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#8 討伐完了!

 震え上がる盗賊を先頭に立たせ、俺たちは森の奥深くへと進んでいった。

 かつて栄えていたという小国の遺構は、蔦に覆われ、見る影もなく崩れ去っている。

 だが、その道中は驚くほど快適だった。


「前方五メートル、感圧式の落とし穴を検知。処理しろ」

「ガウッ」


 サブロウが顎でしゃくると、鋼鉄の猟犬が一匹前に出て、前足で器用に地面の石を弾き飛ばした。

 ドゴォンッ! という音と共に、仕掛けられていた罠が作動し、大量の毒矢が虚しく空中を射抜く。


「す、すごいです……! 魔法の探知もなしに、どうして罠の場所が分かるんですか!?」

「ん? 猟犬の眼に赤外線センサーとソナーが積んであるからな。地中の空洞や熱源の異常なんて丸わかりだぜ」

「セ、センサー? ソナー!? 未知の魔法言語が次々と……あああっ、書き留める紙がありません!」


 シグリッドが頭を抱えて地団駄を踏んでいる。

 新情報を記録できないのは死活問題らしい。


「ひぃぃ……なんだこいつら、俺たちの完璧な防衛網がただの散歩道みたいに……」


 案内役の盗賊は、完全に心が折れたのか、涙目になりながら歩き続けている。

 やがて森が開け、巨大な石造りの城壁が姿を現した。

 城門は堅く閉ざされ、分厚い鉄の扉が立ち塞がっている。


「こ、ここが根城の廃城です。でも、中から鍵がかかってて、合言葉がないと開かなくて……」

「退がってろ」


 盗賊の言葉を遮り、サブロウが前に出た。

 彼は魔砲剣の刀身を鉄の扉にピタリと押し当てる。


「熱切断モード」


 シュゴォォォォッ!!

