プロローグ
短めの始まりです。
草木も眠る、とは言うものの明かりの絶える事のない、都会の午前二時。
その都会の、とある公園の雑木林を突っ切る幾つもの踊り場と階段が交互になる形の、長い階段にて、この物語は始まろうとしていた。
階段には外灯が点在し、うすぼんやりと道筋を照らしている。
階段を取り囲む雑木林は既にその葉を紅く染めている。
風に吹かれた落ちた木の葉がカサカサと鳴る音と、遠くで車がアスファルトを打ち鳴らすゴー、という音のみが聞こえてくる。
別に変わったことはない、ただの夜更けの林だった――
――はずだった。不意に空間を切り裂く様な、妙な音が鳴り響く。
そして階段の中程の踊り場に開くのは、人一人通ることが出来そうな高さと幅を持った穴。
穴の縁は橙色に光っており、明らかに常識を超えた現象だと分かるだろう。
その中から一人の…砥茶色のローブを羽織った背の低い、15歳程に見える金髪の少女が歩み出てくる。穴の向こう側は暗い、黒に近い紫が空間を支配しているのが伺える。
少女は穴から出てくると周囲を見渡し、ローブの内ポケットからその手の指の長さ程の白墨と、小さな硝子製の小瓶に入った赤く光る液体を取り出す。
小瓶を少し離れた地面に置き、チョークを手に踊り場に何やら書き込んでいく。
初めに大きな二重円、次いでその内側に六芒星を描き出す。
そして二重円に挟まれる細い部分にブラックレターの様な形をした、しかしこの世の文字ではないそれを書き込んで行く。
それを円状に一周書き終わるとそれをじっと見つめ、うん、とばかりに頷いて先程の小瓶を手に取ると、その中身の赤い液体を六芒星の中央に注ぐ。
妖しく光る赤い液体は、生きているかの様にじわりと広がって、チョークで描かれた線に吸い込まれてゆく。白墨で描かれた線は液体に取って代わられ、最終的に赤く輝く魔法陣のような物が出来上がる。
それを再びじっと見て、出てきた空間に空いた穴へと再び入ると、その穴はカメラの絞りの様に収縮する。その穴が閉じきる前に、ふと少女が言葉をその口から漏らす。
「できるといいな」と。
言い終わるのが早いか、穴は僅かな燐光の点となり、瞬きの間に消え失せる。
後に残された魔法陣はその光を徐々に失い、やがてそこには何も残ってはいなかった。
落ち葉がカサカサと鳴る音が再びその場を支配し、夜は更けていった。
上手い文章が書けるようになりたい…。