1話 僕と幼馴染と異世界と
修正はこんな感じで進めてます
全話こういう風に変わり予定です
あとは、風景描写、人物描写が詳しくなります
暗い。浮いているような感覚。重力から解き放たれたようだ。頭がぼーっとして、思考が停止している。
ふと、頭の方に重力を感じた。その感覚は先からどんどん強くなっていき、僕は落下していく。
一抹の光。一気に広がる風景。月明かりが窓からこぼれている。豪華な部屋だ、ぼんやりとそう思う。徐々に近づく床。重力の法則に人は勝てず、僕も頭から叩きつけられる。
暗転していく視界。そこには泣き腫らした目で、驚く少女が見えた。
目が覚めると、絵本や物語の中でしか見たことがないような天蓋が見え、驚いて跳ね起きる。
周りをみても誰一人いない。
起き上がり、周りを見回す。大きな部屋だ。ホテルのロビーほどはあるだろうか。床には赤い絨毯のようなものがひかれ、箪笥もある。別に何が入っているわけでもなかったが。その上には花瓶が置かれ、オレンジ色の花が生けられている。……きっと口があったのは気のせいだろう。
外から鍵をかけられているようで、ドアも開かない。窓がないことから、ここに来たときとは違う部屋であることもわかった。どんな監禁プレイだよ。僕はMじゃない!
……さて、続いて服装。ここにくる前とはほぼ変わっていないようだ。ジーンズにシャツ、それから帽子。携帯はなくなっている。財布なんかもない。持ち物は時計だけだ。靴はベッドの横に丁寧に置いてある。
ここまで考えて、ひとまず結論を出した。
……どこだ? ここ。
まず、天井を見上げると謎の照明。半透明な板のようなもので出来ている。光色は黄が少しかかった白。板そのものは黒だ。……謎、そうとしかいいようがない。普通、黒の中から発光させれば少なくとも黒がからないか? なぜ、白色の光が出るんだよ!
次に花瓶の花。チラ、とそちらをみる。急いで閉じたけど、あれ(・・)って口だよね? ぱっくり開かれた空洞には鋭い犬歯がよく見えた。植物だよね? 近寄りたくないけど植物だよね!
……最後は一番重要。ここ、どこ? 全く見覚えのない場所だ。
ちなみに僕の家は金持ちでなく、幼馴染がお嬢さまだというわけでもなく、大スターが知り合いにいるわけでもない、普通の家庭だ、多分。親がいないことを除けば、だけど。誘拐される心当たりは一切ない。顔は、中の下から下の上というどこにでもいる野郎だ。うん、モテはしない。あと、ヘタレだから恨みを買った覚えもない。
無い無い尽くしだ。
あ、でも勉強と長距離走は出来る。
……話が逸れたので戻そう。ここがどこかということだ。
誰に喋っているというわけではない。現実逃避ってやつだ。
可愛かったな。考えることをもはや放棄し、昨日の少女の姿を思い浮かべる。胸はなかったけど。髪は肩よりも長く、雪のように白かった。僕より少し小さいくらいの背丈。白いネグリジェがよく似合っていた。美人というより、可愛いよりの少女だ。笑ったら可愛いだろうなあ。おもわず頬が緩む。
「……はあ」
いつまでも現実逃避していてもしょうがないので、そろそろあの夢のような話をもう一度思い返すことにした。
ああ、時計からするに昨日のことだ――
「おーい」「大輝ー!」「智香ー!」 ……様々な声が山の中を行き交う。
僕も“消えた”二人の名前を交互に呼んでみた。
僕なりに精一杯張った声も、山彦のように響いて虚しく吸い込まれていく。
ここは日本のとある田舎町、大輝と智香は僕の幼馴染たちの名前だ。
「はぁ……」
思わずため息が出る。今日でもうあの二人が“消えて”からもう四日だ。
携帯は、電源が切れているのか、圏外なのかはわからないが、繋がらない。誰にも連絡をよこさず、いまだに帰ってこない。警察は事件に巻き込まれた可能性を視野に入れているらしい。それぞれの親はもうすでに発狂気味だ。
でもまあ、目撃情報があっただけマシだとは思う。四日もたっていなければ、の話だが。
足を進める。枯葉がサクサクと音を立てて気持ちいい。去年のものだろう、今は春だ。
けれどその情報が少々、胡散臭いのだ。話は簡単だ。二人がこの山の中に入っていくのを見て、後ろをつけた男がいたらしい。少しどころじゃなく犯罪者臭がするが、今はスルーしよう。なにもやらしい意図はなく、驚かそうとしただけらしい。
少し、少し目を離したらしい。その瞬間広がった眩しい光。次の瞬間には二人はいなかった、という話だ。
全くふざけている、いつもであればそう一蹴するだろう。だがしかし今は緊急事態である。そういうわけで僕たちが駆り出されたわけだ。
(まったく、どこか行くなら誰かに連絡してからいきゃいいのに…… あれ? もしかして駆け落ち!?)