 剣の先端から極細の高熱の光線が放たれ、分厚い鉄の扉を豆腐のように切り裂いていく。

 数秒後、ズゴォォン! と巨大な鉄扉が内側に倒れ込んだ。

 鍵も合言葉も関係ない。圧倒的な暴力による強行突破だ。


「……すげぇ。本当に何でもありだな、旧世暦」

「あれが失われた超文明の力です! ふすーっ、ふすーっ!」


 シグリッドの鼻息が荒い。体温が上がっている証拠だ。これ以上服を溶かされる前に戦闘を終わらせないといけない。

 扉の先は、かつての王城の大広間だった。

 広間の中央には、焚き火を囲んで酒盛りをしていた盗賊団の主力──三十人ほどの屈強な男たちが、突然の轟音に武器を構えて立ち上がっていた。


「な、なんだ貴様ら! どうやって扉を破った!」


 奥に置かれたボロボロの玉座。そこに深々と腰掛けていた大男が、立ち上がった。

 身長は二メートルを優に超え、全身が岩のように隆起した筋肉で覆われている。

 顔には無数の傷跡があり、手には身の丈ほどもある巨大な戦斧が握られていた。

 奴が、この『牙の森』の盗賊団を束ねるボスだろう。


「お前らが侵入者か。罠を抜けてきたのは褒めてやるが……子供二人と、ヒョロい優男が一人だと?」


 ボスは俺たちを見て、鼻で嗤った。

 周囲の盗賊たちも、警戒を解いて下卑た笑い声を上げ始める。


「てめェら、自分の首の価値も分からねえ馬鹿か? 俺は賞金首の『岩砕きのドラン』だぞ。ただで死ねると思うなよ」

「ドラン……血統スキルで皮膚を岩のように硬化させる凶悪犯ですね。アイナル様、気をつけてください!」


 シグリッドが俺の背後に隠れながら(しっかり盾にしつつ)解説してくれる。


「岩の皮膚ねぇ」


 サブロウはつまらなそうに首を鳴らした。


「おい大将。こいつらを消せば依頼達成なんだろ?」

「はい、頼めますか」

「任せな。三分で終わらせる」


 サブロウが魔砲剣を構えて前に出ると、ボスのドランが顔を真っ赤にして怒号を上げた。


「舐めるなァ! 野郎ども、殺せ! 女は生かしておけ!」


 三十人の盗賊が一斉に襲いかかってくる。

 だが、サブロウの赤い瞳を持つ三匹の猟犬が、それを迎え撃った。


「ガァルルルッ!!」

「ぎゃあぁっ! な、なんだこの鉄のバケモン!」

「剣が通らねえ! 刃が欠けやがった!」


 ただの鉄ではない。旧世暦の未知の合金で作られた猟犬に、盗賊のなまくら刀など通用するはずがなかった。

 一瞬にして広間は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。


「チィッ! ふざけた手品を使いやがって! なら俺が直接叩き潰してやる!」


 ドランが咆哮と共に跳躍した。

 彼の全身が赤茶色の光に包まれ、その皮膚がゴツゴツとした本物の岩石へと変化していく。


「血統スキル【岩石装甲】だ!」


 ただでさえ巨体な男が、文字通りの『動く城岩』となってサブロウの頭上から大斧を振り下ろす。


「死ねェェェッ!」

「……原始的な防刃機構だな。硬度計算するまでもない」


 サブロウは逃げも躱しもしなかった。

 ただ、魔砲剣の柄のスイッチをカチリと切り替えただけだ。


「近接モード。出力最大」


 ブォォォォンッ!!

 刀身から、先ほどの光弾とは比べ物にならない、圧縮された真紅の光刃が伸びた。

 空気が焦げるような匂いが広間に充満する。


「な、なんだその光は──」

「時代遅れなんだよ、おっさん」


 閃光。

 サブロウが軽く剣を振り抜いた。

 ただそれだけで。


 ズパァァァンッ!!

 ドランが振り下ろした巨大な鋼鉄の戦斧が、そして彼が絶対の自信を持っていた岩石の装甲ごと、綺麗に斜めに両断された。


「……は?」


 ドランは、自分の身体の半分から上が、ズレて落ちていくのを理解できないまま──ドサリと床に崩れ落ちた。

 気絶すら許されない、完全な即死。一刀両断だった。


 広間が、水を打ったように静まり返った。

 圧倒的だったボスが、一瞬で、しかも得体の知れない光の剣で斬り捨てられたのだ。


「ぼ、ボスが……!」

「ヒィィィッ! バケモノだぁぁ!」


 残った盗賊たちは完全に戦意を喪失し、武器を放り投げて床に土下座し始めた。


「降参! 降参します! 命だけは!」

「ふぅん。まあ、殺す価値もないな」


 サブロウが魔砲剣の光刃を収めると、背中の鞘にカチャリと戻した。

 同時に、猟犬たちも動きを止め、サブロウの足元へと戻ってくる。


「ふすーっ! ふすーっ! アイナル様、見ましたか今の! 剣身を持たない純粋な魔力の刃! あれぞ旧世暦の至宝……っ!」

「おいシグリッド、鼻血出てるぞ。興奮しすぎだ」


 俺はポケットからハンカチを取り出し、シグリッドに渡した。

 彼女は鼻を押さえながら、ヘラヘラと笑っている。


「……ふむ。そろそろ魔力の供給が切れるな」


 サブロウの身体が、足元から光の粒子となって分解され始めていた。

 召喚の一時間が経過したのだ。


「もう時間か。助かったよ、サブロウ」

「気にするな。久々に外の空気が吸えて楽しかったぜ。……アイナルと言ったな」


 消えゆく身体のまま、サブロウは俺に向かってニッと笑った。


「今は随分と文明が後退しちまってるが、その分、空が青くて空気が美味い。ここは、お前らが生きる時代だ。良い国を作れよ、子孫」

「ええ。約束しますよ」


 俺が頷くと、彼は満足そうに目を細めた。


「ああ、そうだ。一つ言い忘れてた」


 完全に光となって消える直前。

 サブロウは、シグリッドの方をチラリと見て、言った。


「そこのピンク髪の嬢ちゃん。あんたのそのスキル、『興奮して体温が上がる』んじゃねえぞ。逆だ。あんたの魔力回路が異常に高出力すぎるから、放熱のために身体が燃えてるんだ。使い方を間違えなきゃ、俺の時代でも通用する一級品の熱源兵器になるぜ。じゃあな」


 パァァァン、と光が弾け、サブロウと三匹の猟犬は跡形もなく消え去った。

 残されたのは、縛り上げられた盗賊たちと、呆然と立ち尽くす俺たち。


「私のスキルが、一級品の兵器……?」

「良かったな、シグリッド。お前はただの放火魔じゃなかったみたいだぞ」


 俺が笑いかけると、彼女の瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。


「アイナル様ぁぁっ! 私、私……っ!」

「わっ、泣きながら抱きついてくるな! 熱い! お前また体温上がって──服が溶けるから離れろォォッ!」


 こうして俺たちは、ギルドが何年も放置していた最難関の討伐依頼を、たった一時間足らずで完了させてしまった。

 俺の国作りのための資金と、そして最強の『火力』候補を手に入れた。

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