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#1 クソみたいな世界

 血統スキル。基礎スキル。

 二つの力が、人の価値を決める世界。

 新世暦1555年。

 ここは、大陸の中央に位置する公国。

 俺、アイナル=サモンドールは、この国を統べる公爵家の三男として生を受けた。

 サモンドール家といえば、泣く子も黙る名門中の名門だ。

 神話の時代から157代も続く召喚士の系譜。

 人材派遣、魔獣の使役、農産業から傭兵業まで。この世界のインフラは、我が家の召喚スキルによって支えられていると言っても過言ではない。

 だが、光が強ければ影も濃くなる。


「……アイナル。いつまでそこに突っ立っているのだ?」


 氷のような冷たい声が大広間に響いた。

 声の主は、長兄のガリウス兄上。

 長髪の隙間から覗く視線は、俺をゴミを見るような目で見下ろしている。


「お、俺もサモンドール家の人間ですよ。今日は父上に呼び出されたのです」

「才能なき者が家格に縋りつく姿は……見ていて痛々しいな」


 兄上は、死霊と英霊を操るスペシャリスト。

 万の兵を指揮し、公国の軍事力を一手に担う『死の将軍』だ。


「あら、ガリウスお兄様。そう言ってはアイナルが可哀想ですわ」


 クスクスと笑うのは、長姉のミリア姉上。

 頭につけた猫耳のような髪飾りを揺らしながら、扇子で口元を隠している。


「アイナルが落ちこぼれなのではありませんの。私たちが優秀すぎるだけですわ」


 姉上は魔獣や幻獣の召喚を得意とする。

 数多の魔獣を従え、災害救助から希少生物の保護までこなす。ついたあだ名は『百獣の女王』だ。

 二人の言葉が、鋭いナイフのように俺の心に突き刺さる。

 言い返したい。でも、言い返せない。

 実績がないからだ。

 血統スキルにもある程遺伝があり、兄上や姉上のように優秀な血もあれば、俺のような存在もいる。

 基本的に召喚スキルを持つのはサモンドール家だけ。

 適正によってはスキルが進化したりするらしいが──


「アイナル!」


 雷のような怒声が轟く。

 玉座に座る父上──現サモンドール公爵が、不機嫌そうに髭を撫でた。


「貴様、また召喚の儀式に失敗したそうだな」

「父上。失敗ではありません」

「何?」

「俺だって……召喚は、できます」


 震える声で、精一杯の反論をした。

 父上の眉間には、深い皺が刻まれる。


「ならば今ここで見せてみろ。サモンドール家の血を引く者として、恥ずかしくない召喚をな!」


 広間に緊張が走る。

 兄上は俺を睨み、姉上は嘲笑の笑みを浮かべて俺を見ている。


(やってやる……!)


 俺は右手を突き出し、全神経を集中させた。

 体内の魔力を練り上げる。イメージするのは、俺の呼び声に応える『何か』。


「──来いッ!!」


 床に魔法陣が展開され、風が巻き起こる。

 眩い閃光が広間を包み込んだ。


「おお……!?」


 周囲の騎士たちがどよめく。

 光が収まると、そこには──


「……ん?」


 玉座に座っていたはずの父上が、魔法陣の上に立っていた。

 シーンと静まり返る大広間。


「……えっと、できましたよ?」


 俺がおずおずと言うと、父上の顔色がみるみるうちに真っ赤に染まる。


「き、貴様ァァァァッ!!」


 ドカンッ! と父上が床を踏み抜いた。


「私を召喚してどうするッ! 玉座からここまで、たった数メートル移動させただけではないか!」

「で、でも、対象を呼び寄せるのが召喚で……」

「黙れ! 召喚とは、こうやるのだ!」


 父上が手を振るう。

 途端に空間が裂け、全身フルプレートの重装騎士がズラリと五体、姿を現した。

 圧倒的な威圧感──これが、本物の召喚スキルだと見せつけられていた。


「お前のそれは、ただの『移動』だ! 召喚ですらない! 昔からそうだ。城の家具を出したり、猫を呼び出したり……そんな小手先の芸など、公爵家には不要!」


 父上の怒りは頂点に達していた。

 指を突きつけられ、非情な宣告が下される。


「アイナル=サモンドール。貴様は我が一族の恥だ。本日をもって破門とし、サモンドール家から追放する!」

「そんな、父上! 俺はまだ……!」

「父と呼ぶな! もはや親子ではない! 二度とその顔を見せるでない! 衛兵、叩き出せ!」


 ────

 ──


 王都の城門から放り出され、俺は平原をとぼとぼと歩いていた。


「……クソッ。クソッ!」


 石ころを蹴り飛ばす。

 悔しさが涙となって滲んでくる。

 俺だって努力した。

 魔導書を読み漁り、誰よりも魔力操作の訓練をした。

 でも、発現するのはいつも『近くのものを引き寄せる』程度の、ショボい召喚だけ。


「血統スキルだか何だか知らねえけどよ……才能がないってだけで、家族の縁まで切られるのかよ」


 サモンドール家の歴史は長い。

 一五七代も続けば、中には王様もいれば、平民や奴隷に落ちぶれた先祖だっていたって聞いたことがある。

 俺もその『ハズレ』の一人ってことか。


「ふざけんな……! 俺だって……俺だって!」


 衝動的に俺は叫んでいた。

 魔力が暴走する。


「誰でもいい! 俺の呼びかけに応える奴はいないのかよッ!!」


 その時、今までにない負荷が身体にかかった。

 全身の血液が沸騰するような感覚。

 俺の目の前の空間がねじれ、巨大な魔法陣が出現する。


「うおっ!?」


 眩い光と共に現れたのは、重厚な装飾が施された『扉』だった。

 金色に輝く、見たこともない扉。


(扉……?)


