#7 盗賊退治!
草むらから姿を現した二十人ほどの盗賊たちが、下卑た笑いを浮かべながらジリジリと距離を詰めてくる。
どいつもこいつも、血と泥にまみれた薄汚い身なりだ。手にはクロスボウや、毒が塗られているであろう赤黒い短剣が握られている。
だが、俺に焦りはなかった。
なにせ俺の横には、旧世暦の先祖が立っているのだ。
「どうしますサブロウ? 相手は結構な数ですが」
「なんだ、ただの野盗か」
サブロウは欠伸を一つすると、肩を竦めた。
「空中戦艦でも出てくるかと思ったが……平和でいい時代だな。しかも見た目も、絵本の童話に出てくるような……まあ、少しだけ運動するか」
彼は背負っていた奇妙な武器──『魔砲剣』とやらをゆっくりと抜いた。
分厚い刀身。柄の部分には、何かの管のようなものがゴチャゴチャと這い回っている。
「おいおい、なんだその不格好な剣は! そんな重そうなモン、まともに振れんのかァ?」
「舐めやがって。蜂の巣にしてやれ!」
盗賊の一人が合図を出すと、数人が一斉にクロスボウの引き金を引いた。
ヒュンッ、と鋭い風切り音を立てて、数本の矢がサブロウに向かって殺到する。
「危ないッ!」
俺が叫んだ、その瞬間。ピンっという硬質な音が森に響いた。
サブロウの身体の数十センチ手前で、矢が空中でピタリと止まり、そのまま地面にポロポロと落ちていく。
よく見ると、彼の周囲の空間に、薄青い六角形の光の壁が展開されていた。
「なっ……!?」
「矢が弾かれた!? 馬鹿な、詠唱も結界展開の動きもなかったぞ!」
盗賊たちが驚愕の声を上げる。
俺も驚いた。魔法を使うには、魔力を練って詠唱するのがこの世界の常識だ。
「なんだ、ただの物理シールドだろ。服に組み込まれてるんだよ」
「シ……ールド? 服に?」
俺が聞き返すと、サブロウは「さて、こっちの番だな」と魔砲剣を構えた。
そして、柄についている突起を指で引く。
カシュンッ、ウィィィィン……!!
聞いたこともない甲高い異音が鳴り響き、剣の刀身がスライドしてパカッと開いた。
内部から、眩いほどの青白い光が漏れ出す。
「出力二〇パーセント。掃討モード」
サブロウが剣を振るうのではなく、ただ向けるだけで、剣の先端から無数の『光の弾』が連射された。
それは魔法使いが放つ火球などとは比較にならない速度と弾数だった。
「ぎゃあぁぁぁッ!?」
「なんだこれ、魔法か!? ぐわァッ!」
光弾が着弾するたびに、凄まじい爆発が起こる。
盗賊たちの構えていた盾ごと吹き飛ばし、周囲の木々をなぎ倒し、大地を抉り取っていく。
たった数秒の掃討。
それだけで、前衛にいた十人以上の盗賊が消し飛び、地面に転がっていた。
「ひ、ひぃぃっ! 化け物だ!」
「に、逃げろ! 奥のトラップ地帯に誘い込め!」
生き残った盗賊たちが、恐慌状態に陥って森の奥──廃城の遺構がある方向へと蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「あっ、追ってはダメですアイナル様!」
服の焦げ火をようやく消し終えたシグリッドが、慌てて叫ぶ。
「あの先は、かつての小国が残した致死のトラップ地帯です! 落とし穴や毒ガス、不可視の魔法線……どこに何があるか、奴らにしか分かりません!」
「なるほど。なら、掃除屋を呼ぶか」
サブロウは剣を肩に担ぐと、空いている左手を前に突き出した。
「久しぶりだな……【霊体召喚】!」
彼の足元に、魔法陣とは違う、幾何学的な光の模様が浮かび上がる。
そこから這い出してきたのは──三匹の『獣』だった。
「グルゥゥ……」
だが、それは肉の体を持たない。
全身が鈍色の金属で覆われ、瞳の部分が赤い光を放つ、鋼鉄の狼たちだった。
「なっ……なんですか、あれは!?」
シグリッドが目を丸くして叫ぶ。
「ゴーレム!? いえ、魔石の光が見えませんし、関節の構造が魔法生物学の常識を逸脱しています! どうやって動いているんですか!?」
「ん? ああ、俺の霊体召喚は少し特殊でね。こいつらは『自律型兵器』っていうんだ。俺が過去に作った人工の魂を、こいつらの金属フレームに憑依させて動かしてる」
「ジンコウノ、タマシイ……? えええっ!? 命を、人間の手で創り出しているということですか!」
シグリッドの目が点になっている。
無理もない。現代の常識では、霊体召喚とは『過去の死者の魂』や『精霊』を呼ぶものだ。一から魂を作って金属の器に入れるなど、聞いたことがない。
「行け、鉄猟犬ども。非致死モードで制圧しろ。トラップは無視して構わん」
ピピッと短い音が鳴ると、三匹の鋼鉄の狼たちが凄まじい速度で森の奥へと駆け出していった。
その速さは、風魔法で加速した魔獣すら凌駕している。
直後、森の奥から悲鳴と爆発音が連続して響き渡った。
「ぎゃあぁぁ!?」
「なんだこの鉄のバケモン! 毒矢が効かねえぞ!」
「ひぃぃ、足が、足が噛まれ……ッ!」
悲鳴は数分で鳴り止んだ。
やがて、ガシャ、ガシャと金属音を立てて、三匹の猟犬たちが戻ってくる。
彼らの口には、気絶した盗賊たちの襟首がくわえられていた。
無数の毒矢が刺さったり、トラップの炎で焦げたりしているが、猟犬たちは全く意に介していない。
「よしよし、よくやった」
サブロウが猟犬たちの鉄の頭を撫でると、赤い瞳が嬉しそうに明滅した。
「す、すげぇ……」
俺は息を呑んだ。
剣から光の弾を連射し、無敵の盾を持ち、鉄の獣を使役する。
これが旧世暦。かつて世界を支配していたという、ロストテクノロジーの力。
「あわわわ……伝承にある『雷を吐く鉄の杖』や『不老不死の鋼の獣』……すべておとぎ話だと思っていましたが、実在したんですね!」
シグリッドがブルブルと震えながら、猟犬に触ろうとして、熱さで手を引っ込めている。
「さて、子孫。おおかた片付いたが、どうする?」
「……案内人が手に入ったな」
俺は、猟犬が放り出した盗賊の一人──まだ意識がある男を見下ろした。
男はガチガチと歯の根を鳴らし、怯えきった目で俺たちを見上げている。
「な、なんだお前ら……人間じゃねえ……」
「命が惜しければ、案内しろ」
俺は冷たく言い放った。
「お前らのボスがいる、廃城の奥底へな」




