表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

エリュシオン ~ある生徒の学園生活の場合~

作者: Waka

このお話しは、クラウドゲート株式会社「エリュシオン」の二次創作となります。

●久遠ヶ原学園高等部2年教室

 「鈴音、あんた朝からなにをそわそわしてるのよ」

クラスメイトに話しかけられ、六道鈴音(リクドウ リンネ) (ja4192)は顔をあげた。

「今日ね、いよいよあいつが来るのよね」

「あぁ、このあいだ言っていた、例の幼馴染くんか」

こくり、と頷くと

「よし・・・やっぱりじっとしてられない!」

ガタッと勢いよく席をたち、教室の出口へ向かって走り出す鈴音。

「ちょっと鈴音、どこに行くのよ。もうすぐ次の授業に行かないと」

「ごめん、5限の体育は、体調不良により欠席って先生に言っておいて!」

そう言うと、クラスメイトの返事を待たずに鈴音は教室から走り去っていった。

廊下を走ると危ないよ・・・。

「あ~ぁ、次は棄棄先生の体育なのにね」

「あのコ、先週編入してきたばかりで、棄棄先生のことまだ知らないからね」

久遠ヶ原学園の体育教師、棄棄の授業をサボることがどれだけ恐ろしいことか、クラスメイト達は鈴音におとずれるであろう近い未来を想像して、戦慄するのであった。


●久遠ヶ原学園

久遠ヶ原学園は、茨城県の東に造成された人工島にある撃退士養成機関である。突如人類の敵として世界に現れた天使と悪魔、それらに対抗することができる唯一の存在、人類の希望、それが撃退士だ。天使、悪魔に対抗しうる力『アウル』。そのアウル能力が発現した鈴音は、先週、ここ久遠ヶ原学園に編入してきた。撃退士として、天使や悪魔と戦うために。その力をより強くするために。

「たしか、バスで学園に到着するって話だったわよね」

今日付けで久遠ヶ原学園に編入してくる生徒達を乗せたバスが、もうすぐ到着する時刻だった。

「英斗のやつ、一週間ぶりだけど元気かな。乗り物酔いしてなきゃいいけど・・・」

鈴音はバスの発着所へ駆けながら、ひさしぶりに会う、乗り物に弱い幼馴染のことを考えていた。


●バス

「もうすぐ久遠ヶ原学園に到着ですね。ほら、海がみえてきました。」

隣席に座った女の子のセリフを聞きながら、若杉英斗(ワカスギ ヒデト) (ja4230)はひどいバス酔いに耐えていた。バスに乗っているのは、日本全国から集まってきた久遠ヶ原学園に編入する生徒たち。英斗たちは東京駅で学園が手配したバスに乗り、久遠ヶ原学園に向かっている途中だった。

「日本語が上手なんだね」

海をみてテンションがあがる隣席の女の子に、声をかけた。褐色の肌に銀色の髪。あきらかに日本人ではない少女があまりにも流暢な日本語を話すので、つい。

「私、けっこう日本での生活が長いんですよ。アウル能力に目覚めてからすぐ、日本に来たので」

撃退士の養成は、世界でも日本が最先端である。そのため、海外からもアウル能力を持つ者たちが大勢日本にやってきていた。

バスに乗ってしばらくは、初対面であったため沈黙し続ける二人であったが、学園に近づくころには会話するぐらいまでには打ち解けていた。このバスに乗っている者は、これからは同じ学園で生活する仲間であり、天使や悪魔たちとの戦場にでれば、戦友になる。

「おれは、アウル能力が発現したのはついこのあいだだったな」

「わたしは中等部3年に編入です。久遠ヶ原での学園生活が、すごく楽しみなんです」

(年下だったか・・・)