全くもってしょうもないことを考えてみてから、頭を振った。あの二人に恋愛感情が無いのは確かだし、頭のいい二人だ。そんな馬鹿げたことはしないだろう……多分。
そんなことを考えながら歩いていると、妙に開けた場所に出た。テニスコートくらいの広さはあるだろう。芝生みたいな丈の雑草が生えているだけで、遊びやすそうだ。
(あれ? 裏山にこんな場所あったっけ? )
土曜なのに、誰もいない。こんな場所があれば、今頃子供たちの格好の遊び場になっているだろうが……
(まあ、いいか)
そのまま通り抜けようとする。
しかし、中央近くを通ろうとしたところで異変が起こった。
体を光る球体が覆い、そして自分ごと浮かび上がったのだ。
(!? )
次の瞬間僕は、変なところ、に出ていた。
どういう所かは、言葉では説明し難い。わかりにくいのを承知で説明すると、白いようで黒く、黒いようで白い。
明るいようで暗く、暗いようで明るい。
場所によっては色もあるが、本当にそれが色であるのか。
そもそもこの世界すら本物なのか、偽物なのか、それすらもわからないような世界だ。
身近に体験したければ、目を閉じればいい。それに近いものを感じることができるだろう。
さて、話を戻そう。
驚き、呆然となる僕。一瞬の出来事で、未だに状況を理解出来ない。意味不明な世界。この混沌の中には、意味など存在しないような気がした。
だが、声がかかりすぐに現実に引っ張り戻される。
『やあ、君が新しい『来訪者』如月君だね? 』
いきなり名前を呼ばれる。聞いたことはないが、どこか懐かしい声。周りを見るが、やはりさっきと変わらず不思議な空間があるだけだった。
ただ、そこに【何か】がいることは、わかった。
「えっと、あなたは誰なんでしょうか?」
つい、思ったことが口に出る。言った後に少し失礼かと思ったが、口をついてしまったものは仕方が無い。
『ああ、君は私のことを知らないんだったね。名前、は自分でも知らないんだ。ただ、存在そのものを説明するのなら……君たちの世界でいう神さまってやつかな?』
僕は驚く一方、納得してもいた。これが神なら、今までの不可思議な現象にも全て説明がつく。と、いうよりも信じなきゃこんな状況やってられない。
『ふーん、あんまり疑ってはいないんだね?』
笑いを含んだ声。なにがそんなに面白いのだろう。
「はい。今までこんなに不思議な思いをしましたし。信じない方がどうかしてますよ。それで神さまが僕に何のようなんですか?話し相手に呼んだわけでもないんでしょう?」
少しカチンときた僕は、一気にまくしたてる。いつまでもこんな場所にいるわけにもいかない。
幼馴染たちの行方も未だにわからないのだ。なにもないのならさっさと返してくれ、というのが僕の考えだった。
僕の思惑が通ったからかは分からないが、神はその理由を話しはじめた――
このあと、覚えているのは重力を得た場所からだ。そこまでの記憶は、ない。
全然覚えていないが、きっとここにいるのにも意味があるのだろう。第六感ってやつだ。でも、無理やりだったらショックだな……
まあいい。ひとまず夢かもしれない現実をみてみる。
どうにか記憶に残っているのは、この世界と、飛ばされたここの情報。世界観ってやつだ。ゲームならさながら勇者役だな。