 ギィィィ……重々しい音を立てて扉が開く。

 中から現れたのは──


「──ふぅ。やっと繋がったわね」


 透き通るような銀髪に真紅の瞳。

 神々しいまでの美貌を持つ、一人の女性だった。

 胸元が大きく開かれた純白のドレスに身を包み、その背後には後光が揺らめいている。

 どこかで見たような気がするが。


「初めまして、でいいのかしら?」


 女性は優雅に微笑むと、俺の目の前まで滑るように歩み寄ってきた。

 そして、いきなりガバッと抱きついてくる。


「むぎゅぅ! 会いたかったわぁ〜!」

「ふごっ!? む、胸が……じゃなくて誰!?」

「あら、失礼。興奮しちゃったわ」


 彼女はパッと離れると、何もない空間から羊皮紙を取り出した。

 召喚スキル……って、ことはサモンドール家の人?

 そこには見覚えのある家系図が描かれている。


「私はエイシェ=サモンドール。あなたから見て四代前……高祖母にあたるわね」

「こ、高祖母……!? ひいひいばあちゃんってことか!? いや、でも若いし!」

「ふふ、当然よ。あなたのスキルは全盛期の肉体と精神を持った先祖を召喚する……規格外の血統スキルなんだから」


 先祖を召喚……? 聞いたこともないスキルだ。ていうか俺が召喚したのか。

 俺にもこんなスキルが……まさか進化か?


「冥界からずっと見ていたわ、アイナル。あなたの才能が開花するのを」

「俺の才能……?」

「ええ。あなたは自分を落ちこぼれだと思っているようだけど……とんでもない勘違いよ」


 エイシェさんはスッと目を細めた。

 その瞬間、空気が凍りついたような重圧が放たれる。


「創世の時代から続く召喚士の先祖を、全盛期の状態で具現化して使役する。しかも、召喚された私たちもまた、生前の召喚スキルを行使できる……これがどういうことか、わかる?」


 彼女が指をパチンと鳴らす。

 大地が震え、彼女の背後の空間から、無数の騎士たちが現れた。

 十、百、いや、千近い大軍勢。

 しかも全員が、父上が出した騎士よりも遥かに強そうなオーラを纏っている。


「な……っ!?」

「これが私の力。でも、これはあなたの力の一部に過ぎないわ。他にも色々ルールはあるけど、それは追々。スキルはまだ進化したばかりで不安定。まだ一人しか召喚できないけど、これからもっと強くなるわよ」


 軍勢を一瞬で消し去ると、彼女は再び優しく微笑んだ。


「改めて名乗るわ。私はエイシェ=サモンドール。かつてたった一人で魔王の軍勢を殲滅し、この国を建国した始祖。『救世』の二つ名を持つ聖女なり」

「救世の……聖女……!?」

「ええ。私がいる今なら、あんな見る目のない現当主など恐るるに足らず。アイナルを当主に据えることだって造作もない。どうする? 家に戻って、彼らを見返す?」


 エイシェさんは試すように小首を傾げる。

 俺は呆然と彼女を見つめた。

 建国した始祖。伝説の英雄。

 そんな人が、俺の味方だと言う。


「……なあ、ひいひいおばあちゃん」

「エイシェと呼びなさい♡」

「あ、はい……エイシェさん。名乗った時言ってた『国を作った』ってのはマジなのか?」

「はい。この世界はとても残酷で、実力だけが全てよ。残念だけどそれは、私の死後も変わらないようね」


 彼女の瞳に、冷徹な光が宿る。


「サモンドール家はね、元々は歴史の影で世界を支える『守り人』だったの。でも、私が魔王を倒して人が集まっちゃったから、面倒だけど国という形にしただけ……今の当主たちは、その『形』と『血筋』という名の既得権益に溺れているわ。力なき正義は無力よ」


 力なき正義は──無力。

 その言葉が、俺の胸に深く刺さった。


 そうか。俺が虐げられてきたのは、俺が悪かったからじゃない。

 ただ、力がなかったからだ。

 父上たちが威張り散らしているのは、偉いからじゃない。

 ただ、強いからだ。


「……努力してるのに、ただ才能がないだけで迫害される。血統だけが支配する世界ってんなら、俺が変えてやる」


 自然と、拳に力が入った。

 もう、誰かの顔色を伺って生きるのはごめんだ。

 俺は顔を上げ、エイシェさんを真っ直ぐに見つめた。


「こんなクソみたいな国は出て行く。世の中クソだ。俺は、あんたたち先祖と共に、俺がルールを作る『新しい国』を作る! 世界を支配してやるよ!」


 その言葉を聞いた瞬間、エイシェさんは花が咲くような満面の笑みを浮かべた。


「ふふ、いいわね。それでこそ私の可愛い玄孫──さあ、往きましょうか。国作りの始まりよ」

■エイシェ=サモンドール。

血統スキル:霊体召喚

レアリティ:金(SR)

生没年:新世暦1455年〜1517年(享年62歳)

生涯:サモンドール家153代当主の一人娘として誕生。

生来病弱だったが、召喚スキルの才は傑物と評された。

当時猛威を振るっていた魔王とその軍団を単身で討伐し、若くして世界崩壊の危機を救う。

その功績により、当時の国王から『聖女』の称号と、旧魔王領である王国の辺境を『サモンドール公国』として統治する権利を賜る。

夫に王国の第三王子を迎え入れ、二人の子を儲ける。

晩年は領地経営と後進の育成に尽力したが、新世歴1517年、持病の悪化により病没した。

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