「おれは高等部2年だ。これからよろしくな」

久遠ヶ原学園は初等部、中等部、高等部、大学部からなるマンモス校。在校生のほとんどが学園の寮生活であり、数千人の生徒、学生が敷地内で暮らしている。

「なかなか会う機会はないかもだけれどね」

そんな会話をしているところに、突然の轟音がバスを襲った


●天魔、来襲

「!!」

「いまの音は・・・」

遠くで物凄い音が聞こえた。

なんだかすごくいやな予感がする・・・

音のきこえた方へ走る鈴音。

敷地内を走り抜け、学園の校門を出る。

視界に向こうに、土煙があがっているのがみえた。

紫色のシャツに紺色のジャケット姿。ただでさえ太めの眉を、さらにきりりっと力強くつりあげ、鈴音の全身はうっすらと光のオーラに包まれた。アウル能力を発動、光纏状態となったのだ。

撃退士の身体能力は、常人を大きく凌駕する。それは、オリンピック選手にも引けを取らない。

全速力で土煙があがっている場所へと駆けた鈴音は、そこでバスが横転しているのをみた。

「そんな・・・英斗は!?」

目をこらすと、バスのちかくに人影がふたつ。

ひとつは、背中に大きな羽も持つ、身長2メートル程の影。

そしてもうひとつの影は、英斗だった。

「バカッ!魔具もなしに天魔の相手をする気なの!?」

鈴音が叫んだ瞬間、英斗は天魔によって吹き飛ばされていた。


●VS 天魔

「いっつー・・・。いったい何事だよ・・・」

頭から流れ落ちてくる血を片手で抑えながら、横倒しになったバスの中で立ち上がる英斗。

隣りの女の子は・・・気絶はしているが、外傷はなさそうだ。

他の人達は、無事だろうか?

周囲を見渡す英斗の視界に入ってきたのは、巨大な翼を持ち、蝙蝠のような頭をもった人型の化け物だった。

「!!」

なんだコイツは・・・。

いや、わかっている。

これが天魔だ。人類の敵対者、天使や悪魔によって作られた怪物。

「このっ!化け物め!」

足元に転がるバスの補助席を持ちあげ、天魔に投げつける英斗。

しかし、補助席は天魔に当たることなく、天魔の身体をすり抜けていった。

「ちっ・・・コレが透過能力ってやつかよ」

物質を透過する能力を持つ天魔には、普通の攻撃は通用しない。天魔を倒すためには、アウル能力を持った撃退士用の武器、V兵器が必要だった。今日、これから久遠ヶ原学園に編入予定だった英斗が、そんな武器を持っているはずもない。

自分の背後で、自分と同じように学園に編入するためにバスに乗り込み、天魔の襲撃によって気を失っている人達に視線を送る。

「ここで俺が逃げられるわけ・・・ないよな」

天魔を睨みつける、が、奴を倒す手立てはない。どうする?

迷っている間に、天魔から繰り出される攻撃。

天魔の右腕が英斗を襲う。数メートル吹き飛ばされ、バスに叩きつけられる英斗。とっさにガードした左腕の感覚がない。

それでも、力を振り絞り、立ち上がる。

立ち上がった英斗は、黒髪短髪。黒いつるにふちなしフレームの眼鏡。レンズの奥にある目の光は、強いままだった。左目の下にはホクロが4つ。白いシャツに、Gジャンにジーンズ姿。だが、その服はすでに血まみれだ。

「英斗!!」

そこへ、鈴音が駆けつけた。だが、英斗と天魔まではまだ若干の距離がある。

(これが・・・天魔。人類の敵!!)

鈴音も本物の天魔をみるのははじめてだった。むろん、天魔との実戦経験はない。

(でも、私がやるしかない。ココにいる撃退士は、私だけだ!!)