ここは「ストメリア王国」。妖精、悪魔にモンスター、獣人からエルフまで、なんでもありの世界。その中で唯一ヒトが治めている国だ。そしてその国の城内に放り込まれた……
やばい。
考えれば考えるほど、やはり夢でもみてるのかと疑いたくなってくる…… でも昨日頭打ったのは痛かったからなぁ。
……女の子泣いてたな。
見た感じ年は近そうだったけど、何があったんだろう。
――不意に足音が聞こえた。
頭の辛うじて冷静な部分がフル回転する。
起きておくか? いや、尋問とかになったら嫌だ。あとあとされるにしても、ひとまず僕の置かれている立場が知りたい。
そう考え、間一髪ベッドに潜り込む。余談だが、掛け布団は羽毛入りのようにふわふわだった。
ガチャ、とドアが開く音がする。
入ってきたのは昨日の少女と、白髪混じりの執事っぽい格好をしている人だ。服装は執事が黒の正装、少女は白いワンピースのようなものだ。髪は結んでいない。昨日見たはずの目の腫れは、嘘だったかのようにひいていた。双子なのかな?
執事っぽい方 (以下執事)が、ドアから周りをみて誰もいないことを確認するような素振りをしたあと、静かにドアを閉める。
女の子がこっちをのぞき込むようにしたあと、人差し指をたてて執事に、「静かに」というジェスチャーをしたあと、執事になにかを耳打ちすると、執事もすぐに頷く。
声を潜めながら、執事がおもむろに話し出す。
「~~~~~~~~~~~~」
「------------------」
「~~~~~~~~~~~~」
何を話しているのだろう。ゲームなら自動翻訳機能がつきものなのに……
そう思いつつも、少し困惑する。どうやら、この世界はゲームのように上手いことは出来ていないらしい。
僕は聞いたこともない言葉で話している二人を薄目で見ながら、そんなことを考えていた。
と、いきなり女の子がつかつかと歩いて来て『声』をかけてきた。
『あんた寝るふり下手すぎなのですよ』
それはなんというか、喋っているわけではなく、多分テレパシーってやつだろう。心に直接喋りかけられるような感覚。寝たふりがバレた、その驚きよりもはるかにその新たな感覚に新鮮味を感じていた。
脳の処理能力を超えてしまい、一周回っていまは冷静だ。人間って凄い。
『『来訪者』希さま? 』
「えっ?」
流石にこれには驚きを隠しきれない。見ず知らずの人にいきなり呼び止められるようなものだ。小さい驚きの方が人は反応するものである。
自分が寝たふりをしていたことすら忘れ、つい声を出してしまう。そんな驚きを隠せず呆然となる、僕の様子がおもしろかったのだろうか。少女はいきなりくすくす笑いだした。くすくすは大きくなるわけではないけど、それでもしばらく落ちつきそうにはない。
いきなり笑うなんて、少し失礼だと少しムッとした。ただ、感じていたはずの恐怖は少女の笑い声でなんだか薄れ、結局僕も少し笑ってしまう。
目の前の少女の笑いが収まるのを待ってから、聞いてみたいことを聞いてみよう。まあ、急ぐわけでもないし。
これは後に『終末告知者』と呼ばれたなんとも『面倒臭い経歴』を持つ少年と、『献女』と呼ばれた『元』人間不信の少女の物語である。
To be continue....
如月 希
ちょっと足が速いのと、それなりに頭がいいのが自慢のわりとどこにでもいるモテない高校1年生。
しかしちょっと別の意味での馬鹿。
女の子みたいな名前がコンプレックスになっている。