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第8話 再生の旋律

 夜の帳が、限界まで歪んでいた。


 空を覆う巨大虚無獣は、まるで泣いているように揺れている。


 怒りでもない。

 憎しみでもない。


 ただ――満たされなかった想いの塊。


 その中心に、セイヤが立っていた。


「……もう、遅いんです」


 静かな声。


 けれどその瞳には、隠しきれない疲れが滲んでいた。


「全部……失うくらいなら」


 空気が歪む。


 記憶を押さえつけていた力が、さらに強まろうとしたその瞬間――


「……もうやめろ」


 ルイの声が、低く響いた。


 軽薄な調子はどこにもない。


 ただ真っ直ぐな声だった。


「お前、もう限界だろ」


「……あなたに、何がわかるんですか」


「わかるよ」


 短い返事。


 ルイは一歩近づいた。


「ずっと見てたからな。……友達だろ、俺たち」


 その言葉に、セイヤの瞳が揺れた。


 一瞬。


 ほんの一瞬だけ、張り詰めていた表情が崩れる。


 力がぶつかり合う。


 だがそれは、殺意ではなかった。


 止めたい者と、止まりたい者の衝突。


 やがて――


 セイヤの力が、静かに砕けた。


 夜の帳が、音もなくほどけていく。


 *


 同時に、戦場のあちこちで変化が起きていた。


 タジとリョウコ、アキトの間にあった緊張が緩む。


 剣を振り上げていたソウの動きが止まる。


 そして――


 マナの胸に、溢れるような記憶が流れ込んできた。


 笑い合った日々。

 同じ空を見上げた夜。

 隣で剣を振るう青年。


「……ソウ」


 名前が、はっきりと形になる。


 ソウの瞳が揺れた。


「……思い出したの?」


 マナは答えず、ただ頷いた。


 涙が、静かに零れる。


 *


 巨大虚無獣が咆哮する。


 まだ消えてはいない。


 残されたのは、歪んだ感情の塊。


 マナはゆっくりと息を吸った。


 胸の奥に、確かな熱がある。


 空っぽだったはずの旋律が、満ちていく。


「……わたし」


 マイクを握る手が震える。


「やっと、歌えるわ」


 それは、誰か一人のためじゃない。


 ソウのために歌い始めた旋律が、仲間たちへと広がっていく。


 リョウコが目を見開く。


 アキトの拳に力が戻る。


 タジが静かに頷いた。


 そして、ソウが剣を構える。


 歌が、夜を震わせる。


 優しくて、強くて、温かい音。


 バラバラだった想いが、ひとつに重なっていく。


「……行こう」


 ソウの声に、全員が応える。


 それぞれの力が、旋律に乗って重なった。


 一撃。


 光が夜を裂き、巨大虚無獣を包み込む。


 悲しげな影が、静かに溶けていった。


 夜の帳が、晴れていく。


 *


 戦いが終わった後。


 静かな路地裏。


 セイヤは座り込み、俯いていた。


「……結局、私は」


 言葉が続かない。


 ルイが隣に腰を下ろす。


「まぁ……やりすぎだったな」


 軽く笑う。


 けれど声は優しい。


「でもさ。終わったなら、やり直せるだろ」


 セイヤは小さく息を吐いた。


 涙が、静かに落ちる。


「……ありがとうございます」


 初めて、肩の力が抜けたようだった。


 *


 夜明け前。


 橋の上で、マナとソウが向かい合っていた。


 言葉は少ない。


 それでも、すべてが伝わっている。


「……遠回りしちゃったね」


 ソウが苦笑する。


 マナは小さく首を振った。


「でも……もう、迷わないわ」


 一歩、距離を詰める。


 風が吹き、提灯が揺れた。


「わたし、あなたのために歌い始めたの」


 そして、静かに微笑む。


「でも……これからは、みんなのために歌う」


 ソウは目を細めた。


「……うん。それが君らしい」


 次の瞬間。


 二人の距離が、ゆっくりと重なる。


 夜明けの光の中で、静かなキスが交わされた。


 遠くで仲間たちの笑い声が聞こえる。


 守護団は、再び一つになった。


 歌は終わらない。


 旋律は、もう一度歩き出す。


 ――Re。


 再生の物語は、ここから続いていく。

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