鈴音は自身のV兵器であるスクロールを具現化する。スクロールには異国の言語で魔法の呪文が綴られていた。魔法属性攻撃を得意とする撃退士が好んで使うV兵器だ。

「消し飛べ化け物!エナジーアロー!!」

鈴音の右腕から放たれた薄紫色の光の矢が、天魔の胸に深々と突き刺さる。英斗に気を取られていた天魔は、鈴音からの攻撃を直撃で喰らうはめになった。

「ギョエエエェェェェー!!」

奇怪な声をあげたあと、天魔はその場に倒れ、やがて塵となって消滅していく。

崩れ落ちる英斗を正面から抱きかかえ、支える鈴音。

「やった・・・。やったよ。」

「一昨日ならったばかりのスキル・・・。ぶっつけ本番でできちゃったよ」

いまさらながら、はじめて天魔と遭遇した恐怖で身体が震えはじめた鈴音の呟きを、薄れる意識の中で英斗はきいた気がした。


●戦場を見つめる二人

「先生の出番は、どうやらなかったみたいだな」

「生徒会の連中も到着したみたいだし、俺達は撤収しようとしますか。なぁ、冴ちゃん」

横転したバスの横で、いままさに天魔を撃破した鈴音をみて、久遠ヶ原学園の教師、棄棄(ステキ)(jz0064)は、一緒に駆け付けた同じく教師、遠野冴草(トオノ サエグサ)(jz0030)の方を振り返った。

バスの周囲には久遠ヶ原学園生徒会のメンバーが駆けつけ、救護活動をはじめたところだ。彼らに任せておけば、まずは安心だろう。

(それにしても・・・)

棄棄は、見逃さなかった。あの眼鏡男子、天魔の攻撃を受ける瞬間にアウル能力を発動させていた。光纏した左腕で天魔の攻撃をガードしたのだ。でなければ、いまごろ身体はバラバラになっていたことだろう。とっさの反応か、無意識でやったことか・・・。

(今年はおもしろそうな新入生がたくさんいて、先生楽しみだな)

「さてと、授業をサボった悪い子のおしおきを、考えておかなきゃあな」

ふふっと笑みを浮かべ、その場を去る体育教師二名であった。


●病室

目が覚めると、そこは病室のようだった。身体を起こそうとすると、左腕に激痛が走る。そこで、ついさっき、自分の身に起こった出来事を英斗は思い出した。

「気が付いた?」

自分が寝かされたベッドの横で、幼馴染の女の子が椅子に座っていた。自分より一週間ほど早く久遠ヶ原学園に編入していった、鈴音だ。

「他のみんなは・・・。バスに乗っていた人達は無事か?」

「あんた、少しは自分の心配をしなさいよ。」

そう言って、鈴音は英斗の左腕を軽くさわった、が、英斗は思っていたより痛がった。声も出ないらしい。

「ごめん!いや、えっと、その・・・。バスの人達は、全員軽傷で済んだそうよ。天魔に襲われて死者が出なかったのは、不幸中の幸いね」

「そうか、全員無事か」

鈴音の言葉をきいて、ほっとした。

「うっすらと、おぼえてる。鈴音が助けてくれたんだな。ありがとう」

(あんたからあらためてそんな風に言われると、照れるじゃないのよ…)

鈴音は話題を変えることにした。

「英斗、あんた撃退士適性試験、合格ラインぎりぎりだったんだって?」

「え・・・まぁ、そうだけど、なんだいきなり」

「あんた、ディバインナイトになりなさい!」

「えっ!?ディバ・・・なんだって?」

聞き慣れない単語を発する鈴音に、おもわず訊き返す英斗。

「ディバインナイトよ。撃退士のジョブの、ディバインナイト!」

そういえば、きいたことがあった。学園に来る前に受講した撃退士についての講習で、たしかジョブの説明を受けた気がする。

「私のジョブは、ダアトなの。華麗で強力な魔法攻撃を得意とするジョブよ」

「はぁ」

「ただ、ダアトって、防御能力がいまいちなのよね。ほら、ロールプレイングゲームでありがちじゃない。魔法使いは防御が弱いって。アレよ!」

「はぁ」

「だからね、あんたはディバインナイトになって、私の盾になりなさい」

「はぁ!?」

「アウルの才能に乏しい英斗でも、盾役だったらできるでしょ?」

「なんだか、ひどい言われようだな・・・」

ディバインナイトは、撃退士のジョブの中でも特に防御能力に優れたジョブだった。それゆえに、戦場では仲間を守る盾になり、戦線を支える力となる。小さい頃から頑固・・・じゃなかった、強い意志を持っていて、友達思いの英斗には、ディバインナイトがピッタリだ、と鈴音は考えていた。

