2話 魔法と名前と青い本
女の子の笑いが少し収まってきたようなので、気になっていたことを聞いてみることにするとしよう。
「なぜ君は僕の名前を知っているんだい? 」
向こうが誰か、ということも気になるがこちらが先決だ。名前を知っていた、ということが一番驚いたことだしね。
女の子と執事は顔を見合わせ、やはり聞きなれない言葉を交わし合ったあと、執事がすぐに壁際にある本棚の方にいき、青色表紙の本を持ってきた。
“まあまず自己紹介からはじめるのです。わたしはローデ=アレン。アレンと呼んでくれると嬉しいのです。こっちのおじいちゃん執事がレオルです。わたしの信頼出来る側近なのです”
アレンとレオル、か。やはりテレパシー(?)には慣れないが、向こうの名前がわかった。偽名、という可能性もあるが、まあいまは考えずともいいだろう。
希がそう思っていると、アレンが青表紙の本をめくりだした。
アレンは話を続ける。
“さて、さっきの質問の答えですが、希さまのことは、この本に記されているのです”
不意にアレンがページをめくることを辞め、こちらに本を渡してくる。読め、ということなのだろう。僕は特に抵抗することもなく本を受け取る。
やれやれ、こんな見たことも無い字が読めるはず……
あれ? 読める!
そのページは確かに自分に関して記されており、名前、年齢、人物紹介には内容があり、ステータス、属性、経歴はまだ何も書かれていなかった。極めつけは写真で、いまの格好が本に載っている。
名前、容姿、年齢、服装。
これだけの要素が揃ってむしろ信じない方が野暮ってやつだ。
自分のところだけ読めるのかも、と一瞬思い他のページを見ると、やはり読める! 途中の1ページが開かないのと、後ろ4ページにノイズがかかっているようになっていていることは気になるが……
ちなみに表紙には、こう書かれていた。
《来訪する者》
なんというか……ネーミングセンスないね。卒業生に校長先生がかける言葉みたいだ。
少し苦笑しつつも、字が読めたことにかなりの驚きを感じていた僕だったんだけど、読めないページはなんなのか、という疑問も大きかった。
しかし聞いてみてもアレンは誤魔化すように笑うだけだし、レオルは相変わらず口を閉ざしている。まあいいや、と思いアレンに本を返す。
いずれわかるだろうし、わからずともいいだろう。夢かもしれないし、現実かもしれないこの世界にも、知られたくないことの一つや二つもあるだろう。わからない方がいいんだ、自分にそう言い聞かす。
ーー多少の理不尽には、慣れてる。
アレンが、返した本のページを僕にみせながら様々な説明をはじめた。
“来訪者、という言葉を知っていらっしゃいますか? ”
「いや、知らないね」
“でしょうね”
わかってるなら聞くなよ……とは思ったが口にはしない。
“念のため聞いただけです”
「なんで!? 考えを読んだの!? 」
“顔に『わかってるなら聞くなよ』と書いてあるのですよ? ”
「や、やだなあ。そんなことないよ」
“よくいうのです”
「えーと、ほら! 来訪者ってなんなのか早く教えてよ」
“まーた話を逸らして……。まあいいのです”
顔に出すのは悪い癖だなあ、と思いつつもアレンの話を聞く。
“来訪者とは、フォーレ-この世界の名前です-全体の危機、または革変の際に別世界から召喚される知的生命体のことです”
「知的生命体って……やっぱ人じゃなかったりする方が多かったりするの? 」
“はい、むしろそちらの方が一般的です。ちなみに基準は『嫌だ』と言えず、でも仕事はきっちりする、というものだといわれているのです”
「まんま日本人だ……」
“そうですねえ。『地球』からだとだいたい100人近くきてますが、半数以上が『日本国』からなのです”
わあ凄い。日本に帰れたら、まずこの性格からなおそう、と決意する僕だった。
アレンの話は続く。
“あ、厳正な選別が行われるのですが、最終的にはダーツで決めるとか決めないとか・・・・”
「適当だね!? 」
“まあ、それでも契約を結ばせそれを守らせ続けているところは流石神というべきなのですよ”
「ん? 契約を『結ばせ』ということは、来訪者にも選択権はあるの?」
“はい、あるのですよ? 希さまは聞かれなかったのですか?”
「いや、聞かれるも何も神との会話部がほぼ記憶にないよ? 」
“は? ”
「だから覚えてないって」
“冗談、ですよね? ”
「残念だけど本当だよ」
答えると、みるみるアレンの顔が青くなっていくことがわかる。わあおもしろい。
横からレノンがアレンを気遣ったように何か喋りかけ、アレンがそれに答える。レノンは心配そうだが一旦引き下がるようだ。何喋ってんだろ?
“希さん”
「はい」
アレンさん顔が笑ってないよ?
