00:紅に染まる館の日常
というわけで、予告していた東方の小説です
知ってる人もいるかもしれませんが、昔書いた没小説をアレンジしたものです
苦手な方はそのままブラウザバックを推奨いたします
では、お楽しみくださいませ・・・
ここは幻想郷と呼ばれる、人々から忘れられた者たちが集う世界。そして、そんな世界の中にたたずむ1つの館があった。
『紅魔館』・・・それは湖付近に建っている、赤い色調を持つ洋館だ。館内には大図書館や地下室、時計台が存在するが、そこは人里から遠く離れた場所に立っている。その場所に人間は近付かない。否、近づけない。妖怪と妖精たちがうろつく森の奥にあるソレに近づくことはできない。仮に近づいたとしたら命はないだろう。そこに住むのは、人ではないのだから。
暗いその夜、そんな紅魔館の前に一人の人らしきものが立っている。いや、立っているというよりも立ったまま寝て いる。帽子の頭に龍と書かれた物を被り、チャイナドレスを着た1人の少女の姿があった。
「くー・・・くー・・・」
門番である彼女の名前は紅美鈴。中国の妖怪である。中国の何の妖怪かと聞かれれば何の妖怪なのかは不明だが、彼女は間違いなく妖怪なのである。するとそんな後ろに一人の男性 が現れる。その男は見た目からして執事である。その黒い髪と黒い眼はその執事服によく似合っている。しいて言うのならばそれ以外言うことがないほど彼は平凡なのだ。
「美鈴さん・・・美鈴さん?」
「くー・・・くー・・・はわっ!?ね、寝ていません!寝ていませんよ!?」
「おはようございます美鈴さん、よく眠っていらっしゃいましたね」
にっこりと笑みを浮かべる執事服の男。その笑みは綺麗な笑みなのだが、美鈴は顔を蒼くしている。
「ひぃっ!ごめんなさい、陽炎さん!」
「僕はそれくらいじゃ怒りませんよ・・・ほら、おにぎりです」
と、陽炎と呼ばれた男はため息をつきながらも優しくおにぎりと水筒を差し出す、陽炎と呼ばれた男。美鈴はおずおずとそれを受け取る。
「あ、ありがとうございます・・・」
「まったく、眠いなら交代で妖精メイドに言うように言っているでしょう」
「いやー・・・行ける!って思ったらつい・・・」
そう言いながらおにぎりを頬張るメイリンよほどそのおにぎりがおいしいのだろう。だがしかし、次の一口で表情が一変する。
「~~~~~~~~っ!?」
「寝ていた罰です。貴女の苦手な『梅干し』のおにぎりを握ってみました」
美鈴は慌てて水筒を開けて水を飲み干す。
「陽炎ひゃん・・・ひどいれす・・・」
「罰は受けてください。それに、目は覚めたでしょう?」
「うぅ・・・」
「貴女は紅魔館の門番・・・『何人たりとも人を通さぬこと』それが使命です。しかし貴女も機械ではありません。睡眠はしっかりと取ること。無理な時は無理をしてはいけません。わかりましたね?」
「ふぁーい・・・」
口を抑える美鈴に陽炎はにっこりとほほ笑み、紅魔館へと歩き出す。
「では、今夜も頑張ってくださいね」
そう言ってから陽炎は紅魔館の中へと消えて行った。
魔法図書館
そこにあるのは本、本、本・・・全てが本だらけ。紅魔館の地下にある大きな図書館だ。陽炎はそこを訪れると本を整理している少女に声をかけた。
「『小悪魔』さん、夜からご苦労様です」
「あ、陽炎さん・・・こんばんはって、もう夜・・・ですか?」
「ええ、もう8時過ぎです。もしやずっと整理を?」
「は、はい・・・パチュリー様が熱心に読み物をしていましたので・・・私も必死に御片付けを」
小悪魔と呼ばれた少女。別に名前が小悪魔というわけではない。彼女は召喚された存在であり、悪魔の一種で名前が存在していないのだ。そして、陽炎はまたか・・・と呟き、近くにあったティーカップを手に取った。
「お茶をお持ちしなければなりませんね・・・小悪魔さんも休憩をお取りください」
「あ、ありがとうございます」
と、小悪魔は手に持っていた本を近くにあったテーブルに降ろした。その間に陽炎はテキパキと紅茶を入れていく。その動きは早すぎず、それでいて遅すぎない動きだ。手にした腕時計に目をやり、ティーカップにお茶を入れていく。
