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第七話

拭えない接着感。

ゆっくり読んでいってね!

ホワイトゴーレムの一巻を仁は閉じる。


仁は理解してしまった。


…この世界は本の中の世界、さらに言えばその掌中に在る本の中の世界であると。


最初、正直表紙絵は偶然似ただけだろうと思って本を開いた。

最初のカバーの折り込んである部分には「小鳥遊 梁」という名前と、短めのコメントが書かれている。

その次のページが最初の問題だった。


登場人物、と大きめのフォントで右端にそう書かれている見開きには、

主人公:紅坂 隆(・・ ・)

湖の魔女:リサ・ライラ・アルトマン

エフェリア王妃:サラ・エーフ = 錬金術師:ラサ・フレア

薬師:サシャ・エクトン


…他にも数名の人物の名前が書かれていたが、仁はもう何が起こっているのか理解した。

この主人公の代わりに、自分がここに立っていると。


「中学生のもし主人公になったらーとかそういう妄想かよ…」


理解できる故に、理解したくなど無かった。

だから仁は、本を読んだ。『ホワイトゴーレム』を。

信じたくなんてなかった。こんな馬鹿げた事など。


しかし、本は期待を裏切る。

本の内容はこんな感じだった。


『…主人公の紅坂はいつも通りの日常を送り、家に帰って夕飯を食べベットに寝転んだらそこは異世界であった。どこまでも広がる草原と所々生える木、満天の星空と大きな月。

驚いて見渡せば白い人形が後方に立っているではないか。白い人形が近づいてきて視界はブラックアウト。次に目を覚ませば扉が半開きで目の前にあった。通り抜けた先は山脈に囲まれた針葉樹の森と湖、そして二階建ての家だった…』


後は今日、仁が過ごしてきた通りの事が書かれていた。

会話の内容こそ違えど、行動に関してはほぼ同じ内容であった。


そして『今日』についての記述は終わり、未来に物語は差し掛かる。


差し掛かった途端に目にかゆみの様な物が走る。

それを無視して先を読み進めていく。


…更に先には、リサのこれまでについて書かれていた。


上流貴族の娘に生まれ、魔法の才と膨大な魔力、頭脳に恵まれ、師に恵まれる。

が、好奇心で手を出した精神加速・拡張・多元化の三つを同時に行使する、という上級の魔道士でも危険すぎる行為を実行してしまう。

結果暴走し、当時八歳であったが、その後二年の間極めて特殊な状況に陥る。


年齢に見合わぬ『拡張』による異常なまでの冷静さ。

『多元化』は『拡張』との相乗で通常2人の所、10人分の多重思考を可能とする。

そして『加速』による常時の20倍の思考速度を、その10人が持つ。


これが、起きている時も寝ている時も、二年の間ずっと、ずっと(・・・)、続いていた。

無論解こうとするも、自らにも、師にも暴走は解けなかった。


師には怒られた。両親は子を哀れに思った。

そして、一日目にしてリサは退屈に耐えられなくなる。


『拡張』はまだしも、『多元化』と『加速』が重複した事が致命的だった。

三人寄れば文殊の知恵、と言うが、リサは10人が寄っていた。

そしてそれら全てが、20倍の思考速度、という化け物じみた速さでの思考をする。


20倍と言えば1秒は、1分は、1時間は、そして1日は、1年は。

それを、10人が寄っていた。


幸いにも、副作用はなかった。が、効果そのものがこの場合害である。

当時のリサにとっての眠りは、唯一の安らぎでもあった。

そして起きている時間が次第に苦痛になる。


元魔術学園の教師でもあった師は自分にも責が在ると感じ、必死に解く方法を模索した。本を読みあさり、出来る限りを試すも、すべてが失敗に終わる。


リサは二日目にして一年を思考にて体感していた。思考速度に体感速度の追いつかない手に入る情報の少なすぎる現実は、全てが灰色に見え始めていた。


…そんな時、現状の原因でもある『精神魔法とその応用』という本をたまたま手に取る。

理解もそこそこに読み進め、呪文を唱えたその本は、灰色の世界のリサを救った。


理解できる。一目見ただけで、このページの全てが分かる。

「情報」に飢えていたリサは夢中で、1分もかからずにその分厚い本を理解する(・・・・)


