9話 僕とアレンと旅立ちと
随分ストーリーがハイペースです……
あと、7.5話終わってませんよね
本当にすいません
夏休みには話自体を引き延ばす&テスト期間中には7.5話後半を追加予定なのでよろしくお願いします
旅立ちは突然訪れる。そう、今日のように……
森に快音が響く。ザッ、ザッ、と足を踏み込む音。風を切る音。物体と物体がぶつかり合う、音。
「はっ!」
木刀を打ち込む。これを本当に僕が? 自分でも驚く。
それは鋭く、的確に相手の頭に向かう。
あのとき(ゴブリン)の恐怖は、まだある。はじめて意識した死は、儚く残酷だった。
けれど、前に進まなければ。そう、立ち止まっていては、ダメなのだ。幼馴染たちのためにも。僕のためにも。
カッと音がなり、剣が弾かれる。レオルはまだ余裕だ。
今日は試験らしい。合格すればなにかあるときいている。
(美味しいご飯がいいなあ)
ふと、そんな思いが頭をよぎる。全く、この状況で。我ながら呑気なものだ。
油断したことが分かったのだろうか、僕のより数段も速い踏み込み。目で追うことすら至難だ。
頭を切り替え、必死に勝つ道を探す。幾重にも別れた分岐点。正解はどれだ? 切羽詰まり、道を駆け回る。
こっちは行き止まり。
それは途中までしか道がない。
あれは……一本の壊れそうな吊橋。
だが、これしかない。
少し左に体を揺らす。
賭けだった。
僕が勝つか、レオルが勝つかの。
左に、目視すら出来ない突きが入る。
僕の、勝ちだ。
右に避けながら、空を切ったレオルの剣を跳ね上げる。
力なく打ち上がった剣、倒れるのをどうにか踏ん張る僕。
全てがスローモーションで、第三者の視点のように冷静だった。
相手の首元に剣先を突きつける。意味はない。やってみたかっただけだ。
レオルは溜息をつき、口を開く。
「参りました。全ての授業はこれで終了となります」
レオルが少し、どこか清々しそうに、降参の意を示す。
僕の勝ちだ。レオルの手加減だとわかっていても嬉しかった。
木々の間から見える空はどこまでも澄んでいた。
さて、お昼だ。ちなみに今日のメニューは、鶏ガラのような味がするスープ、レタスのような野菜を使ったサラダ、それから肉の煮物だ。どれも上品ながらもしっかりと味がついている。うん、美味しい。ちなみに材料については考えないようにしている。見た目、ちょっとグロいし。
「希さま、重要な話があるのですが」
アレンがかしこまっている。珍しい、あの日以来だな。
心の片隅でそう思いつつ、アレンの方に向き直り、つい、背筋を伸ばす。
「な、なに?」
舌を噛む。アレンの顔はそれほどまでに真剣だった。口に含んでいるスープを急いで飲み込み、もう一度椅子に座り直す。
アレンがいきなり立ち上がる。
「すいません! 私の力不足なのです!」
「へ?」
腰を折って、いきなりの謝罪。なにを
謝っているのか、欠片もわからない。
「どうしたの? まず、顔を上げてよ」
動揺しつつも、ひとまず声をかける。下から覗き込んだ顔は涙目で、初めてアレンを見た日のことを思い出す。美しい表情に、触れば壊れてしまいそうな宝石にふれたくなる。
けれど今はそんなときじゃない。直感だ。ヘタレだから普段でもそんなことはできないけど。
ただ、次の言葉はあまりに唐突だった。
「城を、出ていってください」
思わず立ち上がりそうになる。
なんで? そんな疑問が喉元まで上がってくる。
まだ、知らないことがある。
まだ、越えられない相手がいる。
まだ、伝えられていない想いが、ある。
でも、目の前のアレンを、1人の少女を見て口に出すのはやめた。代わりにこういう。
「そうだね。僕は、『来訪者』だから旅にでなきゃいけない。でしょ?」
「え? あの、もっと理由は聞かないのですか? いや、その――」
「いいよ、別に。そんな謝るくらいだからきっと事情があるんでしょ? 大丈夫だよ、きっと。これでもレオルに勝てるくらい、剣の実力はあるんだから」
