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第八話

書いてたら冗長化したので大胆に分断。

ちょっと短めです。

本を閉じると、目の痛みはスッと嘘のように消え失せる。



…しかし、コピーか。この僕が。しかももう人間じゃなかった、か。 仁はため息をつく。

だから姿形が金髪蒼眼の下の顔を整形したようなものになっていたのか。

自身がコピーである、人ではないと理解して、解放されたような、悲しいような気分になる。


まあ、もう現世に帰れないとは思って諦めもついていた。

それに、ファンタジーの世界に行きたい、と思ったことがあるのも事実だ。

それに人ならざる能力が欲しいと思ったのも事実。


正直現実との別れより、こちらの世界に対する興味の方が上回っていた。


だけど先ずは、何とかしなければならない事がある。本の、未来の内容についてだ。

一巻のリサについての記述は、これから三日後の話だった。


(エフェリア)に出かけて路地裏でガラの悪い連中に絡まれ、「この本の主人公」紅坂(こうさか) (たかし)はそれに食ってかかる、が、食ってかかった相手がメイスで主人公の頭を殴打、意識が飛ぶ。

おぼろげな意識のまま戦う描写が有り、気がつけば血まみれの相手たちと必死で止めるリサの姿。暗転、その後再び気がつけばリサの家で、何故そうなったかを説明すべくリサ自らが記憶を流し込む。

そして主人公は自身がコピーの魂であり、体は人造人間(ホムンクルス)であると理解する。


そこまで読んで、目の痛みに耐え兼ねて本を閉じたのだ。


試しに文章の始まる最初のページを開いてみる。

痛みどころかかゆみすら感じられない。


…最後のページを開く。

読んですらいないのに、開けた途端に激痛で本を取り落とす。


「っが…っつーう…。」


口から漏れでた呻きは言葉になっていなかった。

多分、かゆみが痛みに変わったのが未来の記述に差し掛かってからだったので、つまりは未来を覗く(・・)と痛みが走り、時系列が先であればあるほどその痛みは酷さを増すのだろう。


