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#4 冒険者ライセンス

 サモンドール公国の隣国、グランフレア王国は滅びていた。

 だが、その周辺にある都市国家群は、交易の要所として今も栄えている。

 俺がたどり着いたのは、旧王都から馬車で三日ほどの距離にある中立商業都市『バルトラン』だ。

 赤レンガ造りの建物が並び、通りには多くの商人や冒険者が行き交っている。

 獣人の売り子、ドワーフの鍛冶屋、エルフの薬売り……屋敷に閉じ込められていた俺にとって、そこはまさに異世界だった。


「すげぇ……本当に、世界はこんなに広かったんだ」


 キョロキョロと田舎丸出しで歩く俺を見て、すれ違う冒険者たちがクスリと笑う。

 だが、今の俺には目的がある。

 まずは身分証代わりの『冒険者ライセンス』を取得し、路銀を稼ぐことだ。

 俺は街の中心にある、剣と盾の看板を掲げた建物──冒険者ギルドへと足を踏み入れた。

 ガヤガヤと賑わっていた酒場の喧騒が、俺が入った瞬間に少し静まる。

 視線が突き刺さる。

 俺の上等な服(公爵家のもの)と、華奢な体つきが浮いているのだろう。


「いらっしゃいませ。登録ですか?」


 受付カウンターに行くと、栗色の髪をした愛想の良いお姉さんが対応してくれた。


「はい。冒険者になりたくて」

「では、こちらの用紙に記入をお願いします」


 俺は羊皮紙を受け取り、必要事項を記入していく。

 名前、年齢、出身地……そして、使用スキル。


 俺が書き終えて渡すと、受付嬢が目を見開いた。


「えっ……サモンドール? あの、公国の?」


 その声は、予想以上に大きく響いた。

 酒場の空気が凍りつく。


「おい、聞いたか? サモンドールだってよ」

「マジか。あの召喚術の名門か?」

「なんでそんな大貴族が、こんな辺境のギルドに……」


 冒険者たちの間に、ざわめきと緊張が走る。

 やはり、家の名前は有名らしい。

 警戒されているのが肌で分かる。


「へぇ……名門サモンドール家の御曹司様か」


 その時、野太い声が割って入った。

 奥の席で酒を飲んでいた、大柄な男だ。

 顔には大きな傷があり、背中には身の丈ほどの大剣を背負っている。

 受付嬢が語る──彼はギルドの試験官も務めるベテラン、ランクBの冒険者『鉄砕のガルド』だと。


「だが、おかしいなァ。サモンドール家と言えば、先日三男が『無能』すぎて追放されたって噂を聞いたぜ?」


 ガルドがニヤリと笑い、俺を睨みつける。


「対象を移動させるだけの、召喚もできない欠陥品。一族の恥晒し……そいつがお前か?」


 図星を突かれ、俺は言葉に詰まる。

 周囲の空気が一変した。

 畏怖が、侮蔑へと変わる。


「なんだ、落ちこぼれかよ」

「ビビらせやがって。親の七光りも通じねえな」

「移動だけだってよ! 引っ越し屋でもやれっての! ギャハハ!」


 嘲笑の嵐。

 悔しさで顔が熱くなる。

 まただ。どこへ行っても、この『烙印』がついて回る。


「……笑うな! 俺は……俺は召喚士だ!」

「ほう? 威勢だけは一人前だな」


 ガルドが席を立ち、俺の目の前に立ちはだかる。

 見上げるような巨体。圧倒的な威圧感。


「なら見せてみろよ。その自慢の召喚術をなァ! 実技試験だ。俺に一発でも入れられたら合格にしてやるよ!」

「……っ! 後悔するなよ!」


 中庭の舞台へと移り、試験が始まる。


「本来、試験では血統スキルは禁止されてるんだが……特別に許可してやろう。スキルが使えればの話だがな!」


 俺は叫び、右手を突き出した。

 見てろ。俺には最強の先祖がついているんだ!


「来いッ! ご先祖様!」


 ブゥンッ!

 空間が歪み、扉が出現する。

 だが──現れたのは、落ち着いた輝きを放つ『銀色』の扉だった。


「銀色……!?」


 俺は焦った。

 エイシェやミレン兄妹のような金色じゃない。

 銀色は『熟練者』レベルの……外れだ。

 相手はBランクのベテラン冒険者だ。勝てるのか?


「おいおい、なんだそのショボい扉は?」

「扉を召喚してどうするんだ? 家に帰るってか? はははは!」


 冒険者たちが腹を抱えて笑う。

 ガルドも鼻で笑い、大剣の柄に手をかけた。


「終わりか? なら、現実を教えてやるよ坊ちゃん!」


 くそっ、もう一回!

