8話 新任教師と基本と基本
随分ぶっ飛んだようにみえるかもしれませんが、それは次の番外編で詳しい描写がありますので(今週土曜日あたりの更新となります。あともう少しお待ちください。割り込みで7.5話として投稿します)※土曜は体調崩しました。すみません。
では________
さて、久々の魔法の授業なんだけど……誰? いや、見覚えがあるような気がするんだけど。気のせいかな? ちなみに今はアレンもレオルもおらず、目の前の青年と2人きりだ。最初くらいあの2人もいればいいのに。そう思いつつ、席につく。
「私の名前はボマ・テヌ。新任の教師としてやってきた。以後、お見知り置きを」
目の前の青年はそう告げ、うやうやしく頭を下げた______
______目の前の少年-いや、希、と呼ぶべきか-は私の事がわからないようだ。まあ、私の術を持ってすれば当たり前といえば当たり前なのだが。そう思いつつもクス、と笑う。
彼は自分の変幻術の出来栄えを改めて確認した。……まあ、性格までなりきってきまうのは悪いところなのだが。
「さて、今日の授業だが……今までに何をした?」
極力、怖がらせないよう配慮する。少しぶっきらぼうにはなったが、いつもよりはマシだ。
「えーと、なんていうんですかね? 立体映像を浮かび上がらせる魔法ですね」
恐縮しているのか、随分畏まっている。今回も失敗か…… 声には出ないが、内心ではショックを受けていた。
「ほう、他には?」
「えっと、それだけです」
話に聞いていた通りだな。まあ、無属性は扱いづらいからしょうがない。
「では、少し見せてもらえるか? このあとの参考にしたい」
「あ、わかりました」
そう言って希は紙に魔法陣を書き出す。
(ふむ、書き方は悪くはない。書き順もおおよそあっているが、一番いいのはその丁寧さか)
魔法陣と聞くと極論、判子で書けばいいではないか、という無知がたまにいる。そうであれば魔具など現れはしなかっただろうし、魔導師や魔法士などの職業は極めて減っていただろう。
ただ、それは出来なかった。昌永ならしっかりはっきり唱えること、呪詛なら綺麗に書くこと、そして魔法陣であれば、いかに模倣しきれるか。筆順なんかも含めて、だ。この要素で威力や弾道、射程距離なんかが変わったりする。
希はその点しっかり模倣出来ていた。何回も練習したのだろう。ただ、
「遅い」
つい口に出る。そう、遅いのだ。このスピードならば実戦なら間違いなく死んでいる。今は実践では無いが、希に死んでもらいたくない。……いや、死んでもらっては困るのだ。
「すいません!」
希は勢い良く謝る。謝ることではないのだが、と心の中で思ったが口には出さない。ただ、それでも丁寧に描き続ける希はよかった。これは希の武器になる。
ようやく筆をおくようだ。
「では、展開させてくれるかい」
「わかりました」
希は魔法陣を描いたその筆でコツン、と魔法陣を叩く。
(ほう、これは……)
映し出されたのはアレンさま(・・)だった。やはり丁寧に書かれただけあって細部まで表現されており、動きも自然なものだった。独学なら、これだけやれれば十分だ。
「よし、十分だ。それでは、攻撃のできる魔法陣を教えよう」
そういい、ボマも筆をもつ。といっても、やることは変わらない。少し記号がかわるだけだ。
「これが攻撃用の基本形だ」
「基本形、とはどういうことですか?」
「うむ、それは……例えばこれは拳大サイズのエネルギー球を1つ打ち出す魔法陣だ」
似た魔法陣を横にもう1つ描く。だが、少し変える。
「こちらは2つ打ち込むものだ。気づくことはあるか?」
「えーと、2つ打つ方が少し複雑ですね」
「そうだ。威力やサイズ、数なんかを変えると、どんどん複雑になる。その基本形がこれだ」
もう一度最初の魔法陣を指差す。
「そういうことだったんですね……でも、同じ魔法陣でもときによって長く動いたり、雑になったりしますよ? 」
ああ、この少年はこちら(・・・)側の人間では無いのだった。常識で話していては、まだまだだなとは思う。説明を続ける。
「それは描いたもの=媒体による違いや、完成度=いかに模倣出来ているか、の違いだな。そこもしっかり教えてやるが、また今度だ」