…今、一巻ですら最後のページは少し開いて文字が見えた段階で激痛が走ったのだ。

そこから先、例えば六巻を開けば、失明どころでは済まないだろう。

直ちに鞄に一巻以外をしまう。リサが興味本位で覗けば大変な事になる。

机の上に置いていた物にかなりの興味を示していたし。




さて、一巻によれば、このままいけば三日後、エフェリアで暴漢に絡まれて痛い思いをしなければならない。

そもそも暴漢に絡まれてもリサに任せれば即座に解決したのだが、まあ主人公はこの段階でリサの実力を知り得なかったし、女性の前で敵前逃亡などしたくは無いだろう。


先ずは買い物に行かぬこと、路地裏に行かぬこと、暴漢に絡まれても逃げること。

若しくは、と仁は右手の甲を見る。そこには尾を咥える蛇、ウロボロスがモチーフと思われる赤い模様が描かれている。


それは純白の人造人間(ホムンクルス)、「ホワイトゴーレム」の能力使用制限が解かれた、という証拠である。

「ホワイトゴーレム」、小説の名前でもあるそれはリサとアルケームのマスターが作った最高傑作(ホムンクルス)の事だ。


使用制限の解除条件は至って簡単、命の危機に晒されるか、自身がどういった存在か理解する事だ。


仁の場合半ば反則で後者である理解をした訳だが。

取り敢えずどうしようかな、と右手の甲を見つめる。

解放されたことを知らせるべきか、否か。


知らせるのはちょっとまずいかな、などと考えているとマークが薄らいで消える。

えっと思って見つめると、再び現れる。どうやら任意で消せるらしい。


さてどうしたものか。この体、凄いことは解放されてからずっと感じる体の軽さから分かるが、いかんせんどんな能力が実装されているかまでは読み進められなかったのだ。

リサに聞くのが一番手っ取り早いが、なぜ知り得たのかと問われるだろう。


…適当に嘘でも吐こうか。確か魔法の使える貴族だとか思われてた筈だ。

昼寝してたら予知夢見ました、それしか魔術使えないですとか言ってみようか。

本で読んだ内容を話せばそれで解放されたと信じてくれるだろう。


――

―――

――――


「そう…全部分っちゃったんだ。」


リサは俯いている。後ろめたさとかそういった物を感じているのだろう。

今の状況を端的に言うと拉致である。そりゃ感じもするだろう。

…気は重いが取り敢えず、押せるところまで押してみよう、と決意する。

リサからこの体について聞かないことには現状が把握できない。


「ねえジン…全部知ってるなら、何でジンにこんな事したかも知ってるでしょう?」

「対等な友人が欲しかったから、だろ?」

「うん。その通り」

「でもこれ拉致ですよね?」

「…こうでもしないと、私と同じぐらいの力を持ってる友人はできないと思ったから、だからジンの住む街に転写を仕掛けたの、だから」

「でも倫理的に魂の転写とかアウトですよね?」

「…ごめんなさい」

「ごめんって事は何を許して欲しい?」

「…ジンを、勝手に転写して、ホワイトゴーレムと結合させた事」

「謝罪だけで許すと思いますか?」


じっ、と真顔でリサの目を見つめる。


「何でもするから、だから」

「だから?」


泣きそうな顔でリサは言う。


「お友達でいて下さい。許して、下さい」


絵柄的にはもう完璧コッチが悪役である。年下(に見える)女性を泣かしている男性の図であるからして。だんだん気の毒になってくる。


「何でもするって言いましたよね?」

「うん、するから、だから」

「OK言質取った」


今の僕は多分凄い嫌な奴だろう。

でも必要な事なのだ。主人公補正(頭殴られても死なない)等効くかも分からない危ない橋など渡れないのだから。これはお話の世界じゃない。僕にとってこれは現実だ。

こんな面白そうな世界で、すぐにデッドエンドなどまっぴらだ。

コピーだから、現世へ帰る必要すらない。ずっと憧れていたのだ。ファンタジーの世界。


「3つほど約束してもらいましょう。それで許してあげよう」

「3つ…?」

「1つ。可能な限りリサは僕に協力すること。2つ。僕が何かを聞けば、包み隠さず答える。3つ。僕に嘘は無し。以上」

「分かった。魔女として、誓約する。」



…あれ?なんか重い言葉が聞こえたぞ?

リサは羊皮紙を取り出し、表面を軽く撫でるとこちらに渡してくる。

そこには3つの箇条書きと、多分リサの名前が書かれていて、見るだけで圧倒されるようなオーラの様なものを纏っている。


「それは誓約書。私はそれを絶対に破れない。」


…口約束でよかったのに、なにかヤバい物を書かせてしまった。

と、とりあえず質問をしてからこの紙を返そう。

仲直りとばかりに握手をしてから仁は質問をする。


「あーうん、OKOK。えーとじゃあ、この体のスペックについて聞きたいんだけど」

「セイリオス鋼性骨格、擬似龍脈式魔力炉、賢者の石製の心臓(コア)、高々活性細胞…」

「よく分かんないのでOK、それで何ができるの?」

「私に使える魔術全部と、すごく早く走ったり高く跳躍したりできるよ。あと魔力はほぼ尽きない位の回復速度があるし、怪我してもすぐ治るよ」


…魔術全部って、リサって確か住んでた王国に存在するほぼ全ての魔術覚えてなかったっけ?それって実質、割と何でもできるという事だ。

あと尽きない魔力と怪我がすぐ治るってどんな体なんだこれ。持て余しそうだ…。


「よく分かった。じゃあこの紙返すから」

「ジン、返すって?」

「この約束は今の質問で御終いでいいから、って事。ああ約束破る(さようならする)つもりはないから」


リサはきょとんとして、こう言い返す。


「ジン、私は未来永劫、ジンに嘘は付けないし、できる限り協力するし、包み隠さず答えるんだよ?」

「…つまり?」

「もうその紙がなくてもその3つは破れないって事。」


…サラっとヤバイ事させてしまった。未来永劫、つまり死ぬまでって事である。

この内容ならきっと大丈夫だろう、きっとそうだ、と自分に言い聞かせる。


「あーえーっと取り敢えずこの紙保管しておいて、じゃっ」


即座にその場を後にする。…逃げたとも言える。



部屋に戻って、ベットにうつ伏せになり、「あー」と言いながらジタバタする。

もっと言い方あっただろうに。絶対的な約束させるとか何をしているんだ僕は。


…ひとしきりそうした後、起き上がる。

魔術が使える、とリサは言っていた。取り敢えず使ってみよう、そうしようと思って下に降り、玄関から外に出ようとするとリサとバッタリ出会う。


「ジン、どうしたの?」

「いや、魔術が使えるって言ってたから外で使ってみようかなーなんて」


ほら、僕予知夢しか使えなかったから、と補足を入れる。嘘だが。


「じゃあ私がお手本見せるよ!」


とリサは言うと、仁の手を掴もうとして止まる。


「…リサ?」


リサはおずおずとこちらの顔を伺い、こう訊いてくる。


「手を、握ってもいいですか?」


仁の身長は168cm、リサは155cm程である。

つまり上目遣いでこんなことを訊かれた訳だ。


…中々ぐらっと来る。が、なんとか表面には出さず手を差し伸べて返事とする。

外へ出ればやや日が傾き、周囲は赤く染まっている。

リサと仁も、顔がほんの少し赤く染まっていた。

それはきっと斜陽のせいであろう。


おめでとう! 仁は 人造人間の体を てにいれた!

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