? 2本立てでお送りします!