 俺が再び魔力を練ろうとした、その時だ。

 銀色の扉が静かに開き、中から一人の男が現れた。


「……騒がしいな。昼寝の途中だったんじゃが」


 現れたのは、質素な道着を纏った小柄な老人だった。

 白髪交じりの短髪に、無精髭。

 手には何も持っていない。武器はおろか、防具すらつけていない。


「はぁ? なんだこの爺さんは。どっから現れた」

「武器も持ってねえぞ! 素手かよ!」

「おい爺さん、散歩なら他所でやりな! 怪我するぜ!」


 嘲笑はさらに大きくなる。

 俺も不安になった。

 この人が、本当に戦えるのか?


「……ふむ。我が子孫が、随分と舐められたものだ」


 老人は眠そうに目を擦りながら、俺を一瞥した。


「おい、坊主。もう一人呼ぼうとするな。魔力の無駄だ」

「えっ、でも相手はBランクで……!」

「関係ない。この程度の輩、ワシ一人で十分だ。このアルザスが拳、御覧じろ──」


 アルザスはふらりと前に出た。

 まるで散歩でもするかのような、自然体だ。


「あァ? ボケてんのか爺さん。死にてえなら望み通りにしてやるよ! この鉄砕のガルドの一撃、受けてみやがれ──」


 ガルドが吠え、大剣を振りかぶる。

 その一撃は岩をも砕く剛剣。

 まともに食らえば、人間など肉塊に変わる。

 床が砕け、土煙が舞い上がる。


「へっ、口ほどにも……あ?」


 ガルドの動きが止まった。

 大剣が、床にめり込んだまま動かない。

 その刀身の上に、アルザスがちょこんと乗っていた。


「なっ……いつの間に!?」

「遅いのう。あくびが出るわ」


 アルザスは、大剣の上であくびを噛み殺した。

 その動きは、風のように軽やかで、水のようにしなやかだ。


「貴様ァ! チョロチョロと……!」


 ガルドが顔を真っ赤にして大剣を引き抜こうとするが、ビクともしない。

 アルザスの体重など無いに等しいはずなのに、まるで山が乗っているかのように重い。


「『鉄砕』か。名は体を表すというが……力任せに振るうだけの剣など、ただの鉄塊よ」


 アルザスは静かに言った。

 その瞳から、眠気が消える。

 代わりに宿ったのは、達人だけが持つ研ぎ澄まされた武の極致。


「教えてやろう。本物の『武』というやつをな」


 トンッ。

 アルザスが軽く足を踏み鳴らす。

 瞬間、ガルドの巨体がボールのように宙に浮いた。


「は……?」

「ほれ」


 アルザスの掌底が、ガルドの腹に吸い込まれるように突き出される。

 派手な音はない。

 だが、衝撃は内部を駆け巡り、ガルドの背後の空気を揺らした。


「が、は……ッ!?」


 ガルドは白目を剥き、そのまま崩れ落ちた。

 一撃。

 たった一撃の、しかも素手の攻撃で、Bランク冒険者が沈黙した。

 ギルド内が、水を打ったように静まり返る。

 さっきまで笑っていた冒険者たちが、口を開けたまま固まっている。


「……ふぅ。運動不足にはちょうどよいな」


 アルザスは道着の埃をパンパンと払うと、首を鳴らして息を吐く。


「どうだお嬢さん。合格か?」

「え……? あ、はい! で、ではアイナル様にライセンスをお渡しします!」


 銀色の扉から現れたのは、武器を持たない老人。

 だがその正体は、かつて『拳聖』と呼ばれ、素手でドラゴンを撲殺した伝説の武闘家だったのだ。本人から聞いた。

 こうして俺は、最強のボディーガードと共に冒険者としての第一歩を踏み出した。

 周囲の視線が侮蔑から驚愕へ、そして畏敬へと変わっていくのを肌で感じながら。

■ミラン=サモンドール

血統スキル:物質召喚

レアリティ:金(SR)

生没年:新世暦773年〜877年(享年104歳)

生涯:サモンドール家125代当主。戦死した兄ミレンの遺志を継ぎ、戦火で家を失った人々を救済した傑物。

彼女の召喚術は堅牢かつ美しい建築物を一瞬で召喚するという規格外のもの。

彼女が召喚する建物は機能美に優れ、現在でも「ミラン様式」として建築史にその名を残している。

12人の子宝に恵まれ、最期は家族に見守られながらその長い生涯を終えた。

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