いたずらっぽく笑い、最後の一口を食べ終える。
「ご馳走さま」
手を合わせて、作ってくれた人たちに感謝の言葉を述べる。
「いつ出発?」
「え? あ、明日の8刻頃です」
「うん、わかったよ」
そういい、量もない荷物をまとめだす。持ってきたものはほとんどない。こちらで貰ったものばかりだ。
「ああ、そうだ」
ふと、アレンとレオルの方を見る。
「ありがとう」
ヘタレな僕が出来る、精一杯の笑顔を向けた。今はまだ、これくらいしか言えないけれど、いつかきっと帰って来れたら……
荷物をおおよそまとめて気付く。
「で、聞きたいんだけど」
「なんですか? 旅費なら、後で渡しますが……」
「ああ、いや、それも大事だけど…… 荷物はどこにまとめるの?」
格好つけたままではやっぱり終われない僕だった。
――旅立ち、か。
行商人達の護衛、という形で隣の国、『獣農国』ローテル王国まで同行するらしい。……正直、同行してどうなるのかはわからないが。別に目的があるわけではないだろう。特に話は聞いていない。
特別な力も、知識も持っていない僕。漫画みたいに人は救えないし、「悪」がいるとは聞いていない。
戦争も起きていない、平和な世界だ。別に僕がすることもない。
ないない尽くしだ。
ベッドに入って、ふと考える。
こっちにきてはや1ヶ月。いろんなことがあったことを思い出す。
初めて聞く言葉。道具がチートすぎて驚いたっけ。
初めて握った剣。ずしりと重かった。
初めて奪った命。吐き気と罪悪感、少しの『生』を感じた。
……そして初めて見た、笑顔。今まで聞いたどんな言葉より力強く、どんな光より眩しかった。何度アレンが僕を救っただろう。
その笑顔を思い出した。条件反射のように赤くなった顔を、ブンブン左右に振る。随分と臭いセリフだ。感傷に浸っているのだろう。
もう、寝よう。布団をかぶりなおす。瞼を閉じ、考えることを辞めた。意識が遠のいていく――
「起きるですよ!」
体を揺すぶられて起きる。目の前にはアレン。目を擦りながらこたえる。
「ああ、おはよう」
相変わらず窓の無いこの部屋には無機質な光しかない。今日が最後か。
修学旅行の最終日のような気分だ。どこか寂しく、けれど高揚している。
「今、何刻?」
「7刻ですが?」
へえ。もう7刻…… え?
「あと1刻!?」
「何度ゆすっても起きないあんたが悪いのです。ほら、さっさと着替えるですよ!」
昨日の涙目が嘘のようにいつものアレンだ。内心、がっかりした自分に自己嫌悪を覚える。
「どうしたですか? 難しい顔して」
いきなり覗き込んでくる無邪気な顔。無自覚なら救いがない。
(近いよ!)
ふいと顔をそむける。多分、顔はトマトなんかよりずっと真っ赤だ。
「な、なにもないよ。それより着替えるから出てって!」
つい、声が大きくなる。それに不服そうに答えるアレン。
「むう。わかったですよ」
ドアが開き、アレンが外に出て行くのをチラと確認する。刹那、ベッドに倒れこみ足をばたつかせ、悶える。相変わらず顔は赤いだろう。やっぱり、無自覚なら反則だ。一発レッドカードで退場!
……意識しちゃってるなあ
ゴロンと転がり上を向く。そこにはやはり無機質な光があるだけで、他にはなにもない。
(むしろその無機質さが今はありがたいんだけどね……)
深呼吸をする。紅潮した顔はだんだんと引いて行き、心臓も落ち着きを取り戻す。
ふと、横をみた。立てかけてある鉄剣。残りの荷物は別に固めてある。
ベッドから降り、そのずしりとした剣を持ち上げる。飾り付けはない。無愛想ですらあるその姿は、どこにでもありそうだが僕にとっては唯一無二のものだ。
身を護る道具であり、またレオルとの思い出でもある。
剣を見ながらゆっくりと記憶に潜っていく――
To be continue……