“明日から記憶を戻しにかかります”
記憶を戻しにかかるってどうするんだろう? 痛くないといいなあ、なんて現実逃避してみる。いや、アレンさん怖いんだもん。
“そして今日から”
「今日から?」
“この世界について勉強してもらいます”
「なんで?」
“なんでもくそもないのです。普通なら神に教えて貰えることを教えてもらえていないからです”
「例えば? 」
“初歩中の初歩ですが……ここはどこですか? ”
「それくらい知ってるよ。ストメリア王国城内の何処かじゃないの? 昨日来たとこと部屋の構造似てるし」
“流石にそれくらい知っていましたか。腐っても神ですね”
腐ってもって……
“こちらの言葉はわからないんですよね? ”
「はい、全くもって」
“では魔法は? ”
なにそれ美味しいの?
“使えないようですね”
溜息をつくアレン。
“では職種を全て挙げてみてください”
「??」
“重症ですね”
さっきより大きい溜息。いや〜、悪いことしたかなあ?
“しょうがないのです。では、まず4職種からいきましょう。4職種とは……”
数時間後----
本当地獄だっt、じゃない、ためになる知識を寝るまで教えられたよ。
あ、ご飯はおいしかった〜。見たこともない食材だったから最初はドキドキしたけど。
明日も勉強かー。たのしみだなー。
本当だよ!? でもまあ、あんなもの見せられたらなあ……
〈回想突入〉
“ああ、あとはですね……”
(長いよ! )
今の状態はというと、いつまでたっても終わらないアレンの話に飽き飽k……もとい聞き入っているんだ。話を逸らそうと、じゃなかった。興味のあるものがあったので聞いてみる。
「ねえアレン、あれはなんなの? 」
希が指さした先にはスマホくらいの大きさの金属質のプレートがあった。
“あ、それの説明を忘れていたのです”
そういってアレンは懐から幾つも同じようなプレートを取り出す。大きさは同じくらいかな。一つ一つ違うのは色くらい。でも、若干材質が違うのもありそうだ。
“これは『魔具』です。『地場』を魔力に変換、増幅し、魔力の少ない多いを無視して「基本的」に誰でも魔法を使えるようにするものです”
ふーん、そんな便利アイテムがこの世界にもあったんだ。『地場』ってのは電気みたいなものかな? 変換して使うみたいだし。
で、
「基本的に、ってどういうこと? 」
“はい、その説明をするにはまず『属性』と、『魔法』について知ってもらわねばならないのです”
アレンがあらかじめ聞かれることがわかっていたかのように答える。
“属性、とは魔法に付与する能力のことなのです。これは個人によって決まっていて基本的に、火闘、水氷、木風、闇念、光電の2属性構成6種と、竜、無の1属性構成の特殊属性があります。ちなみに今までの『来訪者』は火闘、水氷、木風、闇念、光電のうちの1属性特化で、効果3倍でした”
ここまで説明したところでアレンがなぜか誇らしげに、
“私は光電属性持ちです”
と聞いてもないのに答える。
そして、
“なので”
といい置いてある花瓶に向かい何やら呪文を唱える。
瞬間、もの凄い光が部屋を横切ったかと思うと花瓶が跡形もなく消え去っていた。
声も出なくなる。割れる、くらいまでは想定内だったが、消え去る、はまったく想定外だった。
“あちゃー。やりすぎちゃったのです”
言葉のわりにに落ち着いているアレンは
“まあ、いいのです”
「いいの!? 」
あっさりスルーした。
“まあそんなことよりこの魔具です”
この人、そんなことよりで片付けちゃったよ……
そんなアレンに微かどころか巨大な不安を抱く希であった……
To be continue…
新人物
ローデ=アレン
謎の少女。
正体はおいおい明らかになるが、多分すぐ察する読者も多いかと。言語無視でテレパシーが使える。「~です」が口癖。
属性は光電。
レオル
アレンの執事。
結構な変態だが、紳士。でも、空気読めない。ムッチャ強い。
属性は火闘。
新規用語
フォーレ
希が飛ばされた大陸の名前。時代としては、中世あたり。ただ、文化レベルも西と東や、集落や街ごとでは全く違うため一概には言えない。つまり、作者の都合で書きやすい。
ストメリア王国
フォーレで唯一ヒトが収めている国。
来訪者
神に選ばれたフォーレ以外に住む、知的生命体。地球以外からも選ばれている。少々チート気味。1属性特化がほとんど。選び方は適当で、相応しい人間をリストアップ後、ダーツで決めるらしい。
属性
火闘、水氷、木風、闇念、光電の2属性持ち6種と、竜、無の1属性構成の特殊属性がある
基本的には2属性だが、ごく稀に無(属性相性無視)や1属性特化(効果3倍)もいる。
ちなみにこの世界では精霊が属性を付与するとされており、その付与がないとされ、魔具も使えない無属性への風当たりは強くなる一方である。