「まぁ、たしかに、盾役だったら俺にもできそうだな」

「そうでしょ?ね、そうしなさいよ」

「鈴音、痛いから、左腕には抱きつかないでくれ、いや、抱きつかないでください、お願いします。」

なんにせよ、いままで地元でずっと一緒だった英斗が久遠ヶ原学園に編入してきて、鈴音は内心ほっとしていた。

(同じクラスになれるといいね)


●新聞同好会

同じころ、久遠ヶ原学園の部室棟の一角、新聞同好会と掲げられた部室では、姉弟漫才が繰り広げられていた。観客もいないというのに・・・。

「編入生を乗せたバスが、天魔に襲われたそうね?」

「そうなんだよ、これが現場の写真なんだけど・・・」

新聞同好会の部長であり、実姉でもある中山寧々(ナカヤマ ネネミ)(jz0020)の質問に、中山律紀(ナカヤマ リツキ) (jz0021)は、昼間、天魔襲撃現場で自分が撮影した写真をテーブルにひろげてみせた。

「なによこれ、肝心の天魔が写っていないじゃない!?あんたいったいなにしてたの?」

「いたっ、いたっ、ちょっとねえさん、やめてよ。俺が現場に着いた時には、天魔はもう倒されちゃってたんだよ」

ひきちぎらんばかりに引っ張っていた律紀の耳から手を離し、写真を一枚一枚手にとって確認する寧々美。

「今回あらわれた天魔は、まぁ、いわゆる低級の、最弱クラスだったらしいね」

「・・・で、その天魔は、やっぱり生徒会のメンバーが倒したのかしら?」

「それが、最近転入してきた新入生が倒したらしいんだけどって・・・いたっ!こんどは何だよ、ねえさん」

「律紀、あんたその新入生とやらに、取材は?」

「いや・・・してないけど」

「きーっ!この役立たず!!それでも新聞同行会のメンバーなの!!」

「そんなこと言ったって・・・そのコたちは、すぐ救護班の人達が連れて行っちゃったんだから、仕方ないだろ」

寧々美の攻撃から逃げるため、距離を取る律紀。

「それにしても、こんなに学園の近くで天魔が出てくるなんて、ただの偶然なのかなぁ」

律紀のつぶやきに、寧々美がキッとした視線を送る。

「律紀、そういう疑問を持ったら、足を使って取材する!それが私達、新聞同好会よ!!」

「はいはい、わかりましたよ。じゃあ、ちょっと行ってくるよ。夕飯は自分で作れるよね、ねえさん?」

「きーっ!あんたはいちいち一言多いのよ!さっさと行って来なさい!!」

「は~い、了解しましたっと」

部室を出ていく律紀を見届け、寧々美は自分の置かれた状況を冷静に分析しはじめた。

(今夜の夕食・・・どうしようかしら・・・)


●依頼斡旋所

数日後、久遠ヶ原学園の依頼斡旋所には、英斗の姿があった。

世界を守る撃退士は深刻な人材不足。学生たちが天魔に関連する事件解決に駆り出されることは、すでに日常であった。また、依頼斡旋所には学生たちの実力に応じた依頼が集まってくる。依頼を解決すればそれなりの報酬も出るし、なにより実戦経験が積める。

「あら、依頼を探しているの?いまいくつか依頼がきてるけど、どんなのがいいかしら。なにか希望はあるのかな?」

依頼斡旋所の女性職員から声をかけられ、英斗は依頼が貼りだされた掲示板から女性職員に視線を移した。

「えっと、俺、依頼を受けるのははじめてなんです。いったいどうしたらいいか・・・」

「そうなんだ、じゃあ、私が説明してあげるわね。さぁ、そこに座って」

勧められるままに、斡旋所のカウンターに設置された椅子に座る英斗。

「じゃあ、ここに名前を書いてね。・・・英斗くんか。ジョブも記入してくれるかな」

「はい、ここでいいですか?」

ジョブ記入欄に、ひときわ力強い文字で記入されたのは、『ディバインナイト』だった。


~おわり~


エリュシオンライトノベルコンテスト開催にともない、記念に書いてみました。小説とか書くのは事実上はじめてでしたが、自分なりにがんばってみました。執筆期間:2012年10月30日(火)11:00~18:00

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