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プロローグ

先に投稿した「輪廻の鎖」の改訂版です。

改訂前の作品と登場するキャラの名前は同じですが、中身は別物です。改訂前の作品を読んでいなくても読めますので、未読の方はこちらからでも読んでみてください。

輪廻の鎖 改訂版


プロローグ


 長い夢を見ていた。

 それは失い続ける夢。自らを縛る運命の鎖に抗い続けた織部真冬という名の少年の夢だった。

(彼はどうして……そこまで出来た?)

 夢を見た少年は問う。

 だが、答えは返ってこない。所詮は夢の中の出来事なのだから。それでも少年は見続けた夢から思考を切り離す事が出来ないでいる。

 その夢がまるで自らが体験したかのように生々しかったからである。織部真冬と同じように恐怖し、憤り、嘆き続けてきたのだから当然といえば当然だろう。それを証明するかのように、今でも少年の全身を恐怖が襲い震える手は止まる事はない。

(もう終わったのに。終わったんだ!)

 少年は自らに覆い被さる布団を強引に跳ね除けて、部屋の外に向けて駆け出していく。まるで全身を襲う恐怖から逃れるかのように。

 数秒の時間をかけて飛び出した先には少年が求める妹の姿があった。

(これが現実なんだ)

 少年は安堵の息を吐く。それと共に実感する。もう縛られてなんかいないのだという事を。

 彼が。織部真冬が断ち切ってくれたのだと。

「どうしたの? 顔、真っ青だよ」

 妹は部屋へと駆け込んで来た少年に驚き一瞬だけ目を見開いたが、すぐさま心配して少年の顔を覗き込んでくる。

 そんな妹の手を少年は強く引いて抱き寄せる。織部真冬が望んだように。

 これは前世の想いなのだろう。

 だが、それでも良かった。

(俺はこれからも歩んでいけるから)

 心の中でつぶやき抱きしめる腕にさらに力を込める。伝わってきたのは柔らかさと確かな温もりだった。彼女は確かにここにいて、今もこうして抱きしめていられる。少年にはただそれだけでいいのである。

「本当にどうしたの?」

「辛い夢を見たんだ」

 問う妹に応える少年。また何か問われるかと思ったが妹は納得したように一つ頷く。

「僕も見たよ。でも、あれは僕達ではないんだ。だから――」

「彼らの分まで幸せになろう」

 妹の言葉を遮って少年は言い切る。彼らが望むであろう生き方を全力で貫くために。

「うん。二人で幸せになろう」

 頬を朱色に染めて首肯する妹。その言葉だけで少年の心は徐々に解放されていく。心を満たしたのは言葉には出来ない至福だった。

「その前に皆に会いに行こう。彼らも自由になっただろうから」

 少年は妹の手を引いて歩き出す。前世の彼ではなく、自らの道を歩むために。彼らの分まで幸せを掴み取るために。

 もう自らを縛る鎖はないのだから。

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