5話 森と犯罪と属性と
ああ、お昼美味しかったな。ただ、いい加減外に出たい。まず部屋からすら出してもらえないし。監禁で訴えようか? あ、でも先にこっちが捕まるや。不法侵入やら、不法侵入やら、あれ? 他になにかしたっけ?
そんなことをグダグダと考えているとアレンが入ってくる。
「どうしたんだ?お昼休みはまだもうちょいあったと思うんだけど」
心の中で、どっちにしろ暇だけどと思ったのは言わない。そんなことを言った日にはいつもよりもひどいスパルタ教育が待ってるからね。
アレンがふふん、と鼻をならす。
“いいお知らせですよ! なんとお昼からの授業が、休み”
「えっ!? 本当!?」
じゃあ、なにしようか? 寝てようかな? それとも……あれ? 寝るしかないじゃないか! なんて暇な異世界ライフだ!
“なわけもなく、魔術の勉強ですよ。頑張れです”
今、猛烈にハリセンが欲しいんだけど。ちょっとこのチビを全力で叩きたい。僕の期待を返せ!
“まあずっと閉じ込めるのもなんなので、外に出してやるのです。といっても城の敷地内だけですが”
おお、外に出れるのか。ケモミミとか見れるかな? ワクワクしてきた!
〈城敷地内〉
「えっと、ここは?」
“城の敷地内です”
周りを見渡す。うん、間違いない。自分の考えに自信を持って聞いてみる。
「ここってもろで森だよね?」
“城の敷地内です”
連れて来られたのは木々が鬱蒼と生い茂る森の中だった。あちらこちらから、鳥の声だろうか? 聞いたことのない鳴き声が聞こえてくる。……不気味だ。
“さて、授業をはじめますか”
「いやいや、なんでこんなところで?」
“……希さまは魔法の原理ってわかるですか?”
「いや? わからないけど。でも、『魔力』ってのを使うんじゃないの?」
テンプレ通りなら、だけど。
“まああながち間違ってはいないです。ただ、正しくは『魔力』の元になるエネルギーを空気中から取り込む、とでもいうですかね。その過程で自分の体を媒体とするので、体力は消費します”
「エネルギーを?」
“そうです。そもそも魔法とは、簡単にいうと転移術しかありません。火魔法は熱と燃焼物を、水魔法は物質を……などというふうにです。無属性や竜属性は、数が少ないことからその解明が進んでいませんが”
まあ、別の理由もあるのですけどね、とアレンがつぶやく。その言葉に触れようとすると、先にアレンが説明に戻ってしまう。
“その中に『言霊』を使った昌永魔法、『文字』を使う呪詛魔法、そして『形』を使った魔法陣があるのです。ちなみに魔具は呪詛魔法を使っており、世間でもこれが一般です”
「あの、『別の理由』ってなに?」
“まあ気にしないでください。いずれわかることです”
誤魔化すようにアレンは笑う。この前の笑顔とは程遠い『作り物の』笑顔だった。
“あ、たまに勘違いされる来訪者さまもいらっしゃいますが魔法は遺伝ではありません。走るのが得意な一家から投げることが得意な子供が生まれることもある、という風な話です。まあまず『口が動くなら、手を動かせ』という格言もあるわけですし、まあまずはやってみせますか”
そういって、この前のように呪文を唱えだした。しばらくするとアレンの手が輝きだす。それは徐々に竜の形へと変わり、アレンは気合とともに木に拳を打ち込む。
“はっ!”
次の瞬間、今まで見たどの魔法よりも眩しい光が辺りを包みこむ。
そして木は、クレーターを作り……消えていた。
“これが昌永魔法です。今のは魔装、といい、魔法を体にまとわせることによって身体能力、攻撃、防御力を上げる昌永魔法の1つです”
アレンは悠々と説明を続けていたが、一方の僕は声もでなかった。木が一本消えたんだよ!? とてもじゃないけど、冷静ではいられないよ、普通。
“じゃあ希さまもやってみてください。違う魔法ですが、呪文は教えますから”
「あ、はい」
“どうしたのですか?まさか、今のでちびりそうになってるですか?”
「ち、違うよ!いや、驚いたけど・・・・」
“どうなんだか?”
肩をすくめ、おどけるアレン。
“じゃあはじめますか。これは初歩の魔法なので、体に障害でもない限り簡単に出来るはずです”
そういって、僕に真似るように促してくる。
“・-・・-・-・・”
「・-・・-・-・・」
僕の手に力が集まってくる感覚がわかる……ような気がする。
“はっ!”
「はっ!」
そしてアレンの手からは黄色い球体が。僕の手からは……なにも出なかった。
「“え?”」
同時に疑問の声。そのあとも数度繰り返すが上手くいかない。
“まさか、でも! それならどうすれば?? そうか、魔法陣なら……!”
アレンの中で結論が出たようだ。
“ちょっと、これを描いて棒で叩いてみるです”
そういって地面に描いたのは、二重の円の中に文字と様々な形を書いたものだ。これは朝から雑学程度で習った、
「古代文字と、『象形』?」
“そうです。これが魔法陣。古代文字と、力のある象形を組み合わせたものです。さあ早く描くですよ”
言われるがままに隣に写しこみ、棒で叩く。
カッ
すると不恰好な魔法陣から光が。
そして……
「これは……僕?」
立体で映し出される僕。横でへたり込むアレン。
“記憶持ってない上に、属性『無』ですとか、どんだけイレギュラーなのですか?”
しばらくすると魔法陣の立体が消え、へたりんだアレンと初めて使えた魔法に感動を覚える僕だけが残された。ただ、このときはまだ無属性がどういうことになのか、知らなかったんだ。
To be continue…
地場
実際は空気中の魔力。魔力は空気より若干重く、動きがない状態では地面付近に魔力が溜まり地面から力を得たように見えるため、発見したタジェイ・ゲルカによりそうつけられた。
魔力
空気より若干重い、物質に原子レベルで働きかけることのできる物質。ただそのために他のものを媒介しないといけないため、惑星が分解されたという事象はない。
魔法陣
『形』を媒介として魔法を使う方法。
力のある古代文字(象形として捉えられるらしい)や、さまざまな図形を組み合わせて使う。
メリットとしては自分の魔力を使わない(自分に刻めば別)、全属性に対応する、長時間継続する、などが挙げられる。
唱詠魔法
『言葉』を媒体として魔法を使う方法。
現代の言葉で使えるため、最も一般的。
メリットとしては道具不要、簡単、威力操作が楽、などが挙げられる。
呪詛魔法
『文字』を媒介として魔法を使う方法。
魔具に使われ出してから、一気に広がった。特有の文字(地球の文字と思われる)は普通の人には読解が難しく、安全面にも優れる。
メリットとしては、安定性、簡単、魔力消費量小、などが挙げられる。