しかし、直後リサは目の痛みに襲われる。思考の速度に肉体が追いつかないのだ。


本を読めば退屈とは無縁。しかして肉体は追いつかぬ。ならば強化すればよいではないか。

そう考えたリサは家の書庫へと駆ける。肉体強化について書かれた本を発見、読む。


内容は難解であった。熟練の魔術師であろうとも、理解に一年、習得に二年かかる内容だ。

しかし、リサは充実していた。夢中になれそうな物を得たのだから。

リサはそれを4日後に、完全に自らの物とした。体感時間にして二年後である。


それからの日常は、本を読み、実践し、自らの物とするという事を延々と続けていた。

不明な事は全て師に聞き、実践を師から習い、驚異的な速さで習得する。

師は驚きを隠せなかったが、贖罪の意識もあって全力でリサに魔術を教える。

充実した日々であった。これまでの生活よりも、充実した日々であった。


そこから2ヶ月。魔術師の、上流貴族の両親が集めた魔術書を、全て習得する(・・・・・・)


リサは絶望する。思考の暴走が解けぬまま、家の魔術書を習得し終わってしまった事に。

師はリサの表情からそれを察し、ある提案をする。学園の書庫を開放しよう、と。


リサの祖国最大の学園。その魔術書の蔵書数はリサの家に有った本の数など少なすぎると思える程である。

その学園の元教師、と言ってもかなり高名な師が学園とかけ合い、開放を勝ち取る。

それからリサは毎日学園の書庫に通いつめた。


火を出したり水を出したりといった分かりやすいものから、浮遊魔法、感覚を多元化…感覚を光球として周囲に配置する魔法、体感時間の加減速、等。ありとあらゆる魔術を習得していく。


こんな状況になってから二年後、リサの精神魔法の暴走が終わりを告げるまで、学園の書庫にはいつも少女が佇んでいる光景が在った。


視覚を光球化、浮遊魔法で本を扱っていた最盛期には、こんな光景が見られた。


…天井まである書架から本が1冊ずつ引っこ抜けては本が戻ってきて下に収まる。

引っこ抜けた本は奥の方へと浮遊しながら進んでゆく。


それを追いかけると奥にはテーブル一杯に本を積み上げ、周囲にまるで本を読んでいるかのような光球を浮かべながら、自らも本を、まるでパラパラと捲っているだけのような少女が一人椅子に座っている。


薄暗い書庫の中、それは幻想的な光景だったという。


そんな日々の終わりは突然だった。


今日も書庫に行かなくては、と覚えた箒での移動をしている最中。体感時間を最大限まで減速し、加速した思考と帳尻を合わせ、普通の人間と同じように生活できる術を身につけていて、それを今も実行していた。


が、普通に飛んでいただけなのに急速に壁が迫り激突、落下する。

そこまで速い速度ではなかったし、体感時間減速の解除と肉体の強化も間に合い、激突もほとんどダメージは無く、着地も成功する。


そして異変に気がつく。体感時間を減速しなくても「普通」だ、と。


始まりから二年。リサの異変は唐突に終わった。



…仁はそこまででの内容でも結構精神的にやられていたし、身体的な…目のかゆみは今や痛みに変わりつつあった。


が、そこから先の内容が仁を更に追い詰める。


リサはその後、その学園へ通うこととなる。が、周囲とは魔術師としてのレベルの決定的差、そして精神の年齢の差によっても、打ち解けることはできなかった。


異変は二年。リサにとって…400年。

余りにも圧倒的な思考速度は、10歳の少女の、青春だとかそういった類の物を経験させる事なく、精神の段階を上げてしまった。上げすぎてしまった。


更に卒業までの四年。普通の速さの四年。打ち解けて話せる人物は両親と、師だけだった。


その後学園主席(トップ)、かつ数多の魔術を実用レベルで習得している彼女は王宮魔術師としてその後100年を過ごす。


…魔術は元は神に近づく事が目的であり、その一環として寿命を伸ばす魔術も創成期の頃から研究が進んでおり、ひどく難解かつ難度の高い物ではあるがリサはそれを成功させ、寿命では死ななくなっていた。但し死せる時、多大な苦痛を強いられることになるが。