「どうぞ、『ハーブティー』ですよ」
「あ、わざわざすみません・・・私なんかのために」
「とんでもない。この館で休まず働いていては倒れてしまいますからね。休息は十分に取ってください。さて・・・」
小悪魔がおいしそうにお茶を飲んでいるところから視線を外し、陽炎よりも高く積まれた本がある場所を見た。そして一歩一歩、本の場所へと近づく。その本のタワーの後ろへ回ると、そこにいたのは紫色の髪をした少女が本を呼んでいた。
「パチュリー様、ミルクティーをお持ちしました」
「あら・・・陽炎、いつからここに?」
「ほんの数十分前です・・・パチュリー様、睡眠の方はお取りになりましたか?」
「いいえ、本に夢中になっていたわ。また新しい発見をしてね・・・ずっと読んでいたわ」
パチュリーと呼ばれた少女は特に疲れた様子もない。だが、陽炎はその読んでいるページにしおりをはさんだ。
「パチュリー様、少しはお休みください・・・また倒れたら大変です」
「あら、心配は嬉しいけど平気よ?」
「顔色が悪いです。そのセリフは身体のよい人間が言うセリフではありませんよ?今日もどうやらビタミンAが足りないようですね」
「・・・そうね、少し休むことにするわ」
そう言ってパチュリーは入れられた紅茶を飲み、フラフラと図書館の奥へと消えて行った。陽炎はその背中に静かに「お休みなさいませ」と頭を下げ、パチュリーは右手を上げて答えていた。
「さて・・・そろそろ起きる頃ですね」
腕時計を見ながら、ゆっくりと図書館の出口へと向かう陽炎。
「あ、陽炎さん、ごちそうさまでした」
「いえいえ・・・小悪魔さんも睡眠をお取りください。片づけは後で私がやるので」
「いえ・・・それは私が。陽炎さんは早くいかないと」
「・・・そうですね、すみません。行ってきます」
「はい」
そう言って陽炎は少し早足でその図書館を後にしていた。
・・・・・・
そこはとある寝室だ。巨大なベッドがあるそこに、陽炎の姿があった。そして、そのベッドに眠るのは一人の幼女だった。水色の髪の幼女が下着姿で眠りについていた。しかし、その少女は普通ではなかった。その少女の背中には翼がある。黒い悪魔の翼
「お嬢様・・・レミリアお嬢様・・・もう夜ですよ。お目覚めください」
「ん~・・・眠い・・・もっと・・・寝る・・・」
「今宵も綺麗な満月でございます・・・どうかお目覚めください」
陽炎の言葉に、眠たそうに起き上がる幼女は、欠伸をして陽炎を見た。
「あら、おはよう陽炎」
「はい、レミリアお嬢様・・・今宵も満月でございます」
レミリア・スカーレット。紅魔館の主にして、齢500を過ぎた吸血鬼である。しかし見た目は10歳に到達するかしないかくらいの外見で、ウェーブのかかった水色の髪は美しい。
「そう・・・いつもの『アレ』、お願いするわ」
「仰せのままに」
そう言ってお嬢様と呼ぶ幼女を陽炎は抱き上げる。俗に言うお姫様抱っこである。そしてレミリアはゆっくりと陽炎の首筋を撫でる。
「それじゃあ、いただくわ」
「はい、どうぞお嬢様」
「はむっ・・・」
首筋を噛みつくレミリア。その痛みに耐え目を閉じる陽炎は静かに近くの椅子へと腰を降ろした。
「いかがですか?お嬢様・・・」
「相変わらず・・・不思議な味だわ。今まで人間の血を食してきたけど、こんな味は貴方一人」
「そう言っていただけると光栄です・・・お嬢様、口を拭きましょう。血まみれです」
そう言って片手をポケットに突っ込み、陽炎は白いハンカチでレミリアの口を丁寧に拭き取った。
「・・・・・・今日はいつもより食した量が少ないですね。大丈夫ですか?」
「ええ、問題ないわ。さあ、着替えさせて」
「Yes, My Lord.(仰せのままに、ご主人様)」
これは紅魔館と呼ばれた館で働く一人の執事と、その館の住む者たちの物語
第1話でした♪
咲夜さんは登場する予定ですので、しばらくお待ちくださいませ