「はい!」
これで終わりだと思ったのだろうか。希の声が弾む。そんな中、心苦しいが1つの通告をしなければならなかった。
「今日はあともう1つ覚えて帰れ」
「はい……」
本人は何もばれていないと思っているのだろうが顔に出過ぎだ。物凄く嫌そうな顔をしている。
しょうがないじゃないか、という訳でそんな希は無視して次の魔法陣を描く。
「次はなにを?」
「習うより慣れよ、だっけか? まあ見てろ」
そういいそれを描き上げ、筆をそこに置く。
「おい、展開させるものはなんかないか? 」
「あ、これでよければ」
おずおずと木の枝を渡してくる。松葉杖、だろうか。まあいい、とそれで展開させる。筆が不思議な光を帯び、そしてまた消えていった。
「今のは?」
「だから待て」
そういい、無造作に壁に筆を投げつける。壁に筆の先端があたり、突き刺さる(・・・・・)。
「え?」
希は随分驚いているようだ。ああ、あいつ(・・・)もこんなだったっけ。感傷に浸っている場合ではないが。
「今のが付与魔法、いくつかある特殊魔法だ」
そう、あのときはもっと若かったがな______
_____
「では、また」
ようやく授業が終わった…… 心の中で安堵の息をつく。そう、別に地球にいる頃から座学は好きではないのだ。正しくは嫌いだ。運動が好きな訳ではないが、座学よりは好きだった。
ベッドにゴロンと寝転がる。まあ異世界の座学はチート道具のせいで余計暇だし、運動はキツすぎる。実践に近いし、容赦は……あるんだろう。けど、初心者の希からすればないに等しいのだ。そんなことを考えていると人間眠たくなるものだ、いつのまにか穏やかな寝息をたてて希は寝てしまった。
〈ある一室〉
「誰が付与魔法を教えろといいましたか! 私はあんたの変幻術をかったのですよ!? 他のものは後回しでいいのです!」
ボマにアレンが怒鳴り散らす。横からレオルがそんな彼女を抑える。
「はあ? 契約通りだろう? あんたは俺に生き抜くのに必要な魔法を教えろといったはずだ。自分の身を守る魔法から教えて何が悪い。あと、覗き見なんて趣味の悪さが垣間見えるぞ」
ボマ、いやデュマ・ナホと呼ぶべきか。相変わらず鼻につく喋り方をする男だ。傍観者であるレオルはそう思う。授業中と態度が違うのは変幻術をといたからだろう。変幻中とそうでないときは、すでに別人だろう。
「まずは変幻術からです! あんたの変幻術を彼には身につけて貰わなければ困るのです! 属性擬態術を!」
アレンは今にも飛びかかりそうな勢いで食ってかかる。客人用のコップは揺れ、窓際に飾られているも、今にも落ちそうだ。
-属性擬態術-それは精霊や神に刃向かうとされる禁忌の1つだ。火を水にも、雷にも見せられる。また、無を有にも。故に一部からは禁忌を破ってでも覚えたい、というものも絶えないのだ。
「ほう、なんでだ? あいつが途中で迫害を受けようが、あんたは国さえよければいいんだろ? なら、死ぬのを避けるために付与から覚える方がいいだろう?」
「っ! それは!」
アレンが言葉に詰まる。それに畳み掛けるようにボマが言葉を続ける。
「それともあんたが他のニンゲンを保護するのかい? まだ会って間もないニンゲンをよ。ええ? ストメリアの『氷姫』はどこに行った!?」
ボマも少し興奮気味のようだ。何かを振り切るように大声を出している。
「うるさい! あんたは雇われなのですから大人しく言うことを聞くですよ!」
「ほう、その入れ込みよう、まさか『恋』でもしたのか?」
おちょくったようにかけられた言葉にアレンは返す言葉を探す。だが、そんな思惑は通らず、顔を赤らめ、口をパクパクさせることしか出来ず声がでない。
「ふん、図星か」
ボマのつまらない、そんな思いが滲み出ているように感じる。さっきまでと違い、随分な変わりようだ。
「ま、あんたがかわろうが、俺は変わらん。俺は他の奴らは信じない。誰がどういおうとな」
最後の方は自分に語りかけてように聞こえたがが、すぐ踵を返しドアから出て行く。
取り残されたアレンは、ただただ泣くことしかできなかった。
To be continue…