そして、その姿は15歳程の外見で完全に止まってしまっていた。


両親はその間に他界した。技量がなかった訳ではなく、人として(・・・・)寿命で死んだ。

師は未だ健在だった。師もまた長命化を果たし、リサが学園入りした頃に王宮魔術師となっていた。そして当時のリサにとって「数少ない」友人と呼べる人物でもあった。


リサは114歳という「異例の」若さにして住んでいた王国に存在するありとあらゆる魔術を、「ほぼ全て」自分のものとしていた。

その快挙には異変中の二年で覚えた「記憶容量の多層化」という魔術も貢献していたが。




そして、第一次魔術大戦が勃発する。

リサは争いを嫌い、戦場へ出ることを拒んだ。


しかし国にとって、国民にとって、軍にとってリサは「戦略級」の魔術師である。

無理やりにでも戦場へ向かわせようと、初めは篭絡、次いで傀儡化、最後に暗殺して死霊術にて戦場へ出そうとした。


リサは逃げた。誰も来ない場所へ。

円状に高く連なる山脈が囲み、様々な幻獣が住まう、森と湖のある場所へ。


リサは辿り着き、自らを湖に沈め、石となって400の年月を過ごす。


400年後。大戦は終わっていた。そして錬金術という、新しい形態の魔術が生まれていた。


リサは錬金術に没頭する。賢者の石、人造人間(ホムンクルス)、万能溶解液。


しかし、リサは満たされなかった。人との付き合いというものが、余りに欠けていたから。

何故か。リサの国は、戦列に参加しなかったリサを史上最悪の魔女、と称した。

そしてリサを「史上最悪の魔女」として覚えている人間が、余りにも多かったのである。

そしてその首は半ば法と化した「狩れ」という命が、国から下っていた。



リサは名を変え、フードを深く被って顔を隠し、錬金術師たちと技術を交換する。

されどリサはもう我慢が出来なかった。顔を隠す必要のない対等な友人が欲しかった。


リサは密かに、師に会いにゆく。が、師もまた国を追われていた。リサと同様の訳で。


師は、エフェリアにて店を開いていた。店名は「アルケーム」。錬金術師の集会所。

ただ、リサにとって友人ではあっても師は師であった。

リサは師にある提案をする。師は提案を受諾する。


そして師と共に、リサの友人として(師には隠していたが)それは20の年月をかけ制作された。


最高を求めた、純白の人造人間(ホムンクルス)である。

しかし、その人造人間(ホムンクルス)だけには、どうしても、魂が宿らなかった。

最高の人造人間(ホムンクルス)は、ただの白い人形でしかなかった。


宿らないならば、植え付けねばならない。

リサは、魂の転写を用いて植え付けることを考案する。

コピーならば、命を奪うこともない。


無論師には言わなかったし、言えなかった。


そしてリサは、リサを(・ ・ ・)知りえない(・ ・ ・ ・ ・)、なるべく遠くの人間を魂の原版としようとする。

偶然は必然、そして宿命。リサの思いかなって、あろうことか現代へ道は開く。


…そこまでが限界だった。目は激痛を訴え、涙は絶えず溢れている。

仁はこれまでの事を全て理解し、本を閉じる。



つまり。多分。いや絶対。本の流れからこれは(・ ・ ・)確定事項だ。


「気がついた時には白い人形に植えつけられてた、って事か…」



ここに居る仁は、コピーだった。


うん。タイトルは出せたんだけど、超説明回になってる。


うまいこと纏められる文才欲しいです、ホント。


作中の「小説」に関しては、クトゥルフのアルアジフ的な読んだら結構体(主に目)がやばい感じです。


次のお話でそこらへんについて書くつもりです。

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